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聖杯の章
♡10 見たくない現実
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もうここには、逃げ場がない。
屋根は緩やかな傾斜になっているとはいえ、ビルの三階ほどの高さがある。落ちたらひとたまりもないだろう。特に今日は風が強く、立っているのがやっとだった。
紅莉は屋根の上にある十字架を背に立っていた。手には悪魔の愛読書がある。
高い場所が苦手な彼女は、足を震わせながらも気丈な態度で日々子を睨みつけていた。
一方の日々子はフラフラとした足取りで、紅莉に近寄ろうとしている。
「ん~ふふふ♪」
日々子が何かを歌っている。
あれは……そう、音楽の授業で聞いたことのあるメロディだ。
それをなぜ今歌っているのかは分からないが、おちょくられているようで腹が立った。
「おいっ、こっちだ!!」
そう叫んでみるが、こちらには見向きもしない。
ハレルヤを口ずさみながら、どんどん前に足を進めている。
早く止めないと。アイツは紅莉を殺す気だ。
「だめっ、こっちに来ないで!!」
もはや、身体を張って止めるしかない。
危険を顧みず、悠真は駆け出した。
紅莉を失ってたまるか。頼む、間に合ってくれ。
だが悠真の想いも、伸ばした手も届かない。
時が止められるとしたら、悠真は間違いなく実行していただろう。
だが、そんなことは到底不可能だった。
日々子が黒い尖った何かを、勝鬨を上げるかの如く天へ振り上げているのが見えた。
「悠真君。また、ね……」
彼女は迫りくる脅威を避けるよりも、愛する悠真にその言葉を届けることを選択した。
そして、近付いてくる日々子に紅莉は自ら飛び込んだ。
「――あかりぃいいっ!!」
二人の姿が視界から消えた。
悠真だけがひとり、屋根にぽつんと立っている。
悠真は下を確認することもせず、すぐに来た道を引き返した。
梯子を駆け下り、廊下で転び、階段を数段飛び越して教会の外へ飛び出した。
――居た。
二人とも、石畳の上に重なり合うようにして倒れている。
まずい。三階程度の高さだったとはいえ、落ちたのが硬い地面では無事かも分からない。
頼む、どうかお願いだから助かっていてくれ。
日々子に覆いかぶさられたままでは、どんな状態かも分からない。
クソッ、邪魔だ。
急いで障害物を突き飛ばし、紅莉を解放する。
そんな、という言葉が悠真の口から漏れた。
彼女は仰向けの状態で、口を震わせていた。
だが、声を出しているのかも分からないほどに呼吸が小さい。
「そんな、嘘だ……」
運が悪い、では片付けられないほど最悪だった。
落ちた際のはずみだったのか、それとも日々子が狙ってそうしたのかは分からない。
彼女の胸に、日々子の持っていたナニカが突き立てられていた。
屋根は緩やかな傾斜になっているとはいえ、ビルの三階ほどの高さがある。落ちたらひとたまりもないだろう。特に今日は風が強く、立っているのがやっとだった。
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一方の日々子はフラフラとした足取りで、紅莉に近寄ろうとしている。
「ん~ふふふ♪」
日々子が何かを歌っている。
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それをなぜ今歌っているのかは分からないが、おちょくられているようで腹が立った。
「おいっ、こっちだ!!」
そう叫んでみるが、こちらには見向きもしない。
ハレルヤを口ずさみながら、どんどん前に足を進めている。
早く止めないと。アイツは紅莉を殺す気だ。
「だめっ、こっちに来ないで!!」
もはや、身体を張って止めるしかない。
危険を顧みず、悠真は駆け出した。
紅莉を失ってたまるか。頼む、間に合ってくれ。
だが悠真の想いも、伸ばした手も届かない。
時が止められるとしたら、悠真は間違いなく実行していただろう。
だが、そんなことは到底不可能だった。
日々子が黒い尖った何かを、勝鬨を上げるかの如く天へ振り上げているのが見えた。
「悠真君。また、ね……」
彼女は迫りくる脅威を避けるよりも、愛する悠真にその言葉を届けることを選択した。
そして、近付いてくる日々子に紅莉は自ら飛び込んだ。
「――あかりぃいいっ!!」
二人の姿が視界から消えた。
悠真だけがひとり、屋根にぽつんと立っている。
悠真は下を確認することもせず、すぐに来た道を引き返した。
梯子を駆け下り、廊下で転び、階段を数段飛び越して教会の外へ飛び出した。
――居た。
二人とも、石畳の上に重なり合うようにして倒れている。
まずい。三階程度の高さだったとはいえ、落ちたのが硬い地面では無事かも分からない。
頼む、どうかお願いだから助かっていてくれ。
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クソッ、邪魔だ。
急いで障害物を突き飛ばし、紅莉を解放する。
そんな、という言葉が悠真の口から漏れた。
彼女は仰向けの状態で、口を震わせていた。
だが、声を出しているのかも分からないほどに呼吸が小さい。
「そんな、嘘だ……」
運が悪い、では片付けられないほど最悪だった。
落ちた際のはずみだったのか、それとも日々子が狙ってそうしたのかは分からない。
彼女の胸に、日々子の持っていたナニカが突き立てられていた。
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