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杖の章
♣5 本の悪魔
しおりを挟む「マルコはね、本の悪魔なの」
「え……?」
ハーブティのお陰で平静を取り戻した悠真だったが、今度は紅莉の言葉に耳を疑ってしまった。
――悪魔。
悪魔と言えば天使と対を成す存在で、人に対して悪さをする架空の存在だ。
少なくとも、のんびりと人間と一緒にお茶を嗜むようなものではない。
それに、なんというか彼は邪悪さを感じられないのだ。
悪魔というよりも、どちらかと言えば天使に近い。美術館に置かれている彫刻のような芸術的な美しさも相まって、一種の神々しさすら感じられてしまう。
だがあの紅莉が、マルコは悪魔なのだという。
多少のオカルト話は信じられるようになってきた悠真だったが、さすがに悪魔はまだ受けれられる余裕は無かった。
「いや、仮に本当にマルコが悪魔だとして……どうして教会に居るんだ?」
悪魔は神に仇なすから悪魔なのだ。神のお膝元とも言える教会に居るのは、いくらなんでも場違いが過ぎる。神を馬鹿にしている、という意味であるならばおかしくはないかもしれないが。
「ボクは神を信じているし、信奉しているからね」
「え……悪魔なのに、か?」
「天使と悪魔は位の違いはあれど、あくまで同格なんだよ。悪魔だけにね」
「マルコ、悠真君の質問に真面目に答えなさいよ」
「えぇ~? ボクは答えられる範囲であれば誠実に答えているよ?」
サラサラと流れる黒髪をかき上げながら、マルコは口で大きな弧を描いた。口紅も塗っていないのに、血のように赤い。あれはきっと、ワザと挑発的な笑みを浮かべて悪者ぶっているのだろう。実にお茶目な悪魔だ。
ただ、悠真もここ数日でこの界隈の人間たちとの接し方を身をもって学んできていた。
決して表面だけで相手を信じてはいけないし、自分をさらけ出しても駄目だ。ボロを出さないよう、身を引き締め直そう。
「ふふふ。まぁ信じなくてもいいけどね。悪魔も神の子なんだよ。違うのは、役目なだけでね」
「へぇ? 役目ね……。じゃあマルコはいったい、どんな役割を持っているんだ?」
「ボクが神様から授かった役目は、人の罪を見届けること。人が罪を犯すのを時に手伝い、人の罪を聞き、そして赦すことさ」
“罪”と聞いて、悠真は閉口してしまった。
思ったよりも、重要な役目じゃないか。
人に罪を犯させる、という点はいただけないが、他の部分はむしろ人類にとって益となる行為だ。むしろ天使がそれを担っていても別段おかしくもない。
それならば、神の子であるという言い分もあながち間違っていない気がする。ただ、それが事実ならば、という前提であるが。
「まぁ、悠真クンは運がいいよ。ボクが直接人の前に姿を現すのは滅多に無いからね。今回は紅莉の紹介だからこうして一緒にお茶をしているけれど」
「マルコは下の懺悔室で人の悩みとかを聞いて、ひとりでニヤニヤ笑っているようなド変態だから。あんまり真に受けなくて大丈夫だからね」
「酷いなぁ。ボクはこの教会の神父として仕事をしているだけなのに」
そういってマルコは空になっていた悠真のカップに、新たなハーブティを綺麗な所作で淹れ直した。悠真はその光景を、複雑な心境で見つめていた。
「ね? 言った通り、変わっている人だったでしょう?」
「いや、変わっているってレベルじゃない気がする。そもそも人じゃないんだろうし」
信じる信じないはともかく。ここは一度、彼が悪魔だと仮定しよう。
害が無ければ死神だっていい。
それよりも紅莉は最初、マルコは“本の悪魔”だと言ったのだ。悠真はその“本の”という部分が気になっていた。
なにしろこの数日の間は、本にまつわることが多かった。
本を探す女。
手相の本を持つ火傷男。
そして紅莉。彼女は、自身も本を持っていると言っていた。
「紅莉。俺にマルコを紹介したってことは、何か本に関連する話を教えてくれるのか?」
すでに自分の分のクッキーを食べ終わっていた紅莉は、マルコの席にあったマドレーヌに手を出し始めていた所だった。彼女は悠真が見事正解を言い当てたことが嬉しかったのか、頬をパンパンにしたままコクコクと頷いた。
「紅莉は食べるのに夢中みだいだし、ボクが直々に悠真クンに説明しようか」
「そうだな。せっかく悪魔が誠実に答えてくれるというんだから、お願いするよ」
「ふふ、良いだろう。そうだな、まずは昔話から始めようか」
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