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聖杯の章
♡5 招かねざる客
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「え……?」
紅莉は汐音の言葉に動揺を隠せない。それは悠真も同じだった。
「ちょっと待ってくれよ! 今日は占星術の本を持っている花音がここへやって来るんだぞ!?」 「そうだよ、汐音ちゃん。全員が協力すれば六冊の内、半分が集まるの。この罠だらけの館にあの女を誘い込めば、勝てるかもしれないよ!」
いくら相手が影を集めて力を蓄えているとはいえ、生身の人間であることは事実である。
透影にされ、力も残り時間も無い彼らには、もはやこの手しか残されていないと言っても過言ではない。
だが汐音は長い睫毛をした目蓋を伏せ、首を横に振った。
「その花音という女はすでに敵の手に落ちています」
「はぁ!? いや、だって昨日会った時には普通に……」
「騙されてはいけません。悠真さんたちは罠を張るつもりだったかもしれませんが、逆にこの館へと誘い込まれたのです」
「なんだって……!?」
病院で会った時は悠真たちの何枚も上手を取っていた彼女だ。
化け物女にだってそう易々とやられるとは想像もできない。
それに、あれだけ自分たちに気を使ってくれていた人物が罠にかけてくるとは思えなかった。
悠真は納得ができず、汐音に食って掛かる。
「いったい、何の根拠があってそんなことを――」
「悠真さん。女というのは、愛する人を守る為であれば簡単に嘘を吐けるのです。それが男にも勝る、女の武器なのですから……そこに理由や根拠なんてものはありません」
洋一の頭を撫でながら、「たとえ、自分が咎人になったとしても……」と汐音は自虐的な笑みを浮かべた。
「それで、汐音ちゃんは……」
「私はここで最期まで洋一さんと過ごします。何があろうと、私が守ります。この人も、この想いも」
「そっか……」
紅莉は手に持っていた手相の本を鞄にしまうと、入ってきたばかりの部屋の入り口へと向かった。
「お、おい紅莉……!」
「急ごう、悠真君。ここに居たら私達も危ないよ」
そう言うと、汐音に別れも言わず歩いて行ってしまった。
「悠真さん。貴方も、大事な人がいるのなら。遠くへ行ってしまわないよう、しっかりと手を握ってあげてください。別れというのは、いつでも予期しない時に訪れるものですから……」
汐音は「渡してあげてください」と言って、机の上にあった京都のシナモン入り焼き菓子を悠真に差し出した。
「え? あ、うん。……ありがとう、汐音ちゃん」
「えぇ。また逢いましょう」
「あぁ。また……な」
再び会えるような別れの言葉を交わし、悠真は紅莉を追い掛ける。
悠真が見た汐音は、最後まで満足そうな表情をしていた。純白な薔薇のように一部の霞も無い、とても綺麗な笑顔だった。
悠真たちが館を去ってすぐ。
この薔薇の館に十数人の男女がやって来た。
誰もが、ある宿命を背負って生まれてきた人間だ。
否、人間だったモノという方が正確だろう。
「――みなさん、揃いも揃って影を失くされたようで。これでは、影鬼ができませんね……」
紅莉は汐音の言葉に動揺を隠せない。それは悠真も同じだった。
「ちょっと待ってくれよ! 今日は占星術の本を持っている花音がここへやって来るんだぞ!?」 「そうだよ、汐音ちゃん。全員が協力すれば六冊の内、半分が集まるの。この罠だらけの館にあの女を誘い込めば、勝てるかもしれないよ!」
いくら相手が影を集めて力を蓄えているとはいえ、生身の人間であることは事実である。
透影にされ、力も残り時間も無い彼らには、もはやこの手しか残されていないと言っても過言ではない。
だが汐音は長い睫毛をした目蓋を伏せ、首を横に振った。
「その花音という女はすでに敵の手に落ちています」
「はぁ!? いや、だって昨日会った時には普通に……」
「騙されてはいけません。悠真さんたちは罠を張るつもりだったかもしれませんが、逆にこの館へと誘い込まれたのです」
「なんだって……!?」
病院で会った時は悠真たちの何枚も上手を取っていた彼女だ。
化け物女にだってそう易々とやられるとは想像もできない。
それに、あれだけ自分たちに気を使ってくれていた人物が罠にかけてくるとは思えなかった。
悠真は納得ができず、汐音に食って掛かる。
「いったい、何の根拠があってそんなことを――」
「悠真さん。女というのは、愛する人を守る為であれば簡単に嘘を吐けるのです。それが男にも勝る、女の武器なのですから……そこに理由や根拠なんてものはありません」
洋一の頭を撫でながら、「たとえ、自分が咎人になったとしても……」と汐音は自虐的な笑みを浮かべた。
「それで、汐音ちゃんは……」
「私はここで最期まで洋一さんと過ごします。何があろうと、私が守ります。この人も、この想いも」
「そっか……」
紅莉は手に持っていた手相の本を鞄にしまうと、入ってきたばかりの部屋の入り口へと向かった。
「お、おい紅莉……!」
「急ごう、悠真君。ここに居たら私達も危ないよ」
そう言うと、汐音に別れも言わず歩いて行ってしまった。
「悠真さん。貴方も、大事な人がいるのなら。遠くへ行ってしまわないよう、しっかりと手を握ってあげてください。別れというのは、いつでも予期しない時に訪れるものですから……」
汐音は「渡してあげてください」と言って、机の上にあった京都のシナモン入り焼き菓子を悠真に差し出した。
「え? あ、うん。……ありがとう、汐音ちゃん」
「えぇ。また逢いましょう」
「あぁ。また……な」
再び会えるような別れの言葉を交わし、悠真は紅莉を追い掛ける。
悠真が見た汐音は、最後まで満足そうな表情をしていた。純白な薔薇のように一部の霞も無い、とても綺麗な笑顔だった。
悠真たちが館を去ってすぐ。
この薔薇の館に十数人の男女がやって来た。
誰もが、ある宿命を背負って生まれてきた人間だ。
否、人間だったモノという方が正確だろう。
「――みなさん、揃いも揃って影を失くされたようで。これでは、影鬼ができませんね……」
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