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第5話 見習い天使リィンの能力。
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天使長ラファより提供された教会兼自宅のリビングで、ミカエルとリィンは月光樹の朝露と呼ばれるミルク色のお茶を優雅に楽しんでいた。
「それで、リィン……じゃなかった、リン。キミの体調の方は変わりない?」
ミカエルは読んでいた古い装丁をした本をパタンと閉じると、白い木製のテーブルの上にあったティーカップを取り、目の前に座る少女に話し掛けた。
この月光樹の朝露の茶葉はキッチンの棚に大量にストックされていたので、これも恐らく天使長が気を利かせて置いてくれたのだろう。
「そうですね、今のところは何も。このお茶のお陰で、最近はとても安定している気がします。……すみません、お気を遣わせてしまって」
「気にしなくていいって。これでも一応ボクはキミのお師匠様なんだからね」
「はい……ありがとうございます」
いつもは元気いっぱいのリィンも、さすがに自分の体調のことは心配なのだろう。
殊勝な態度を取りながら、大事そうにチビチビとその白いお茶を飲んでいる。
この真っ白なお茶は、天使ならば誰もが好む貴重なお茶だ。
しかしリィンにとっては、命を繋ぎ止めるための欠かせない薬ともなっている。
「人間からシロを回収できないキミは定期的にこうやってシロを摂取しなければ、いずれ近いうちにクロに取り込まれてしまうだろう。そうなれば……キミの存在は消失する」
冷たい言い方だが、これは事実。
クロの因子を持ち、中途半端なマガイモノ天使として生まれた時から不安定な状態だったリィンもそれは重々承知しており、真面目な表情で彼の言葉を受け止めている。
「天界ではシロばかりだったけど、人間界ではクロに近い存在も多く存在している。だから自分のHPには常に気を付けておくんだよ?」
「良く理解しております、ミカエル様。人間は不安定な生き物だと聞いていますから……ちょっと怖いですね」
そういって彼女は首に下げた端末を手に取ると、表示されている画面に視線を落とす。
彼女に支給されている端末はミカエルの持っているスマホ形態とは異なり、ポケベルに似たモデルとなっている。
これは最もバージョンが古いもので、天使クラスが持つ二つ折りガラケーモデルより更にスペックが劣っている。
実際、彼女のポケベル型端末には簡単なゲージしか表示されていない。
「だいたい80%前後か……まぁ油断はしないようにね。もし何かあったら……」
「大丈夫です。その時は自分でどうにかする覚悟はいつでも出来ていますから」
微塵も恐れの無い鋭い瞳で、師匠であるミカエルを見つめる。
ミカエルは彼女のその態度を見て思わず息を飲んだ。
天使とは異なる、彼女の黒い左眼は決して穢れてなどいない。
寧ろそれは、全てを飲み込んでしまいそうな宝石のように美しいとさえ彼は思った。
◇
「それでミカ……はこの日本ではどう活動をしていくつもりなんです?」
未だ師匠を呼び捨てすることになれないリィンが、先ほどからずっと端末を操作し続けているミカエルにこの任務について尋ねた。
活動拠点はこうして手に入れたが、この先どうすればいいのかという具体的な指令は天使長ラファから出されていなかった。
天使として初めての任務に、初めての土地。
彼女は興奮でワクワクが止まらないようだ。
「うーん。ボクの目的もあるにはあるんだけど、その為にはHPを貯めなくちゃならないんだ。それに能力を効率よく使うための現金集め。この2つが喫緊の課題かなぁ」
様々なグラフや計算式が並ぶ画面を人差し指で巧みに操作しながら、溜め息交じりにそう答えるミカエル。
現状はあまりよろしくは無いようだ。
「HPに現金……どちらもミカの能力には必須ですものね。私の能力も然りですけれど」
ミカエルの能力――売り言葉に買い言葉は、対象が放つ言葉を売買する能力だ。
必要な言葉を言わせるためには、相手の求める対価を払うことが発動条件となっている。
かかる対価の値はその相手や言葉の重みによって異なるため、彼には大量の現金が必要になのだ。
そして天使の特性としてHPというものがある。
人間の善行を促したりするとシロが集まり、天使としてのHPが高まる。
このHPが一定値を超えると上のクラスに格上げされたり、大きな能力を行使したりすることができるのだ。
そしてキーとなるのが、リィンの能力。
「リンの時は金なりは本来、十二天使並みの能力なんだ。なぜキミみたいなマガイモノと呼ばれる天使が、そんな強大な力を得てしまったのかは分からないが……」
「まさに猫に小判ですよねー。お金次第で時間を操作できるなんて無茶苦茶な能力、本当に宝の持ち腐れっていうか……」
上のクラスの天使ほど強力な能力を持つのだが、大天使であるミカエルでさえ言葉を操る程度なのだ。
時間の操作など、まさに神の所業レベル。
リィンには絶対にそんなことは言えないが、ミカエルは彼女の能力を陰で羨むほどだった。
「まぁ、今の私じゃコンマ秒レベルしか止めることしかできないんですけどねー」
「そりゃそうだろう。キミは天使見習い、しかも行使するためのHPも無い。それで思うように操作出来たらボクはキミの言いなりになってもいいね」
だからこそ、ミカエルは彼女にHPとシロを集めさせ、その強大な力を自らの目的の為に使いたいのだ。
あわよくば、あの事件の原因となった己の師を打ち倒す際にも……。
「それで、リィン……じゃなかった、リン。キミの体調の方は変わりない?」
ミカエルは読んでいた古い装丁をした本をパタンと閉じると、白い木製のテーブルの上にあったティーカップを取り、目の前に座る少女に話し掛けた。
この月光樹の朝露の茶葉はキッチンの棚に大量にストックされていたので、これも恐らく天使長が気を利かせて置いてくれたのだろう。
「そうですね、今のところは何も。このお茶のお陰で、最近はとても安定している気がします。……すみません、お気を遣わせてしまって」
「気にしなくていいって。これでも一応ボクはキミのお師匠様なんだからね」
「はい……ありがとうございます」
いつもは元気いっぱいのリィンも、さすがに自分の体調のことは心配なのだろう。
殊勝な態度を取りながら、大事そうにチビチビとその白いお茶を飲んでいる。
この真っ白なお茶は、天使ならば誰もが好む貴重なお茶だ。
しかしリィンにとっては、命を繋ぎ止めるための欠かせない薬ともなっている。
「人間からシロを回収できないキミは定期的にこうやってシロを摂取しなければ、いずれ近いうちにクロに取り込まれてしまうだろう。そうなれば……キミの存在は消失する」
冷たい言い方だが、これは事実。
クロの因子を持ち、中途半端なマガイモノ天使として生まれた時から不安定な状態だったリィンもそれは重々承知しており、真面目な表情で彼の言葉を受け止めている。
「天界ではシロばかりだったけど、人間界ではクロに近い存在も多く存在している。だから自分のHPには常に気を付けておくんだよ?」
「良く理解しております、ミカエル様。人間は不安定な生き物だと聞いていますから……ちょっと怖いですね」
そういって彼女は首に下げた端末を手に取ると、表示されている画面に視線を落とす。
彼女に支給されている端末はミカエルの持っているスマホ形態とは異なり、ポケベルに似たモデルとなっている。
これは最もバージョンが古いもので、天使クラスが持つ二つ折りガラケーモデルより更にスペックが劣っている。
実際、彼女のポケベル型端末には簡単なゲージしか表示されていない。
「だいたい80%前後か……まぁ油断はしないようにね。もし何かあったら……」
「大丈夫です。その時は自分でどうにかする覚悟はいつでも出来ていますから」
微塵も恐れの無い鋭い瞳で、師匠であるミカエルを見つめる。
ミカエルは彼女のその態度を見て思わず息を飲んだ。
天使とは異なる、彼女の黒い左眼は決して穢れてなどいない。
寧ろそれは、全てを飲み込んでしまいそうな宝石のように美しいとさえ彼は思った。
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「それでミカ……はこの日本ではどう活動をしていくつもりなんです?」
未だ師匠を呼び捨てすることになれないリィンが、先ほどからずっと端末を操作し続けているミカエルにこの任務について尋ねた。
活動拠点はこうして手に入れたが、この先どうすればいいのかという具体的な指令は天使長ラファから出されていなかった。
天使として初めての任務に、初めての土地。
彼女は興奮でワクワクが止まらないようだ。
「うーん。ボクの目的もあるにはあるんだけど、その為にはHPを貯めなくちゃならないんだ。それに能力を効率よく使うための現金集め。この2つが喫緊の課題かなぁ」
様々なグラフや計算式が並ぶ画面を人差し指で巧みに操作しながら、溜め息交じりにそう答えるミカエル。
現状はあまりよろしくは無いようだ。
「HPに現金……どちらもミカの能力には必須ですものね。私の能力も然りですけれど」
ミカエルの能力――売り言葉に買い言葉は、対象が放つ言葉を売買する能力だ。
必要な言葉を言わせるためには、相手の求める対価を払うことが発動条件となっている。
かかる対価の値はその相手や言葉の重みによって異なるため、彼には大量の現金が必要になのだ。
そして天使の特性としてHPというものがある。
人間の善行を促したりするとシロが集まり、天使としてのHPが高まる。
このHPが一定値を超えると上のクラスに格上げされたり、大きな能力を行使したりすることができるのだ。
そしてキーとなるのが、リィンの能力。
「リンの時は金なりは本来、十二天使並みの能力なんだ。なぜキミみたいなマガイモノと呼ばれる天使が、そんな強大な力を得てしまったのかは分からないが……」
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上のクラスの天使ほど強力な能力を持つのだが、大天使であるミカエルでさえ言葉を操る程度なのだ。
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リィンには絶対にそんなことは言えないが、ミカエルは彼女の能力を陰で羨むほどだった。
「まぁ、今の私じゃコンマ秒レベルしか止めることしかできないんですけどねー」
「そりゃそうだろう。キミは天使見習い、しかも行使するためのHPも無い。それで思うように操作出来たらボクはキミの言いなりになってもいいね」
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