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2-4 メルロー子爵領邸にて
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「ようこそ、いらっしゃいました勇者様、聖女様!」
「お邪魔しますね、メルロー子爵」
「一泊ですが、お世話になります」
立派なヒゲを蓄えたダンディな中年の紳士がにこやかな笑顔で二人を迎える。
最初の街についたモナとウルは、この周辺を治めるメルロー子爵の屋敷に来ていた。
実は一度この街へは魔王討伐のために来ていたことがあり、この当主であるメルロー子爵とも面識があった。
前回もこの屋敷で泊まらせてもらったことがあるが貴族だからといって高圧的な態度をとることも無く、平民にも親しみやすい態度をとる彼にモナは好感を持っていた。
「いやぁ、まさかまた我が屋敷で英雄を歓迎できるとは思いませんでしたぞ!」
「またまた。子爵はお口が上手いんですから……」
「そんなことはない。まったくの事実ですよ、なぁシャルドネ?」
「……そうですね、お父様」
テンションの高い子爵とは打って変わって、彼の一人娘であるシャルドネ嬢は素っ気ない返事を返す。
金色のウェーブの掛かった長い髪に質の良いワインレッドのドレスを身に纏っている。目付きは鋭いが、美人寄りのとても品の良いお嬢様だ。
しかし見ての通り、どうやら今は虫の居所が悪いらしい。
子爵は今年で十五になると言っていたので、もしかしたら難しい年頃なのかもしれない。
「こら。せっかくお二人が我が領を訪ねてくださったのだからキチンと挨拶をしなさい!」
「……この度は戦勝、おめでとうございます。わたくしは少し気分が悪いので、これで失礼いたしますわ」
「おいっ、シャルドネ!? なにを勝手なことを!! ……ったく、すみません。普段はあんな子じゃないのですが」
「いえ、急にお訪ねした私たちが悪いのですから」
平民がアポなしで貴族の屋敷を訪れたって、普通は門前払いされて終了だ。
それがいくら国を代表する勇者で、すでに準貴族扱いをされていても失礼にあたる。
「いえいえ。我が家はいつでも歓迎しますよ。そうだ! 折角ですし夕食でも召し上がって言ってください。我が領特産の絶品のワインもありますので」
「やったー!! もちろん、いただきます! ね、ウル!?」
「え? あぁ、うん……いいのかな本当に」
美味しいものはなんでも大好きなモナが、この誘いに乗らない訳が無い。
もともとこの街に来た時からワインを飲む気満々だったのだ。
飲みたすぎて、街に漂うワインの香りを嗅ぎながらここまで来たほどなのだから。
さっそく案内された食堂で、豪華な食事を摂りながら歓談をする。
子羊のソテーにブドウソースを合わせたものやワイン煮込みなど、この領ならではの料理に舌鼓を打つ。
もちろん、普段飲んでいるような安いワインではなく、高級そうなワインを出してくれていた。値段なんて想像もつかないが、口当たりの良いテイストにハマってしまったモナは遠慮も無くグイグイと飲んでいた。
かたやウルは何処で覚えたのか、テーブルマナーも守りながら上品に味わっていた。
だがいつもより食が進んでいたので気に入ったのは確かだろう。
そんな二人を見て子爵も嬉しそうにしていた。
「ところで、何かお困りのことはありませんか? お礼という訳では無いですが、今回の遠征では周辺のモンスターの掃討を行なっておりますので」
「そうですね……実は最近、この街の農園のブドウを狙うイノシシ型のモンスターが出没していまして。狩人を雇って対策をしているんですが、キリがなくて……」
「それは許せない!! ウル、そのイノシシを根こそぎ駆除するわよ!」
「そうだな、この良質なワインを護る為に俺たちも動かざるを得まい」
酔っ払っているのか、モナは赤ら顔でテーブルに前乗りになって答えた。
冷静なウルですら、グラスのワインをクルクルと回しながらにこやかに肯定した。
よっぽどここのワインが気に入ったのだろう。
「それはありがたい! 勇者様たちが居れば瞬く間に解決するでしょう! 頼りにしておりますぞ! ささ、こちらの数年物のワインも召し上がってくだされ」
「へへへ、ありがとうございます!」
「モナ……キミはもう少しレディーらしくした方が良いんじゃいないのか?」
「そんなお腹も膨れないモノのために我慢するなんて、美味しいものへの冒涜だわ!」
「ははは、まさにその通り!! このメルローの美食を存分に味わっていってくだされ。なんなら、この地に住んでくださってもいいですぞ。はははは!!」
自分の領の特産を褒められて気分が良いのか、子爵のワイングラスもすぐに空になる。
結局この晩餐で三人はワインボトルを何本も空けてしまい、モナと子爵はデロンデロンに酔っ払っていた。
なお、一方のウルはどれだけ飲んでも泥酔することはないらしく、ケロっとしていた。
宴もたけなわ。
夜更けになり、楽しい晩餐も終わりを迎えた。
それぞれ案内された部屋で、次の日のイノシシ型モンスター討伐のために休息を取っていた。
「ふぅ……さすがに飲み過ぎたわね。ちょっとだけ気持ち悪い……。んん、お水貰っておけば良かったわ」
あてがわれたのは豪華な部屋だが、彼女にはこういう時どうしたら良いのかが分からない。
テーブルの上にはベルらしき呼び鈴がある。だが、もともとの性格が気弱である彼女にとって、たとえ使用人でも誰かを呼びつけるというのは気が引ける。
ましてや理由は酔い過ぎたから、だなんて恥ずかしすぎる。
「廊下に誰か居ないかな……最悪ウルに助けてもらおう」
マナー的にあまり良くないとは分かっていつつも、酔いで回らない頭では他に良案も思い浮かばない。
そろりと扉を開けて廊下を眺めてみるが、誰かが通る気配はない。
仕方なく廊下に出て、隣りの部屋に居るはずのウルを呼ぶことにした。
「……誰か他の人が居る?」
もう夜の遅い時間だというのに、どうやら彼の部屋に誰かが居るようだ。
ゆっくりと音が出ないように入り口を空けて覗いてみると……。
「えっ、なんでウルの部屋に!?」
モナの視界に入ったのは部屋の中でウルと抱き合うメルロー子爵の愛娘、シャルドネ嬢だった。
「お邪魔しますね、メルロー子爵」
「一泊ですが、お世話になります」
立派なヒゲを蓄えたダンディな中年の紳士がにこやかな笑顔で二人を迎える。
最初の街についたモナとウルは、この周辺を治めるメルロー子爵の屋敷に来ていた。
実は一度この街へは魔王討伐のために来ていたことがあり、この当主であるメルロー子爵とも面識があった。
前回もこの屋敷で泊まらせてもらったことがあるが貴族だからといって高圧的な態度をとることも無く、平民にも親しみやすい態度をとる彼にモナは好感を持っていた。
「いやぁ、まさかまた我が屋敷で英雄を歓迎できるとは思いませんでしたぞ!」
「またまた。子爵はお口が上手いんですから……」
「そんなことはない。まったくの事実ですよ、なぁシャルドネ?」
「……そうですね、お父様」
テンションの高い子爵とは打って変わって、彼の一人娘であるシャルドネ嬢は素っ気ない返事を返す。
金色のウェーブの掛かった長い髪に質の良いワインレッドのドレスを身に纏っている。目付きは鋭いが、美人寄りのとても品の良いお嬢様だ。
しかし見ての通り、どうやら今は虫の居所が悪いらしい。
子爵は今年で十五になると言っていたので、もしかしたら難しい年頃なのかもしれない。
「こら。せっかくお二人が我が領を訪ねてくださったのだからキチンと挨拶をしなさい!」
「……この度は戦勝、おめでとうございます。わたくしは少し気分が悪いので、これで失礼いたしますわ」
「おいっ、シャルドネ!? なにを勝手なことを!! ……ったく、すみません。普段はあんな子じゃないのですが」
「いえ、急にお訪ねした私たちが悪いのですから」
平民がアポなしで貴族の屋敷を訪れたって、普通は門前払いされて終了だ。
それがいくら国を代表する勇者で、すでに準貴族扱いをされていても失礼にあたる。
「いえいえ。我が家はいつでも歓迎しますよ。そうだ! 折角ですし夕食でも召し上がって言ってください。我が領特産の絶品のワインもありますので」
「やったー!! もちろん、いただきます! ね、ウル!?」
「え? あぁ、うん……いいのかな本当に」
美味しいものはなんでも大好きなモナが、この誘いに乗らない訳が無い。
もともとこの街に来た時からワインを飲む気満々だったのだ。
飲みたすぎて、街に漂うワインの香りを嗅ぎながらここまで来たほどなのだから。
さっそく案内された食堂で、豪華な食事を摂りながら歓談をする。
子羊のソテーにブドウソースを合わせたものやワイン煮込みなど、この領ならではの料理に舌鼓を打つ。
もちろん、普段飲んでいるような安いワインではなく、高級そうなワインを出してくれていた。値段なんて想像もつかないが、口当たりの良いテイストにハマってしまったモナは遠慮も無くグイグイと飲んでいた。
かたやウルは何処で覚えたのか、テーブルマナーも守りながら上品に味わっていた。
だがいつもより食が進んでいたので気に入ったのは確かだろう。
そんな二人を見て子爵も嬉しそうにしていた。
「ところで、何かお困りのことはありませんか? お礼という訳では無いですが、今回の遠征では周辺のモンスターの掃討を行なっておりますので」
「そうですね……実は最近、この街の農園のブドウを狙うイノシシ型のモンスターが出没していまして。狩人を雇って対策をしているんですが、キリがなくて……」
「それは許せない!! ウル、そのイノシシを根こそぎ駆除するわよ!」
「そうだな、この良質なワインを護る為に俺たちも動かざるを得まい」
酔っ払っているのか、モナは赤ら顔でテーブルに前乗りになって答えた。
冷静なウルですら、グラスのワインをクルクルと回しながらにこやかに肯定した。
よっぽどここのワインが気に入ったのだろう。
「それはありがたい! 勇者様たちが居れば瞬く間に解決するでしょう! 頼りにしておりますぞ! ささ、こちらの数年物のワインも召し上がってくだされ」
「へへへ、ありがとうございます!」
「モナ……キミはもう少しレディーらしくした方が良いんじゃいないのか?」
「そんなお腹も膨れないモノのために我慢するなんて、美味しいものへの冒涜だわ!」
「ははは、まさにその通り!! このメルローの美食を存分に味わっていってくだされ。なんなら、この地に住んでくださってもいいですぞ。はははは!!」
自分の領の特産を褒められて気分が良いのか、子爵のワイングラスもすぐに空になる。
結局この晩餐で三人はワインボトルを何本も空けてしまい、モナと子爵はデロンデロンに酔っ払っていた。
なお、一方のウルはどれだけ飲んでも泥酔することはないらしく、ケロっとしていた。
宴もたけなわ。
夜更けになり、楽しい晩餐も終わりを迎えた。
それぞれ案内された部屋で、次の日のイノシシ型モンスター討伐のために休息を取っていた。
「ふぅ……さすがに飲み過ぎたわね。ちょっとだけ気持ち悪い……。んん、お水貰っておけば良かったわ」
あてがわれたのは豪華な部屋だが、彼女にはこういう時どうしたら良いのかが分からない。
テーブルの上にはベルらしき呼び鈴がある。だが、もともとの性格が気弱である彼女にとって、たとえ使用人でも誰かを呼びつけるというのは気が引ける。
ましてや理由は酔い過ぎたから、だなんて恥ずかしすぎる。
「廊下に誰か居ないかな……最悪ウルに助けてもらおう」
マナー的にあまり良くないとは分かっていつつも、酔いで回らない頭では他に良案も思い浮かばない。
そろりと扉を開けて廊下を眺めてみるが、誰かが通る気配はない。
仕方なく廊下に出て、隣りの部屋に居るはずのウルを呼ぶことにした。
「……誰か他の人が居る?」
もう夜の遅い時間だというのに、どうやら彼の部屋に誰かが居るようだ。
ゆっくりと音が出ないように入り口を空けて覗いてみると……。
「えっ、なんでウルの部屋に!?」
モナの視界に入ったのは部屋の中でウルと抱き合うメルロー子爵の愛娘、シャルドネ嬢だった。
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