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剣の章
♠15 ♤♧♢♡のスート
しおりを挟む「だけど、悠真君。これって本当は、キミも知っていてもおかしくない話なんだよ?」
「は? 俺が? どうして……」
「うん。だって――悠真君も禍星の子、だよ?」
「はあ?」
悠真が辛うじて返答できたのは、そのたった二文字だけだった。
「とにかく、その女は本を探しているって言ったんでしょう? つまりそれは、禍星の子二一人の誰かが持っている六冊の本――通称、悪魔の愛読書を探していたんだと思う」
つまりはこういうことなのだろう。
紅莉は本を持っている可能性があるのが、その禍星の子の誰かである、と。
そして女は本を探すため、禍星の子を次々と襲っている。
ここでようやく、悠真の頭の中で全てが繋がった。
繋がったのだが――
「悪魔の愛読書……!? し、知らないぞそんな本。俺は持ってなんかいない!」
「うん、だからソイツも悠真君を見逃したんだろうね。持っていたらその場で殺されていたかも……だけど、ちょっと待ってね」
紅莉は再びバッグの中をガサゴソと漁り出す。
そして今度は折り畳みのコンパクトミラーを取り出した。
「……あぁ、やっぱり」
「ん? どうしたんだよ、急に鏡なんて見せてきて」
「分からない? 悠真君……奪われてるよ」
「奪われてるって何をだよ……ッ!? な、なんだこれ」
最初はどこか怪我でも負わされているのかとも思ったが、別に顔も身体にも違和感はない。
その代わり、あるモノが無いことに気付いてしまった。
「俺の影が、無い……?」
辺りは完全に夜の帳が降りているとはいえ、街灯に照らされて光がある。
光があれば影もあるはずなのに、鏡に映る自分には、影が無かった。
「え? こっちにはある……あれ? どういうことだ?」
鏡から目を離し、下に目を向ける。
そこには自分を縁取った影が地面にビタっと広がっていた。
動いてみても、ちゃんと自分をトレースして移動する。言い方は変だが、元気そうだ。
もう一度、紅莉が持っている鏡を覗いてみる。――無い。角度を変えてみても、どうやっても映らない。いったい、何故。
「ねぇ、悠真君。もしかしてだけど、その女自身、何か本を持っていなかった?」
「本……」
そう言われて一度は封印した記憶をどうにか蘇らせる。
長い黒髪、恐ろしい瞳、肩に掛けたトートバッグ。そして――
「持ってた……黒くて、分厚い古ぼけた……」
目の前に近寄られたあの時も、アイツは間違いなく何かを持っていた。
さすがにタイトルまでは見ている余裕はなかった。だけど、立派な装丁がされた辞典のような本を左手に握っていたはずだ。
「やっぱり。それはね、呪術の本なの。人を呪う、邪悪な本。悠真君はそれを使われたんだね……」
「呪術……ってことは、俺って呪われたのか?」
「残念ながら、ね」
紅莉はベンチで隣りに座ったまま、今度は悠真を落ち着かせるように優しく手を握っている。震える悠真の手を両手で、しっかりと包むように。
「悠真君はこれから一日ずつ、四つのスートの表裏に合わせたものが変化していくと思う」
「スートに合わせた……」
「トランプのハートとかスペードみたいなものよ。元々は杖、剣、金貨、聖杯が元になっているの」
紅莉はそう言うと、落ちていた枝を拾って地面に文字を書き始めた。
剣(スペード)……思考、情報
杖(クラブ)……情熱
金貨(ダイヤ)……希望
聖杯(ハート)……感情
「これは影が透けるように無くなるから、『透影』って言われてるの。そして透影になってから八日が経つと……最終的には魂を本の中にある冥界に引き込まれ、そこから永遠に出てこれなくなる」
「ちょ、ちょっと待って? それってつまり……」
「死ぬのと同じね。八日間の間に、精神も肉体も変化していくそうよ」
「そんな……でも、どうして紅莉はそんなことまで詳しいんだ?」
紅莉は自分が知らないことをペラペラと流暢に説明していた。
そう、まるで関係者のような――。
「ま、まさか」
「そうよ。私も禍星の子なの。……そして同じく透影の、ね」
そういって紅莉は鏡を悠真にも見える角度で掲げた。
「紅莉の影も無い……」
「えへへ、悠真君を助けようとしたときに私も捕まっちゃった。……でも大丈夫。私が命に代えても悠真君を絶対に助けるから!」
「紅莉が……?」
「私の方が、これについては詳しいからね。それに――」
急に紅莉が立ち上がったかと思えば、月明かりの下、自信満々の笑みでこう答えた。
「私も本、持ってるんだ」
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