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1/6話 騎士団長、婚約破棄される。
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冷たい雨が、石畳を濡らしていた。
王都騎士団本部。訓練場の奥にある中庭にて、重苦しい沈黙が支配していた。見守る騎士や侍女たちは誰一人として口を開こうとせず、ただ濡れるのを避けるように身をすくめるばかり。
その中心に立つのは、騎士団長レオン・バルクハルトと、その婚約者だった貴族令嬢エリザベート。
「レオン様……申し訳ありません、と言いたいところですが……正直、もう限界なんです」
エリザベートの声音には哀れみすら浮かんでいない。あるのは、ただ自身の不快を言葉にする冷ややかさ。
「あなたの、その汗と……筋肉の匂いが、もう“野蛮”でしかなくて」
「そもそも、婚約してから一度も舞踏会に私をエスコートしてくださらなかったですし」
「貴族としての優雅さも、気遣いも、あなたには欠けているんです」
「筋肉なんて、下賤な者が身を守るために鍛えるもの。騎士団長にはふさわしくても、私の夫にはふさわしくありません」
「そもそも、あなたは元は平民でしょう? 伯爵とはいえ、家柄も違いますし……私の家の格にふさわしくありませんわ」
レオンは、黙っていた。
拳を握る。革の手袋がきしむほどに力を込めても、感情は押し殺されたまま。
その沈黙に、誰も声をかけることができなかった。
エリザベートは軽く礼をすると、そのまま振り返り、傘の下へと戻っていった。
中庭に残されたレオンの肩だけが、雨の中で静かに濡れていく。
(鍛えるのは、己の誇りのためだった。誰にも負けぬ力を持つことで、誰かを守れると思っていた。だが……その力が、誰かを遠ざけるものになるとは……)
その夜、訓練場。
雷鳴が響く空の下、レオンは一人、剣を振り続けていた。
濡れた髪が額に張りつき、鎧の隙間から滴る水が、静かに地面を打つ。
呼吸は荒く、吐息は白く。振るわれる剣が空気を裂く音だけが、夜の闇に刻まれていく。
「筋肉も……努力も……意味がなかったんだな」
誰にも届かぬ独白が、雷鳴と共に闇に消えていった――。
王都騎士団本部。訓練場の奥にある中庭にて、重苦しい沈黙が支配していた。見守る騎士や侍女たちは誰一人として口を開こうとせず、ただ濡れるのを避けるように身をすくめるばかり。
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「レオン様……申し訳ありません、と言いたいところですが……正直、もう限界なんです」
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レオンは、黙っていた。
拳を握る。革の手袋がきしむほどに力を込めても、感情は押し殺されたまま。
その沈黙に、誰も声をかけることができなかった。
エリザベートは軽く礼をすると、そのまま振り返り、傘の下へと戻っていった。
中庭に残されたレオンの肩だけが、雨の中で静かに濡れていく。
(鍛えるのは、己の誇りのためだった。誰にも負けぬ力を持つことで、誰かを守れると思っていた。だが……その力が、誰かを遠ざけるものになるとは……)
その夜、訓練場。
雷鳴が響く空の下、レオンは一人、剣を振り続けていた。
濡れた髪が額に張りつき、鎧の隙間から滴る水が、静かに地面を打つ。
呼吸は荒く、吐息は白く。振るわれる剣が空気を裂く音だけが、夜の闇に刻まれていく。
「筋肉も……努力も……意味がなかったんだな」
誰にも届かぬ独白が、雷鳴と共に闇に消えていった――。
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