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杖の章
♧14 四神の加護
しおりを挟むそれならば、と大人しく日々子は従った。
身体の調子が良くなってからというもの、自分の直感が間違ったことはない。
他人は信用していないが、自分なら話は別である。
日々子はその理由を思考し始めた。
土地は良い。四神の配置的にも龍脈の中心、龍穴だ。
これ以上ないぐらい、良い場所に家が建てられている。
見た目は二階建ての大きな家。
普通だったら、こんな人里離れた山の中、それも廃村にここまでの家を建てる変わり者はいないだろう。もし居るとすれば、身の安全を最重要視している富豪であるとか、そういった酔狂な人間ぐらいだ。
直樹もその変わり者の中の一人に違いない。
風水を建築業にも活かし、人気のデザイナーとして金を荒稼ぎしたかと思えば、こんな辺鄙な場所に家を建てて引き篭もっているのだから。
問題は、この家の間取りだった。
彼を探し出すため、日々子は風水について学んでいた。だからこそ、この建物が変だと気付くことができた。
日々子は天を仰ぐ。先ほどよりも少し、太陽が傾いてきている。
太陽の位置と今の時刻から、おおよその方角を考えてみた。
「北と……東の間?」
玄関は北と東の間を向いている。
風水では北東の方位を表鬼門、南西の方位を裏鬼門と定めている。
それならば通常、表鬼門には玄関を置かない。鬼や悪い気がそちらの方角からやって来るからだ。
土地選びからここまでこだわっているにもかかわらず、風水の第一人者である直樹がこんな初歩的なミスをするわけがない。
「……生意気な」
日々子は玄関に踏み入れようとしていた右足を引っ込めた。
これ以上は危ない気がする。もしかしたら罠の可能性だってある。
日々子はバッグの中にあったスマートフォンを取り出し、方位を示すアプリを起動させた。
間違いない。
玄関は鬼門を向いている。
「……ふふ」
小癪な真似をされたことに日々子は一瞬怒りを沸騰させたが、すぐに冷静になった。
今すぐ直樹という男の首を食用の鶏のようにくびり殺してやろうかと思ったが、むしろ彼を褒めてやりたくなった。
こうでなくては。
あの本の持ち主ならば、それぐらい力を持っていてもらわないと困る。あの馬鹿な女みたいに、金の為に本を使うなんて以ての外だ。
頭も股も緩い人間はあの方に相応しくない。
……まぁ、いい。
あの方に捧げる糧となったのだから、寛大な心で赦してやらなければ。
日々子は一旦、家の周りを見てみることにした。
家の東側にはガレージがあり、その中には四駆動の車が一台置かれていた。
どうやら日々子がここへやってきた歩道とは別の、ここの住人だけが知る車道があるらしい。
そこから北の方へと歩いていくと、農作業でもしているのか小さな畑があった。畑の隣りには農機具を納める小さな納屋がポツンと立っている。
さらに西へと回ると、そこにはなんと風呂やキッチンといった水回りをするための掘っ立て小屋があった。この小屋だけは非常に簡素な造りをしており、壁が無い。吹きっさらしになっているのだ。
これを見た日々子は腹を抱えて笑っていた。
ギトギトになった髪で顔が隠れていたので、彼女がどんな表情をしていたのかは見えない。だが血と脂で汚れきったワンピースを抱きながら、悲鳴のような笑い声を上げていた。
直樹の風水に対する、徹底的なこだわりようがツボだったらしい。
手をバンバンと叩き、笑い転げている。
気は風に乗り、水に留まる。たしかに水回りは澱んだ気が溜まりやすいだろう。
だからって、わざわざ家の外に造ることはないだろう。それも、風通しが良いように壁を取り払って。
利便性をとことん無視した、このストイックさが日々子は気に入った。
占術とは、あの方に対する愛の形である。術に対する情熱は愛情そのもの。
つまり、直樹はあの方に恋をする同志ということだ。
もっと直樹に会いたくなった。早く会いたい。一緒にあの方の愛を語り合おう。語り尽くした末に、この手で殺してあげたい。あの方を愛しているのなら、絶対に会いたいはずだ。なら私が貴方を連れて行ってあげよう。
すっかり上機嫌となった日々子は我慢ができなくなり、家の窓から侵入することに決めた。ちょうど目の前に、リビングらしき部屋の大きな窓がある。ここにしよう。
ここに罠が仕掛けられていたらアウトだが、知ったことでは無い。
はやく、はやく。貴方の愛を教えて。
庭に落ちていた拳ぐらいの大きさの石を掴むと、それを窓に叩きつけた。
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