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貴族って、ほんっとに相容れない生き物だ①

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「おいディアナ! 任せておいたパパベルの毒抜きはどうした! もう午後だぞ! もちろん終わってるんだよなぁ!?」

 顔を真っ赤に染めた上司のピペット課長が唾を飛ばしながら、私が作業している調合デスクをバンッと叩く。


「あっ、何するんですか!」

 その衝撃で机の上にあった、試薬入りのビーカーや三角フラスコたちが倒れそうになってしまう。私はガラス器具を両腕で抱えながら、彼を恨めしそうに見上げた。

(ここは人の病を治すための魔法薬研究所なのよ? 唾を飛ばすなんて、不衛生極まりないじゃない!)


「なんだよ、その反抗的な目は」
「……パパベルですよね。もうできてます」
「だったらさっさと出せよ。ったく、これだから平民の女は仕事が遅くて困る」

 なによそれ。
 平民や女であることは、仕事の出来とは関係ないでしょう?

 それに私は王都の魔法薬アカデミーを卒業した、れっきとした魔法薬師なのよ?



「はぁ、どっと疲れちゃった」

 パワハラ上司という嵐が過ぎ去ったあと。私は自分のデスクでうつぶせになりながら、深い深いため息をついた。

「早く新人の子が入ってくれないかな……」

 数ある国家資格の中でも、魔法薬師の資格取得はトップクラスに難しいとされている。

 ましてや研究所の中でも最高峰とされるこの国立魔法薬研究所は、滅多に新人を採用していない。


 私が運よくここへ入れたのが約5年前。

 アカデミー時代に目を掛けてくれていた校長先生が推薦状を書いてくれなければ、きっと私は今ここに居なかった。

 もちろん知識と経験なら、そんじょそこらの魔法薬師には負けない自信がある。かつてここの副所長を務めていた父に、幼い頃から直々にしごかれていたおかげだ。


 だけど見ての通り、身分の違いが仕事に影響するようになってしまった。

 おかげで私みたいな平民は、5年経っても下っ端扱い。薬品の下処理ばかりを任されて、入所してから一度もマトモに薬を作らせてもらえていない。


 こんな窮屈な職場になってしまったのは、数十年前に王族が所長に就任してしまったのが原因だ。家柄主義になり、父は辞職に追い込まれた。そして実力がなくても、コネと金で入れるようになってしまった。

 さっきの課長も、伯爵の三男坊っていう肩書きを利用したコネ入所だ。ロクに調合もできないくせに、今の立場に居座っている。


 そうなれば当然、研究所のスタッフは実力のない烏合うごうの衆となる。新たに治療薬を開発することもできず、ただ既存の薬の販売権で利益を得ているだけ。

 最近では国の中枢から「成果を上げろ、さもなくば予算を下げる」とせっつかれているみたいだけど。そんなのっぴきならない事情もあって、ピペット課長の苛立ちと頭部の寂しさが日々増している。

 そんなわけで、私の職場は年々酷い有様になりつつあった。


 ……それでも私は、この仕事にしがみついている。

 病気で惜しくもこの世から去ってしまった父。誰よりも優しくて、人々を救ってきた憧れの人。

 本当はまだ死ぬべきじゃなかった。もっともっと長生きしてほしかった。私に治す腕さえあれば、父さんを助けられたのに。


 私は二度と大事な人をうしないたくない。

 たとえ出世コースから外されようが、面倒な仕事ばかり投げられて残業続きだろうが……いつか必ず立派な魔法薬師になって、お父さんの分まで人の命を救うんだ――。


 翌日の朝。課長が私のデスクに来て、開口一番に告げた。

「よろこべ、お前に後輩ができたぞ」
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