【完結】甘噛みされて離れられない!?牢獄から始まるヴァンパイア皇子の愛玩支配~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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第2話 黄金の瞳に映る涙

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 調教という名の儀式が終わり、私の身体は床に崩れ落ちていた。火照りと痛みの波が交互に押し寄せる中、目を閉じても眠りは訪れない。冷たい石の感触が背中に伝わり、現実を突きつけてくるだけだった。薄暗い天井の模様をぼんやりと眺めながら、ただ息をして生きている自分を持て余していた。その一方で、ほんのかすかな希望——終わりの先に訪れる何かを夢想する自分もいた。

 その時、不意に気配を感じた。冷たい空気がわずかに動き、かすかに血の香りが鼻をかすめる。誰かの視線が針のように突き刺さる感覚は、もう慣れてしまったものだったけれど、今日は少し違った。

(また来たわね……)

 鉄格子の向こうに、あの黄金の瞳がじっとこちらを見つめていた。ヴラド第二皇子。恐怖と後悔に揺れる表情を隠しきれず、ただ立ち尽くしている。両手を握りしめ、小さく震えるその姿が、かえって胸に刺さる。

「……そんなに見られていたら、眠れないんだけど」

 弱々しく口を開いた私の声に、彼はハッと目を見開き、慌てて目を逸らした。その耳の先が赤く染まっているのが見えて、少しだけ口元が緩む。

「ごめん……本当に……」

 小さな手が震えながら鍵を持ち、ぎこちなく牢の扉を開ける音が響いた。金属の軋む音が、静かな空間に重く沈む。その音は、彼自身の覚悟のなさを責めるように響いている気がした。

「何? ついにあなたも“御主人様”としての務めを果たしに来たの?」

 皮肉交じりに言うと、ヴラドは苦しげに顔を歪めた。喉元で言葉を詰まらせ、唇を噛んでいる。その目に、兄への恐怖と、血を吸うことへの本能的な恐れが交錯しているのが見て取れた。

「違う……僕は、ただ……謝りたくて……でも、それじゃ何も変わらないってわかってる……」

 私は目を細めて彼を見つめた。小さくて儚げなその姿は、恐ろしいヴァンパイアというより、迷子の子犬のようだった。何もできない自分を責めているその瞳が、痛々しいほどに純粋で眩しい。けれど、どこかに決意の種が芽吹いているようにも感じられた。

「謝るくらいなら、せめて私に一つだけお願いを聞いてくれない?」

「……え?」

「私の血を、少しだけ……飲んで」

 ヴラドの表情は一瞬にして凍り付いた。驚きと恐れ、混乱と羞恥。彼の中で、葛藤と恐怖が渦を巻く音が聞こえてくるようだった。小さな肩が震え、唇がわずかに開きかけて、また閉じられる。

「ぼ、僕が……? そんなこと、できるわけが……」

 彼はかすれた声で絞り出すように言った。私はゆっくりと上半身を起こし、傷だらけの手を差し伸べる。

「怖い? でもね、ヴラド。あなたが一歩を踏み出さない限り、きっと何も変わらないわ」

 ヴラドは涙をこぼしそうになりながらも、ゆっくりとこちらに近付いてきた。その動きは恐ろしく慎重で、まるで硝子細工に触れるような繊細さだった。その姿に、私は未来が変わる兆しを感じた。

「……本当に、いいの?」

 私は小さく頷く。そしてそっと首筋を差し出した。

「私の名はレイラ。……あなたになら、許せる気がするの」

 彼の瞳が深く揺れ、ついに決意の光を灯した。小さな口が、そっと私の肌に触れる。冷たく柔らかい感触の後に、微かに鋭い痛みが走った。その瞬間、私はほんの少しだけ笑みを浮かべた。痛みの中で、不思議と心が温かくなる感覚があった。——この瞬間が、きっと未来の始まりなのだと確信していた。
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