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命をかける理由
しおりを挟む「もう、お止めください。全ての責任は私……ターニャが取りますので」
「そうか、キミの本当の名はターニャというのか。だが、ターニャの言う責任とは……?」
遂にシルヴィニアスは腰元の剣を抜いた。
それでも侯爵を殺させまいと、両手を広げて立ち向かい続けている。彼女の表情は殺されても良いと覚悟の決まったもので、剣を持つ彼を前にしても怯んではいなかった。
――ターニャは本気で侯爵を守ろうとしている。
懸命な彼女の姿を見た彼は、少しだけ殺気を抑えることにした。
「シルヴィニアス様を今まで騙していたのは、他でもないこの私です。婚約を破棄し、私の首をその剣で刎ねてくださっても構いません。……ですが、キャッツレイ侯爵家の皆さんをこれ以上咎めるのは、どうかお許しくださいませ」
「た、ターニャ!!」
「……侯爵は少し黙っていろ」
こんなにもハキハキと喋れたのかというほど、ターニャは流暢に話している。
周囲の者も驚いて目を丸くしているが、シルヴィニアスにとって今はそれどころではない。
「……ターニャ。むしろ君は被害者だろう。いくら拾われた恩があるからといって、そこまでする義理はあるのかい?」
侯爵とは違い、彼女に対しては終始優しい態度をとるシルヴィニアス。
だが手は剣に置いたままだ。誰かが不穏な動きをすれば、すぐさま切り捨てるつもりなのだろう。
「……家族だから」
「家族……? それは命を懸けるほどの理由なのか? もしも事前に、侯爵からそう言うように言われていたのなら……僕は君にも容赦をしない」
「――あの嵐の日、私は死を覚悟しました。それでも私は良かった。生きる意味も無く、親にも道具のように使われる毎日でしたので。……だけど!!」
ターニャは生みの親に名も与えられず、最低限以下の食事だけで働かされていた。
やがて衰弱して動けなくなった彼女は、壊れた玩具のように道端へ捨てられた。
彼女は本当ならあの日、あの場所で死んでいたはずだったのだ。
「それでも私を拾ってくれたキャッツレイ侯爵家のお陰で、こうして生まれ変わることができました! 私にも、大好きだと思える家族ができたんです!!」
侯爵はミーアの身代わりの為とはいえ、ターニャを二人目の娘として愛情を持って育ててくれた。
ミーアも妹のように可愛がり、毎日のように謝ってくれた。
ターニャはこの侯爵家に来たことで、家族が居ることの幸せを初めて知ったのだ。
それでもなお、シルヴィニアスは彼女が理解できなかった。
貴族の言う家族とは、いかに駒として利用できるかが重要なのだ。
父である王だって、自分の事を“神獣人”だから大事にしているだけ。
他の兄弟たちには目も向けず、愛情すら与えてこなかった。
それなのに、目の前の少女は家族のために命を捨てられるという。とてもじゃないが、自分では考えられない発言だった。
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