魔性の王と奴隷契約 〜世界を救った聖女ですが、結婚予定の勇者に乗り移った魔王に溺愛されて困っています~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
49 / 55

5-8 全てを奪って

しおりを挟む
 ウルとの契約終了まで残り三日。
 モナは自分の部屋に引き篭もり、昨日からずっと悩み続けていた。

「レオ……」

 幼い頃から想い続けていた彼は、女神が作った人形だった。力を蓄えた勇者に魔王を討伐させ、聖女と子を成し、新たな魔王を産ませる。

 信仰と力を集めるために、自分たちは女神に利用されているだけだった。

「はぁ……とんだ茶番ね」

 すべて無駄な努力だった。
 聖女として修業を積み、魔王を打ち破るために文字通り身を削るような毎日。

 思えば前世のように、仲の良い友人とオママゴトで遊ぶといったこともなかった。我慢して、耐えて、涙を堪えて、歯を食いしばってここまでやってきたのに。


 やっと、やっと愛する人との幸せな生活がやって来ると、そう信じていたのに。
 それが全部、ぜんぶ無駄だった。

 沸き起こるのはもう、虚無感ばかりで涙も出てこない。


「私を笑いに来たの……?」


 ノックも無しに扉がギィ、と開く。
 カーテンも閉めて真っ暗になっている部屋に、細い光と影が同時にやってきた。

「モナ……」
「なによ!! どうせ私はみじめな女よ!! いくらでも笑えばいいじゃない!」

 いつもの不敵でどんなことにも余裕のある魔王の表情ではない。

 かといって、勇者レオの愛嬌のある笑顔の面影もない。
 あるのは、大事な女を思いやる、ただ一人の悲痛そうな男の顔だった。

「俺はそんなつもりは……」
「じゃあなんなのよ!! ……どうせ私は利用されて捨てられる運命なのよ!!」

 ウルはベッドの上で蹲ってすすり泣くモナを、そっと抱きしめる。
 モナも嫌がるそぶりもなく、ただ嗚咽おえつを漏らすのみ。

「貴方は魔王なんでしょう!? この世界で一番の悪者なら! 私を!! 犯してでも夢中にさせてよ!! こんな気持ちにさせておいて!! レオのこと、本気で愛していたのに……責任、取りなさいよ……私の全部、奪ってよ!! この、馬鹿魔王……!」

 ポロポロと涙を流しながら、ウルの肩を叩く。
 彼は抵抗もせず、されるがまま。
 いつものふんわりとした笑顔で、子どもをあやすように優しくモナの頭を撫でながら口を開いた。

「……分かった。でもモナの心までは奪ったりはしない。飽くまでも、身体だけを堕とす。今はそれでいいね?」

 グズグズに濡れた瞳でじっ、とウルの顔を覘いた後……モナはコクンと頷いた。

 ――もう彼女は忘れたがっている。
 レオの事も、聖女の役目も、これからの希望も。

 ――なら、堕ちて、すべてを委ねてしまえばいい。
 魔王が、涙も、苦痛も、憎しみさえも。
 全部の悲しみを奪ってくれる、その日まで。


 ウルはモナを強引にベッドに押し倒す。
 そしてそのまま、彼女の唇を奪った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...