魔性の王と奴隷契約 〜世界を救った聖女ですが、結婚予定の勇者に乗り移った魔王に溺愛されて困っています~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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1-3 祝勝会にて

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「良くやってくれた、勇者たちよ。これで我が国……いや、世界中すべての国に平和が戻った。この偉業を果たしたのが我が国の王子と民たちであることを、余は誇りに思うぞ」

「「「「勿体なきお言葉」」」」

 母国であるルネイサス王国へと帰還した勇者たち四人は、王城にて国王へと報告を行っていた。
 彼らを支援し、幼き頃より育ててきたフレイ王は立派に蓄えられた顎髭を揺らしながら、無事に務めを果たしてきた英雄たちを労う。

「して、此度のことで褒美を与えたいが……勇者。お主は何を望むか」

 労うには言葉だけでは足りないだろう。
 何と言っても、世界を救ったのだから。
 臣下たちに己の寛大さを示すためにも、国王は玉座の上から言葉を投げる。

 勇者レオナルドは少しだけ逡巡すると、跪いた姿勢のまま王の質問に答えた。

「――私はこのあと、未だ世界に蔓延り続けている魔王の眷属を掃討するための旅に出たいと考えております。ですので、陛下にはその許可をいただきたく。人類の敵であるモンスターたちをこの世界から一匹残らず駆逐し、民の安全を守ることこそが勇者である私の使命ですので……」

 本来なら爵位や金品を要求しても罰は当たらないレベルの功績だが、レオナルドは勇者としての役目をこれからも果たしたすことを望んだようだ。
 フレイ王も彼の勇者としての模範的な回答に、大変満足そうに何度も頷いた。

「はっはっは!! その心意気や、見事である!! お主はまさに勇者の鑑だな。――よかろう。余も其方の意思を尊重し、出来る限りの支援を致そうではないか」
「はっ、ありがたき幸せ」

 見事、王の許しを得たレオナルドは更に頭を低くすることで感謝の意を示す。
 周囲に控えていた王の臣下たちも、思わず心の中で彼に拍手を送っていた。

「ふふふ、よいよい。さて、次だが……よし、聖女はどうする?」
「はい。私も先代聖女である母の元で、教会の仕事を続けたいと思っております。魔王は斃れど、未だ心の癒えぬ民達は多いはず。聖女としてみなの平穏を祈り、私の魔法で癒して差し上げたいのです」

 聖女の落ち着き払った声が、それを聞いた者の心に染み渡っていく。
 彼女の美しい容姿も相まって周りからは女神の化身だと言われているが、何よりもその民を本心から想う優しさが彼女の魅力だと言えるだろう。

 前世では普通の主婦だったモナだが、世界が変われば人も変わるのかもしれない。
 今の生ではすっかり聖女としての振る舞いが板についていた。

「ふむ……こちらもさすが聖女と言ったところか。確かに民たちの傷付いた心は金や力では癒せぬだろう。よし、それも出来る限りの支援を致す」
「陛下の寛大な御慈悲に、心より感謝を」

 彼女は貴族ではないのでカテーシーではなく、教会お決まりの祈りのポーズで王に謝意を伝えた。

 理想通りの応対が続き、次の者にも期待が高まるというもの。
 だがモナの隣りに居たのは王が一番良く知っている顔であり、同時に彼の長年の悩みの種を抱えている人物だった。

「うむうむ。……で、だ。次は我が息子、ミケラッティオだが……」

 若干不安そうな面持ちの王に反して、ニコニコ顔で待っている王子ミケ。
 彼は自分の番が来たとばかりに、意気揚々と口を開いた。

「……はっ。僕も王族の一員として、世のため人のために何かをしたい所存。――と言いたいところですが、所詮は末っ子の王子。ぶっちゃけ兄上のスペア扱いですしね。そもそも僕には剣の能しかないんだし、騎士団に入って精々そちらで役に立ちたいと思います」

 自虐のような発言だが、これは彼も考えた末の希望だった。
 いくら英雄だからといって、不死ではない。
 魔王の次の怖いのは人間なのだ。
 下手に調子に乗って王位を狙いなんてしたら後ろ盾のない彼はあっという間に亡き者にされるだろう。
 身の丈をしっておくことは長生きの秘訣である。

「……あれだけ悪ガキで兄たちに嫉妬ばっかりしていたお前が、よくぞここまで立派に成長したな。余の愛する息子、ミケよ。お前のことは王ではなく、親として誇りに思うぞ」
「ははは、何だか恥ずかしいな。……ありがとうございます、父上」

 王族としてあまり普段から家族の交流が出来ない彼らだが、決して愛情が無いわけではない。
 それぞれが立派に務めを果たすことで、お互いを守っているのだ。

「さて、最後だが……」
「はいはーい!! アタシはお金!! お金がいいでーす!」
「ちょっと、リザ!! 貴女なんてことを!!」

 姉であるモナが止める間もなく、遠慮の無い発言をする魔法使いのリザ。
 天真爛漫過ぎて空気の読めないところがあり、これまでの流れをぶった切ってしまった。
 双子の姉妹であるのに、控えめで淑やかな姉とはまったく正反対の性格だ。

「ふふふ。リザは相変わらず素直で気持ちが良いな。――よかろう。リザだけでなく、そなたら全員には十分な報酬を与える。あぁ、そうだ。もうすぐ開催される女神祭に合わせて、国を挙げた盛大な祝勝会を行う予定だ。そちらも合わせて楽しみにしておくがよい」
「やったぁー!! 王様、太っ腹~!!」
「リザ!!」
「よいよい。今日はめでたい日じゃ。余も今から頭上にある重たい冠を外し、この国の民として思う存分飲み明かすぞ!! ハッハッハ!!」

 リザのとんでもなく不敬な発言も、今日ばかりは許されたようだ。
 王の気前の良い計らいに勇者たち四人は顔を見合わせ、ニッコリと微笑んだ。





 ◇


「「「「我らが偉大なる王に多大なる感謝を」」」」

 報酬を受け取った聖女たちは王都にある、行きつけの宿屋兼酒場で祝杯をあげていた。
 王子もこの小汚い場末の飲み屋には慣れたもので、安くて温いエールを勢いよくゴクゴクと、美味しそうに飲み干していく。周囲の客もここに王族が紛れていることなぞ気に留めている様子もない。

 王の御前ではあんなに淑やかだった聖女も、ここではこんがりと焼きあげられた骨付き肉を手掴みのままモグモグと頬張り、水で薄められたワインをカポカポと飲んでいる。
 教会の関係者が見たら咎められそうな光景だが、モナいわく『これは般若湯(薬用酒)扱いだから大丈夫』らしい。

 聖女だって常に教会の気の張る厳しい環境よりも、本当はこっちの自由な気風が性に合っていた。
 妹のリザなんて、最初から教会の生活は嫌だと言って魔法使いへの道を選んだほどだった。


 お腹もくちくなり、酔いもほどほどに回り始めた頃。
 レオが急に椅子から立ち上がったかと思えば、神妙な表情で語り始めた。

「なぁ、みんな。これまでの長い旅、本当にお疲れさまだった」
「どうしたのよレオ。いきなりそんな真面目な顔であらたまっちゃって……」

 モナは空になった三本目のワインボトルを置いて、珍しい言動をしているレオのことをまじまじと覗きこむ。
 たしかに彼もいつもよりお酒を飲んでいたが、普段から酔ったところなんて見たところがない。
 他の面々も食べる手を止めてレオの次なる言葉を待った。

「魔王討伐も無事に終わり、俺たちは別々の道を歩むことになるかもしれない。だけどこれで俺たちの縁は終わりじゃないだろう? だから時間が合う時はこれからもこうして、ここに集まって酒を飲もうじゃないか」
「……なによ、レオ。そんなことを態々言いたかったわけ?」

 てっきり何か重大な発表をするのかと思い、実は内心でハラハラしていたモナ。
 この幼馴染は時々ふらっと何処かへ行ってしまいそうな雰囲気を出すことがあるので、彼女はどうしても不安だったのだ。折角これから愛を育もうと思った矢先、彼に失踪でもされたらたまったもんじゃない。

 一方のレオは「えへへ」と頭をガシガシ掻いて照れている。
 能天気というか、そのメンタルの強さも勇者らしい。

「いいじゃないか、モナ。これでこそレオらしいよ。もちろん、僕も賛成だよ。むしろ王子だからって僕を除け者なんかにしたら、キミたちを不敬罪でしょっ引くからね?」
「アタシも大歓迎ー。ていうか飲み屋なら毎日いるかも?」
「こら、アンタはちゃんと帰って来なさい。お母さんがまた心配するでしょうに」
「えへへ、ごめーんお姉ちゃん」

 なんてことはない。
 魔王討伐の旅が終わっても、これまで通りの生活が続いていくに違いない……。
 モナはホッと胸を撫で下ろし、次のワインボトルの蓋を開けた。


 そんな和気あいあいと盛り上がっている四人のもとに、赤ら顔をしている大柄な男が空気も読まずにズカズカとやってきた。
 片手には空になった酒瓶が掴まれており、身形も何日も風呂に入っていない山賊のようだ。

「ふへへへ。お前ら、随分と楽しそうに飲んでんじゃねぇか……俺様にもその旨そうな酒を分けてくれよっ!!」

 そんな不潔感の塊のような男はゴロツキのようなセリフを吐きながらフラフラと勇者に近付くと、馴れ馴れしく彼の肩を抱いた。
 勇者に対してそんな命知らずなことをする輩など、少なくともこの酒場の常連なら誰も居ないだろう。
 だが、たった一人だけ例外が居た。

「「「師匠!!」」」
「あっ、ヴィンチ!」

「よぉ、良くやったなお前たち! 戦い方を教え始めた時はあんなひよっこだったってのに、気付けばこんなに立派になっちまってよぉ!」

 リザにヴィンチと呼ばれた男はレオの背中をバンバンと叩きながら、弟子たちの偉業を喜んでいる。
 モナたちもテーブルにスペースを空け、友人を迎えるかのように彼のための椅子を準備した。

「ごほっ、師匠。痛いですって、本気で叩かないでくださいよ!」
「ばかやろー、俺様が本気で叩いたら勇者だってワンパンだろうが。なんたって、俺様は勇者の師匠なんだからな!! がはははは!!」
「まったく、飲み過ぎですよ師匠……」
「なぁにを言ってる。俺様が手塩にかけて育て上げた弟子が偉業を成し遂げたんだぜ!? これが飲まずにいられるかってんだよ」

 そんなことを言いながら、四人のうちの誰かが注文しておいたエールを勝手に飲み干してしまった。
 だが、この弟子四人はこの師匠がお祝いなど関係なく、日ごろから常に飲んだくれていることを知っている。
 どれだけ止めさせようとしたって無理なのはもう分かっているので、リザは諦めて空いているカップに温いエールを注いで手渡した。

「おぉ、悪ぃなリザ。ククク、それじゃあ最高にクソ野郎な弟子どもに乾杯すっぞ!! よっしレオ、音頭とれ音頭!!」
「はぁ……もう無茶苦茶なんだから……はいはい、みんな。師匠にも乾杯っ!!」
「「「「かんぱーいっ!」」」」

 こうして五人の英雄たちは、何度目かも分からない乾杯を繰り返していく。
 辛かった修行の日を笑いながら。救えなかった民をしのびながら。
 だが命懸けの戦いの日々はもう、終わったのだ。
 これから彼らを待っているのは笑い声の溢れる、明るく楽しい日常だ。

 魔王が倒された今、こうした平和な時がいつまでも続いていくはず。


 だがしかし。
 彼らの知らないところで、新たな脅威はすぐそこにまで迫ってきていた。
 ――そう。世界を巻き込む崩壊への幕は、既に切って落とされていたのだった。


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