6 / 6
6/6話 ちゃんと見ているから
しおりを挟む
式典の賑わいが去った王城の裏庭。
紅く染まりゆく空の下、レオンとミレイアが静かに並んで歩いていた。
「……初めてだった。否定されなかったのは」
ぽつりと落ちたレオンの言葉は、彼の背に陽が差して柔らかく見える。
「貴族になってからも、誰かに本当の意味で認められたことなんてなかった。強さも、筋肉も、努力も……ただ、笑われるだけだった」
ミレイアは彼を見上げ、笑った。
「それは見る目がない人たちの話。レオンさんの筋肉と中身、両方に惚れ込む人だって、ここにちゃんといるよ」
レオンは思わず立ち止まり、彼女を見つめる。
目が合うと、自然と頬が熱を帯びた。
「……お前は本当に……」
「なになに? 続き聞きたいなぁ」
レオンは気恥ずかしそうに咳払いし、再び歩き出す。
「……なぜだろうな。お前と話していると、不思議と呼吸がしやすい」
「それはきっと、私が騎士団の胃袋も心も掴んでるからじゃない?」
彼女の冗談にレオンは少し笑い、そして足を止める。
真っ直ぐな瞳で、ミレイアを見た。
「……ミレイア。俺と……一緒に暮らしてくれないか」
ミレイアの目がわずかに見開かれ、やがてふっと笑みが零れる。
「うーん、それってどういう意味かなぁ?」
「お前がそばにいると、俺は……強くなれる気がする」
その声は剣よりまっすぐで、どこまでも誠実だった。
「じゃあまずは、筋肉の部位ごとに愛でるルーティン作ろうか♪」
彼女の言葉に、レオンは面食らったように瞬きをする。
「……それはどういう意味だ」
「毎日違うところ愛でたいってこと。火曜日は上腕、木曜は腹筋……金曜は大腿四頭筋!」
耳まで真っ赤に染まったレオンは、うつむきながらぽつりと呟く。
「……お前は本当に……」
「ん~? 続き聞かせて?」
「……やっぱり、言わなくていい」
今のままで十分すぎるほど幸せだと、レオンは思った。
石垣の裏、団員たちの声がひそひそと聞こえる。
「団長……ご武運を……」
「これもうプロポーズでいいでしょ」
「週末の筋肉が無事であることを祈る……」
ミレイアは楽しそうに笑い、その声は夕暮れの空へと溶けていった。
レオンの背中はいつもより少しだけ、やわらかく丸く見えた。
強さとは、誰かに肯定されることで、初めて意味を持つものなのかもしれない。
筋肉と姉御と、少しだけ不器用な恋のはじまりは、こうして静かに幕を上げた。
★あとがき★
筋肉と胃袋と恋が交差する、そんな物語はいかがでしたか?
彼女の笑顔と、彼の不器用な優しさが、少しでも皆さまの胸に響いていたら幸いです。
――それでは、またどこかの物語でお会いしましょう!
紅く染まりゆく空の下、レオンとミレイアが静かに並んで歩いていた。
「……初めてだった。否定されなかったのは」
ぽつりと落ちたレオンの言葉は、彼の背に陽が差して柔らかく見える。
「貴族になってからも、誰かに本当の意味で認められたことなんてなかった。強さも、筋肉も、努力も……ただ、笑われるだけだった」
ミレイアは彼を見上げ、笑った。
「それは見る目がない人たちの話。レオンさんの筋肉と中身、両方に惚れ込む人だって、ここにちゃんといるよ」
レオンは思わず立ち止まり、彼女を見つめる。
目が合うと、自然と頬が熱を帯びた。
「……お前は本当に……」
「なになに? 続き聞きたいなぁ」
レオンは気恥ずかしそうに咳払いし、再び歩き出す。
「……なぜだろうな。お前と話していると、不思議と呼吸がしやすい」
「それはきっと、私が騎士団の胃袋も心も掴んでるからじゃない?」
彼女の冗談にレオンは少し笑い、そして足を止める。
真っ直ぐな瞳で、ミレイアを見た。
「……ミレイア。俺と……一緒に暮らしてくれないか」
ミレイアの目がわずかに見開かれ、やがてふっと笑みが零れる。
「うーん、それってどういう意味かなぁ?」
「お前がそばにいると、俺は……強くなれる気がする」
その声は剣よりまっすぐで、どこまでも誠実だった。
「じゃあまずは、筋肉の部位ごとに愛でるルーティン作ろうか♪」
彼女の言葉に、レオンは面食らったように瞬きをする。
「……それはどういう意味だ」
「毎日違うところ愛でたいってこと。火曜日は上腕、木曜は腹筋……金曜は大腿四頭筋!」
耳まで真っ赤に染まったレオンは、うつむきながらぽつりと呟く。
「……お前は本当に……」
「ん~? 続き聞かせて?」
「……やっぱり、言わなくていい」
今のままで十分すぎるほど幸せだと、レオンは思った。
石垣の裏、団員たちの声がひそひそと聞こえる。
「団長……ご武運を……」
「これもうプロポーズでいいでしょ」
「週末の筋肉が無事であることを祈る……」
ミレイアは楽しそうに笑い、その声は夕暮れの空へと溶けていった。
レオンの背中はいつもより少しだけ、やわらかく丸く見えた。
強さとは、誰かに肯定されることで、初めて意味を持つものなのかもしれない。
筋肉と姉御と、少しだけ不器用な恋のはじまりは、こうして静かに幕を上げた。
★あとがき★
筋肉と胃袋と恋が交差する、そんな物語はいかがでしたか?
彼女の笑顔と、彼の不器用な優しさが、少しでも皆さまの胸に響いていたら幸いです。
――それでは、またどこかの物語でお会いしましょう!
873
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。
百谷シカ
恋愛
「君には『華』というものがない。そんな妻は必要ない」
いるんだかいないんだかわからない、存在感のない私。
ニネヴィー伯爵令嬢ローズマリー・ボイスは婚約を破棄された。
「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは」
父も私を見放し、母は意気消沈。
唯一の望みは、年末に控えた王家主催の舞踏会。
第1王子フランシス殿下と第2王子ピーター殿下の花嫁選びが行われる。
高望みはしない。
でも多くの貴族が集う舞踏会にはチャンスがある……はず。
「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて離婚する」
父は無慈悲で母は絶望。
そんな私の推薦人となったのは、ゼント伯爵ジョシュア・ロス卿だった。
「ローズマリー、君は可愛い。君は君であれば完璧なんだ」
メルー侯爵令息でもありピーター殿下の親友でもあるゼント伯爵。
彼は私に勇気をくれた。希望をくれた。
初めて私自身を見て、褒めてくれる人だった。
3ヶ月の準備期間を経て迎える王家主催の舞踏会。
華がないという理由で婚約破棄された私は、私のままだった。
でも最有力候補と噂されたレーテルカルノ伯爵令嬢と共に注目の的。
そして親友が推薦した花嫁候補にピーター殿下はとても好意的だった。
でも、私の心は……
===================
(他「エブリスタ」様に投稿)
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……
王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした
er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
読んで痛快でした!私も筋肉フェチなので凄く共感でした!動く筋肉💪素敵です!
ああ〜2人の関係の続きが読みたい!
筋肉を愛するいいですね