私を毒殺しようとシタ夫と復縁するわけがないですよね?

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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「……愛しているよ、セシリア。君が死ぬその瞬間まで、僕がそばにいる」

 あのときの彼の声は、とても穏やかだった。私は寝台の上で病に伏し、すっかり細くなってしまった手を、彼がやさしく包んでくれていた。

 両親を早くに亡くし、公爵家の後継として育てられた私は、ずっと孤独だった。社交の場では“気の毒なお嬢様”とひそひそ噂され、誰も私に近づこうとはしなかった。

 そんな中、初めて手を差し伸べてくれたのが、彼——エドガーだった。


「ひとりで退屈そうだね、公爵令嬢」

 あの夜会で、私に話しかけてきた彼の笑顔を、今でもはっきりと思い出せる。きらびやかな会場の隅で、私はただ静かに座っていた。そのときの彼の声が、私の世界に初めて色を差したのだ。

 それ以来、彼は時折私を訪ねてくれるようになり、書物を読んでくれたり、季節の花を持ってきてくれたりした。そんなささやかな時間が、私には何よりも大切なものだった。

 だけどそんな幸せな日々は、長くは続かなかった。

 
 ある日、私は高熱を出して倒れた。

 その知らせを聞いた彼は、何も言わずに医師を手配し、すぐに私のもとへ駆けつけてくれた。

 ――医師の診断は残酷なものだった。持病の進行。余命は、長くて数年。

 けれど、彼はそんな私を見つめて、穏やかに言ったのだ。


「たとえセシリアがあと数年で旅立ってしまうのだとしても、その間に人の一生分の思い出を僕と作ろう」

「そんなこと……言われたら、希望を持ってしまうわ」

 震える声でそう返すと、彼は微笑みながら、私の手をぎゅっと握った。

「それでいいんだ。君が望むなら、どんな未来でも」

 あれが、彼なりのプロポーズだった。
 私はその言葉を、心からの愛だと受け取った。夢を見てもいいのだと、初めて思えた瞬間だった。


 十六歳の誕生日、私は彼と結婚することを決めた。

 ただ一人、私の決意に反対したのが、近衛騎士のレオンだった。私より二つ年下の彼は、幼い頃からずっと私のそばにいてくれた、無口な子だった。

「やめておけ、あの男は……」

 あのときばかりは、珍しく声を荒げていた。

「どうして? エドガー様は、私を受け入れてくれたのよ」

「……お前を、心から案じているようには見えない」

 私はそれ以上、彼の言葉を聞かなかった。ただ微笑んで、そっと言った。

「ありがとう。でも私は、信じたいの」


 エドガーの手を取ったとき、私は確かに思ったのだ。

 ——あなたとなら、短い人生でも幸せ。

 そう信じていた。あの頃は、本当に。
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