40デニールの悪役令嬢。遂に世界を追放されたので日本を謳歌することにしました。連れ戻そうたって、もう遅いですよ?

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
14 / 20
第2章 悪役令嬢、お仕事を頑張る

2-6 イケメンとの再会。

しおりを挟む
 あれから数日が経ち、レイカが行うプレゼンの日がやってきた。

 会社からは監督という名目で久瀬クセェ係長と池尾先輩が同行している。
 自社の重要な営業の企画だというのに既に失敗すると確信しているのか、久瀬係長はニヤニヤと含みのある笑みを浮かべていた。

 失敗したところでフォローに回ってドクターの株をあげつつ、同時にレイカを助けることで恩を売って関係を迫ろうという魂胆なのだろう。


 対するレイカは――
 池尾先輩はチラ、と彼女の方を見る。
 向こうも偶然見ていたのか、目が合うと自信満々の表情で頷いた。


 この日の為に様々な準備をしてきた。
 あとはもう、やれることをやるだけ。

 プレゼンの内容は、新しい作用機序で効く飲み薬の紹介。
 これがこの病院で使用されるようになれば会社からの評価は上がるのは間違いない。


 この場に居る病院側の人間は内科を担当しているドクターが数名。
 その中の何人かはレイカを見て若者だと侮っているのか、それとも日本人離れした美貌に見惚れているのか……あまり真剣に参加している様子がみられない。

 これも池尾の事前情報で入っていたため、特に動揺は無いようだ。
 逆にあなどって油断してくれている方が先手を取りやすい。むしろ好都合だ。


 ……否、一人だけ真剣な眼差しで配られた資料を読み込んでいる若い医師が一人いた。
 なにをそんなに夢中になっているのか、演者には興味を示さず一瞥いちべつもしていない。



 レイカは今更何が起ころうとも物怖じはしない。
 ふふふ、と不敵な笑みを浮かべると慣れた手つきでパソコンを立ち上げ、スライドの上映準備をテキパキとこなしていく。


「……む? なんで日南ひなみ君はあんなに手馴れてるんだ……?」
「さぁ~? なんででしょうねぇ係長」


 そしていよいよレイカの一世一代のプレゼンテーション始まる。


「この度は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。今回、私どもがご紹介いたしますのは新しい作用機序を持った――」


 開始早々つまずくことも無く、よどみなく流暢に説明をしていくレイカ。

 医学的に小難しい話や、臨床試験の結果などもまるで自分で考えたかのようにスラスラと解説をする姿に、この場に居る一同はギョッとしていた。
 まさか彼女がここまで専門的な話まで詳細に、かつポイントを押さえた話ができるとは誰も思わなかったのであろう。

 練習に何度も付き合っていた池尾ですら、本番で堂々としているレイカに感心していたほどだ。


 そうして15分ほどでスライドを使ったプレゼンも終わった。
 グダグダと要領の悪いことはしない。
 予定時間よりも早目にキチッと終わらせたその手腕に、その頃にはもうドクターたちの見る目は180度変わっていた。

 ――あの若手のドクターを除いて。


「質問、いいかな?」
「もちろん、お願いします」


 そう、彼だけはまだ満足していなかったようだ。
 その後の質疑応答の時間になると先程配ったレジュメにビッシリと書かれたメモを片手に、質問の為に挙手を始めた。

 彼の周りのドクターは『また始まったよ、まったくクソ真面目なんだから』とレイカを憐れみの目を向けた。おそらく彼のこの態度は毎度のことなのだろう。

 これも織り込み済みだったのかは不明だが、さっきまで順調に進んでしまっていたことに焦っていた久瀬係長が小さく手元でガッツポーズをしていた。


「この薬の実際の使用報告は?」
「少々お待ちください……はい、こちらのスライドにありますデータの通りです。他の病院のドクターの話では……」
「その報告についてなぜレジュメにないんです?」

「すみません。社外秘のデータも含まれていますので。ですがご提供できる分に関しましてはこちらの別紙をどうぞ」
「……ありがとう。ではこちらの副作用と従来の薬の違いは?」

「現在も症例データの収集を行っております。現段階では作用機序が異なるため、副作用の原因となる臓器が――」


 たとえ資料の不備を突かれても、最初から対策されていたかのように冷静な対応をする彼女に、周囲はさらに驚きの表情を見せる。
 久瀬係長は思い通りにいかない悔しさに歯ぎしりをしている。
 そしてそんな三者三様の有り様をみて必死に笑いをこらえている池尾先輩。

 そんな周りのことなぞ気にも留めず、いつの間にか二人は熱く語り合い始めていた。
 クールかと思われた彼も、自分の仕事には誇りを持っているのか妥協をしない性格のようだ。かといってレイカも引き下がることはしない。そして誤魔化すこともしないので真摯に回答をしていく。


「ですが、患者さんのことだけでなく医療従事者側のメリットも――!」
「昔ながらの薬剤の方がエビデンスが蓄積されているだろう?」
「それはもちろんです。ですから併せて使用することで、全体の使用量や医療費の削減が――」


 気付けば冷ややかに二人の様子を窺っていた他のドクターも参戦し、ヤイノヤイノと激戦を繰り広げた大盛り上がりを見せた。


「な、ななんあ!?」
「ほぉ、ここまでとはねぇ……やりますなぁ。ねぇ、係長?」
「こ、こんなはずでは……!」


 そして当初30分だった予定を若干オーバーしたものの、どのドクターたちもとても満足そうな表情を浮かべて談笑をしていた。


「いやぁ、正直顔だけで抜擢された人かと思ったけど……凄い知識だね」
「あぁ、ここまで人体について理解しているMRも珍しい」
「キミは薬学部出身かね?」
「なに? 違う? なんなら医者にでもなれば良かったのにな!」


 レイカも医療についてまったく知識が無かったわけではない。
 王妃候補だった時代に日本で言う生物学に近い内容を学んでいたし、実際に解剖に立ち会ったこともあった。異世界ではより実践に近い経験があったのだ。

 そしてなにより、玲華の知識が活きた。
 生前に活かす場を与えられはしなかったが――勤勉で真面目だった彼女は入社してからずっと独学で勉強をしていたのだ。
 その証拠に彼女のアパートには、擦り切れてボロボロになった専門書が幾つも置いてあった。
 それを受け継いだレイカは無駄にはしたくはなかった。

 そのお陰もあって、今回のプレゼンは大成功を収めることが出来たようだ。
 若手のドクターも流石にレイカを見直したのか、ぞろぞろと仕事に帰っていくドクターの列から外れて彼女の元にやってきた。


「今日はありがとう、勉強になった……ん? キミ、もしかしてどこかで……??」
「ふふふ、やっと気付きましたのね。まぁ、初めてお逢いしたのはあの一瞬でしたしね」


 やっとレイカの顔をしっかりと確認した彼はすました顔を崩し、驚きの声を上げた。
 レイカの方は最初から気付いていたようだが――このドクターとレイカは以前、出会ったことがある。

 彼もそれを思い出したのか、少し気まずそうに彼女に謝罪した。


「すまない。あの時は仕事に向かう途中で急いでいたもので」
「こちらこそ、あの時はお礼も言わず申し訳ありませんでしたわ。その度は助けてくださってありがとう」
「いや、いいんだ……。そうだ、自己紹介もまだだったな。僕の名前は幾永いくなが 翔琉かける……これからもよろしく頼むよ」
「私は日南玲華です。えぇ、むしろ私どもの方がお世話になります」


 二人は駅前通りでのファーストコンタクト、そしてプレゼン前と素っ気なかった態度が嘘のように挨拶を交わす。
 どちらも普段から他者を寄せ付けないようなオーラを放っているとは思えないほどに、まるで友人や戦友に出逢えたかのような和やかな雰囲気だ。


「さっきのプレゼンや質疑の時もそうだったけど、君は患者さんだけじゃなく我々医療従事者側の事も考えてくれた。普通は自分の会社の利益を考えているとすぐに患者さんが~治療の為に~っていうのにね」

「そうですか? もちろん患者様の利益が最も大事ですけど、それを提供する側にもメリットが無ければやっていけませんわ。……もちろん、私たち会社側もですけどね?」


 茶目ちゃめっ気のあるウインク付きのレイカの回答に、少し呆気あっけにとられる幾永ドクター。
 だが少しして彼も表情を崩してニッコリと笑った。


「ふふふ。そうだね、たしかに違いない。あぁ、今日は久々に楽しかった。個人的にも興味が湧いたよ。是非ともまたキミの話を聞きたいから、都合のつく時にさっきの資料を持って来てくれ」
「承りましたわ!」
「それじゃ、またね」
「本日はありがとうございました」


 手のひらをヒラヒラを振りながら先ほどのレイカのようなウインクを返す、意外にもお茶目な幾永ドクターを見送ってホッとため息をつく。

 急にどっとした疲れが彼女を襲い、気の抜けた身体を自分で用意しておいたパイプ椅子にドサリと預けた。


「つ、疲れましたわ……でも、私やりきった……やりきりましたわよ!」


 正直なところ幾永ドクターの質問攻めには内心冷や汗がダラダラだった。

 池尾先輩も協力して質疑応答集を作ってシミュレーションを繰り返しておいたお陰でなんとかボロが出なくて済んだだけだった。
 しかしそれでも、彼女は無事にプレゼンを成功に導いたのだ。
 そして、最後の幾永ドクターの言葉がずっと彼女の頭をリフレインしている。


「あ、あれ? 私、この仕事にやりがいを感じている、のかしら……?」


 あの綺麗な顔で、自分の身分や容姿などではなく頑張った仕事を褒められた。
 自分の信念を、姿勢を理解し、楽しかったと笑顔を向けられた。
 そんなこと、未来の王妃として育てられた前世でも無かったかもしれない。


「あ、あれれ?」


 この彼女の心の中にある高揚感が、仕事による達成感によるものなのか、はたまた別の感情によるものなのか……それを彼女が自覚するのは、そう先の事ではないだろう。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

追放された悪役令嬢、前世のスマホ知識で通信革命を起こしたら、王国に必須の存在になっていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢エリザは、婚約者の第二王子アルフォンスに身に覚えのない罪を着せられ、満座の中で婚約破棄と勘当を言い渡される。全てを奪われ、たった一人で追放されたのは、魔物が跋扈する寂れた辺境の地。 絶望の淵で、彼女の脳裏に蘇ったのは、現代日本で生きていた前世の記憶――人々がガラスの板で遠くの誰かと話す、魔法のような光景だった。 「これなら、私にも作れるかもしれない」 それは、この世界にはまだ存在しない「通信」という概念。魔石と魔術理論を応用し、彼女はたった一人で世界のあり方を変える事業を興すことを決意する。 頑固なドワーフ、陽気な情報屋、そして彼女の可能性を信じた若き辺境伯。新たな仲間と共に、エリザが作り上げた魔導通信端末『エル・ネット』は、辺境の地に革命をもたらし、やがてその評判は王都を、そして国全体を揺るがしていく。 一方、エリザを捨てた王子と異母妹は、彼女の輝かしい成功を耳にし、嫉妬と焦燥に駆られるが……時すでに遅し。 これは、偽りの断罪によって全てを失った令嬢が、その類まれなる知性と不屈の魂で自らの運命を切り拓き、やがて国を救う英雄、そして新時代の女王へと駆け上がっていく、痛快にして感動の逆転譚。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。

ミズメ
恋愛
ブラック企業で過労死(?)して目覚めると、そこはかつて熱中した乙女ゲームの世界だった。 しかも、自分は断罪エンドまっしぐらの悪役令嬢ロズニーヌ。そしてゲームもややこしい。 こんな謎運命、回避するしかない! 「そうだ、結婚しよう」 断罪回避のために動き出す悪役令嬢ロズニーヌと兄の友人である幼なじみの筋肉騎士のあれやこれや

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

処理中です...