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1-4 崩壊への序曲
しおりを挟むそれは祝勝会があった夜、その帰り道での出来事だった。
「ねぇ、レオ。貴方……何か隠し事をしていない?」
まだ残って飲むのだと言って聞かない妹をこともあろうか王子に任せ、さっさと帰途につくことにしたモナとレオ。
だが向かった先は家では無かった。
彼女は少し話したいことがあると言って、人影の居ない教会裏の墓地に勇者を誘った。
だがそれは決して、逢引きのような甘い雰囲気では無かった。
「急に何を言い出すと思ったら……俺に隠し事だって? あはははっ。そんなものあるワケ無いじゃないか」
月の明かりに照らされて、レオの銀糸の髪が流星のようにさらりと流れる。
いつもは太陽のように明るい微笑みを向けてくれる幼馴染が、今夜は何故かゾクっとするほどに妖しいオーラを纏っている。
(レオってこんなに整った顔をしていたっけ……? まるで人形みたい)
だけどこのまま引くわけにはいかない。
引いてしまったら大事な幼馴染が消えてしまうような、そんな予感がするのだ。
「なぁ、モナ。こうして魔王も無事に討伐したんだ。この機会に、俺と一緒にならないか?」
(――やられた。誤魔化された上に、先手を取られちゃった……)
そもそも勇者としての役目が終わったら結婚する、というのは幼少の頃に交わしたレオとの約束だった。
なにせ誰かが命を落としても、なんら不思議ではない危険な旅なのだ。
過度な期待はしないように心の宝箱に大事にしまっておいた、大切な恋心。
それを勇者がカギを持ってこうして開けに来たのだから、モナとしても嬉しくない訳がない。
普段の聖女であれば嬉し涙を浮かべながら、一目散にレオに抱き着いていたであろう……。
だが明らかにレオは何かを隠している。
飛び出しだしたくなる気持ちを押さえつけ、意を決して再び問いかけた。
「私は真面目に聞いているのよ、レオ。貴方、魔王を倒してから何だか様子がおかしい。それにそんな女を口説くような言い方、全然貴方らしくもないわ」
天真爛漫で無邪気なレオは、言葉で他人の心を測るようなことをするようなことは決してしない。
良くも悪くも真っ直ぐで、誰からも愛されるような典型的なヒーロー。
モナが好きになったレオナルドとは、そういう男だったはずなのだ。
それが今、目の前に居るこの男からは奇妙な魔力を感じる。
なんだかどこかで感じたことのある――そう、つい最近どこかで……
「なぁんだ、もう気付かれちゃったかぁ」
「どういうこと。……ッ!? 貴方、まさか!!」
レオの口が三日月のようにニイ、と弧を描く。
彼のこんな邪悪な顔なんて、一度も見たことが無い。
「そう、俺の名はサルバトーレ=ウルティム。正義を騙るお前ら勇者によって討たれた――魔王だ」
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