透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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杖の章

♧13 風水の罠

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 彼女は今、とある霊峰を望むことができる場所に来ていた。

 ここはあまり人が訪れない、龍脈と呼ばれるパワースポットだった。

 一般的に日本におけるパワースポットとは四神の加護がある。つまり玄武、白虎、青龍、朱雀を象徴するものが東西南北にある場所を指すことが多い。


 日々子が訪れているこの場所も、それぞれが表すものに囲まれていた。
 山が玄武、白虎は道、青龍は川、朱雀は湖。これ以上なく、風水的に優れている場所なのだ。


 交通手段がないため、ここへ来るには徒歩しかなかったが、背に腹は代えられない。唯一良かったのは、ひと気が少ないおかげで、追ってくる警察のことをあまり考えずに済んだことぐらいだろうか。


 しばらく歩き続けていると、日々子は少し開けた場所に廃村を見つけた。
 人の影は無く、ちかけた木造の平屋が幾つか残っている。

 太陽は頭上の高い位置にある。まだ明るい時間帯だというのに、陰鬱な雰囲気が漂っていた。

 木々が風で揺れ、影が良く動く。それが廃村という負のイメージがあるフィールドと混ざり、異形のように見えてくる。まるでノイズのように、チラチラと精神に干渉してくるのだ。

 だが、今の日々子にとって影は怖い存在では無い。むしろ味方と言っていいだろう。
 一歩一歩確かな足取りで、彼女は村へと踏み入れていく。


 夏場ということもあり、日没までは余裕がある。しかし急いだ方が良いだろう。夜目もある程度効くようにはなってはいるが、何しろ探し物は人では無く本だ。

 案外、人というのはプレッシャーを掛ければ勝手に尻尾を出す。もちろん、人間には尻尾が無いから出てくるのは、悲鳴とか、血とか……


 ともかく、直樹を探し出そう。
 アイツがこの廃村に潜んでいるのは確かだ。

 あとはどこに居るかだが……


「崩れていない家……」

 怪しい場所は、意外にもすぐに見つかった。
 一軒だけ、廃屋ではない家があったのだ。それも、新築に近い建物だ。


「土地も風水的にも適している……」

 その家は廃村の中でも少し奥まった場所にあり、敷地も十分に広い。
 三角の土地や、閉塞的な場所はよどんだ気が溜まりやすく、適してはいない。風水師である直樹なら間違いなくこの場所を選ぶだろう。


 さっそく、彼女は家に入ることにした。
 チャイムは設置されているが、押さない。

 玄関の引き戸に手を伸ばす。……鍵が掛かっていた。

 日々子は仕方なく、兎のトートバッグから黒い本を取り出し、ブツブツと何かを呟いた。

 黒い手のようなものが鍵穴に伸びていき、変形して侵入していく。

 ――ガチャリ。
 呪術を使ったピッキングは初めてだったが、思ったよりも簡単に開錠できた。

 再び引き戸に触れれば、何の抵抗も無くガラガラと開いた。


「~♪」

 日々子は神を讃えるハレルヤを鼻で歌いながら、玄関に入ろうと右足を踏み出した。

 その瞬間。
 日々子の身体が硬直した。


「……?」

 その理由は分からず、首を傾げる。

 おかしい。あれだけ絶好調だった身体がである。

 ただ、誰かに拘束されたとかではない。なにか、直感的なものが自分で自分の身体を引き留めた。

 この家の何かに違和感を覚え、これ以上先へと進んではならないと、日々子自身の脳が告げたのだ。
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