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2-11 遠征の終わりに
しおりを挟むブドウ農園を襲ったイノシシモンスター達を無事に討伐した……ものの、その後が大変だった。
象徴とも言える立派な双牙を戦利品にして、その日のうちにメルロー子爵のもとへ二人は帰還した。彼らの素早い駆除に、子爵も手放しで大喜びだった。
そこで素直にさっさと引き上げればよかったのだが、テンションの上がってしまった彼に是非とももう一晩泊まって行って欲しいと懇願されてしまったのだ。
『お誘いは有り難いのですが、この後も先を急ぐ旅ですので……』
(契約の一ヶ月もまだまだ時間があるし、ウルと二人っきりでいる時間がこれ以上伸びたらマズいわ)
『今回のお礼に秘蔵のワインとブランデーをお出ししますので、どうか!』
『はい、喜んで!!』
貴重な酒というワードに釣られたモナは結局、宴会で出た酒を飲み尽くし……そして案の定、酔いつぶれた。
呆れたウルに手厚く介抱されるという屈辱を味わい(なおこの時は何故か手を出されなかった)、今後は金輪際飲み過ぎないという誓約書を書かされてしまった。
この日は無事だったので油断していたら、その後の旅では毎晩のように射精に付き合わされてしまった。自由を奪われた右手はすっかりもう、彼のカタチや弱いところを覚えてしまったような気がする。
というわけで、一週間を予定していた旅ももう終盤となった。
メルロー子爵領でウハウハとワインを飲んでいた時の元気なモナはすっかり消え、完全に疲れ果てていた。それはもう、魔王討伐の時よりもずっと。
「はぁ……酷い目に遭ったわ……」
もふもふの毛が生えている馬型モンスターのアロットの首にグッタリともたれ掛かりながら、カッポカッポと最後の村へと向かう。
空もモナの心を表すようにドンヨリとしていて、今にも雨が降りそうだ。
「ほら、もうサニー村に着くよ? キミは聖女なんだから村人の前ではしっかりしないと」
「……誰の所為だと思っているのよ、まったく」
毎晩のようにウルに触れあう度に、自分の感度も上がってきてしまっているような感じがする。彼もモナの弱点が次第に分かるようになってきたのか、そこを重点的に攻めるようになってきた。
本当はレオに抱かれたいのに、その前に純潔を散らしてしまいそうなる自分を嫌悪しているこっちの身にもなって欲しい。
だらけ切った姿勢のままジト目で睨むも、ウルは素知らぬ顔。アロットを村の入り口の前で止めて、さっさと降りようとしていた。
「はあぁあ……」
「キミはいつまで不貞腐れてるのさ。ほら、入るよ?」
ウルが差し出した手を取って、素直にモナもアロットから降りる。
もう無駄に抵抗するのも疲れたし、諦めた。
ここ数日の教訓として、さっさとこの旅を終わらせて帰った方が一番だと悟ったのだ。
「ここはどういった村なんだろうね?」
「……このサニー村はね。私のお母さんが生まれた村らしいの」
呑気に畑に植えられている麦に触れながら、モナにそう尋ねるウル。この世界の地理についてはあまり知らないのか、代わりに彼女がガイドをしているのだ。
聖女というのは代々その家系で継がれていく。つまり、その母を産んだ祖母は先々代の聖女だ。
祖母も勇者と共に当時の魔王を討伐した、今でも多くの者が語り継ぐような伝説の英雄だった。モナが尊敬をしている人物の一人であり、母から聞いた逸話は彼女の心のバイブルとなっている。
「お祖母ちゃんはね、このサニー村で勇者様……お祖父ちゃんにプロポーズされたんだって」
「へぇ、こんな田舎の村で?」
「たしかに……何もないように見えるかもしれないけど。でもね、この村は綺麗な花畑が有名で、お祖母ちゃんも大のお気に入りだったらしいんだよ? たぶん、その思い出の土地でゆっくり赤ちゃんを産みたかったんだと思う」
アロットの手綱を引きながら簡単な柵で造られた門をくぐり、長閑な村の中を歩いて行く。
小麦や野菜を植えた畑が広がっており、案山子のような人形がところどころに刺さっている。よく見れば、その中に収穫作業をしている老人たちがチラホラいるようだ。
途中で暇そうに石で地面に落書きをしていたちびっ子に、この村の代表者が居る場所を聞いてみる。その子いわく、村長は自分の家に居るという。
お礼にメルロー子爵から貰った干し葡萄を手渡し、再び歩き出す。ウルは最初こそ興味深げに彼らの村の暮らしを見ていたのだが、他に何も見るモノも無く、途中から飽きてしまったのか終始無言だった。
そうしてのんびりと土で出来たデコボコ道をしばらく歩いて行くと、木で建てられた小さな民家が幾つか見え始めた。その中でも一番立派そうに見える――実際はたいしてどの家も変わらないが――家にあたりをつけたモナが入り口の扉をノックする。
「すみませーん、村長さんはいらっしゃいますか~?」
「あ~ん? いったい誰じゃぁ~?」
モナが扉越しに声を掛けると、しわがれたお爺さんの返答が聞こえてきた。
声だけでも結構なお年寄りだと分かる。きっとこの人が村長だろう。
そう待たない間に扉が無造作にガラガラッと開かれ、その先から腰の曲がった小さな可愛らしいご老人がトコトコと歩いてやってきた。
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