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6 神様と水着メイド

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 アイに服を脱いで運動をすると唐突に言われ、困惑するナユタ。


「え……?」
「服を着たままだと濡れちゃいますからね。さ、ナユタ様? ちゃっちゃと脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「ちょ、ちょっと!? やっ……いやぁぁぁ!!」


 目にも留まらぬ速さで俺の背後に回り込んだアイは、物凄い力で俺の手首を片手で掴み、俺が着ていたスーツをポイポイの脱がし始めた。
 そしてあっという間に、俺は……俺は……!!


「俺……穢されちゃった……」
「なにを言っているんですかナユタ様。神である貴方がちょっと裸を見られたぐらいでそんな情けないことを言わないでくださいよ」
「初めてオカン以外に見られたんだぞ!? 俺の息子を!!」
「はいはい、ご立派な息子さんをお持ちでしたよ。GODサイズですね~プークスクス。そもそも神なんてものは露出狂の集まりなんですからさっさと慣れてくださいよ」


 何だよ、その偏見!?
 ってかGODサイズってなに!? 神ってみんな変態なの!?


「ていうか、水着に着替えさせるならそう言ってくれればいいのに。そうすれば大人しく自分で着替えたぞ俺は」
「えへへへ。つい」


 自身もいつの間にか真っ赤なビキニ姿になったアイはその素晴らしい肉体を惜しげもなく晒しながら、俺の腕を取って楽しそうにしている。

 推定Fカップの柔らかいバストが俺の腕にムニュウと潰されて……うん、幸せだ。


「あ~、ナユタ様。あんまり見られますと、いくら私でも……その」
「すっ、スマン!! とても綺麗だったからついっ!!」
「キレイっ!? わ、私が……キレイ……?」


 アイは俺の腕をパッと離し、真っ白な顔を両手で抑えながら朱に染めて恥ずかしそうにしている。
 寂しくなった俺の腕に、熱くなったアイの体温が伝わってきて……俺もオカシクなってしまいそうなんだが……。


「あっ、危ないところでしたわ。私としたことが、オーバーヒート寸前まで追い込まれるだなんて……さすがご主人様パワー、恐るべしですわ」
「なんだよ、そのご主人様パワーって?」
「お忘れですか? 私はナユタ様のアシスタントとして製造されたんですよ。ただでさえご主人様好き好きになっちゃう設定なのに……そんな褒め言葉を言われたら好感度が爆上がりしちゃうに決まってるじゃないですか!」


 なにその俺の為に作られたご都合主義みたいなアシスタント機能! 最高じゃないか……。


「……そう言っておかないと、私が一方的に一目惚れしたみたいじゃないですか」
「ん? どうしてそうなるんだ? 一目惚れって?」
「――ッ!? もうっ、何も言ってません!!」


 なんで俺はアイに怒られたんだ?? ただ正直に思ったことを言っただけなんだが……なにが彼女の気を悪くさせてしまったのだろう?


「そうでした。ナユタ様はそういう鈍い男性でしたね。……まったく、ナユタ様が変なことを言うので、最初の話からだいぶ逸れてしまいましたよ」
「えぇ……? これって俺の所為なのか……?」
「そうなんですぅ! まったくもう、お陰で話が全く進まないじゃないですか……」


 そんなこと言われても、俺はただ有無も言わさず水着に着替えさせられたんだぞ?
 そもそも、会話だって全部アイのペースだったじゃないか……?


「それでですね。――これからナユタ様には、ふたたびゲームをしていただきます」
「はぁ? またゲームなのか? 大体、なんでゲームが世界を作ることと関係しているんだよ……」


 最初の『にゃんにゃんパラダイス』だってそうだ。
 ゲームで昼飯をデリバリーして貰うなんて謎機能過ぎて、神であるはずの俺が置いてけぼりなんだよ。アイが生まれる前にスマホから聞こえた“創世システム”や“ゼウスメーカー”っていうのも、結局どんなものなのか分からないし。


「詳しい説明は後ほど致しますわ。簡単に説明申し上げますと、ゼウスメーカーは地球産のゲームを元に、神力を高める機構になっておりますの。つまり、神力を貯めてこの世界を作り上げようってことですね!」
「お、おぉう……?」


「私と末永く一緒に頑張りましょうね!」と高いテンションで押し切られてしまったが……神といえどタダでは何もできないってことか。どうせいきなり神になれって言われたところで実感なんてないし、研修期間だと思えば……。


「まぁ美女と一緒に遊びながらスローライフができると思えば、地球に居た時に比べたら天国みたいなものか。ハハハハ!!」

「その意気です!」というアイに煽てられ、俺はかなり調子に乗っていた。



 ――その数時間後。

 俺は、この時のことを死ぬほど後悔することになる。




 ←↑→↓○×△□↑↑↓↓


 ~始まりの海岸線にて~


「ぜぇ、ぜぇ……マジでなんなんだコレっ。ムリゲーだって!!」
「もぉ~!! ナユタ様、情けなさすぎですよー!? ほら、しっかり!!」
「む、無理だって~!」


 俺は今、波によって砂浜に打ち上げられ、海藻まみれの姿で大の字に伸びていた。全身はもう海水でビッショビショだし、疲労感でもう動けそうにない。

 なぜ俺がこんなことになっているかと言うと……


「こんな身体を張ったアトラクションなんてできるワケねーだろ!!」


 俺は海上に浮いているマットの大群を指差して、絶叫を上げていた。



 俺がヘバる少し前。
 アイに手を引かれ、俺は大海原が広がる砂浜に来ていた。


「で? 海岸に来てどうするんだ? またスマホでゲームをするんじゃなかったのか?」


 海を見ながらやるゲームもオツだとは思うけど、別に着替える必要は無いしなぁ。息抜きに水泳でもやるのか?


「では、ナユタ様。スマホのゼウスメイカーを起動して、『アクアトラクション』のゲームを開始してください」
「アクア? んー、これか? ほいっと……うわっ!? な、なんだ!?」


 アイに言われた通りに『アクアトラクション』と表示されていた項目をタップすると、俺の左眼から光が一気に放射された。まるでビームを放つヒーローみたいだが、いざ自分から放たれていると思うとメチャクチャ怖い。


「な、なっ……なんだ、コレッ!? どうしちまったんだ俺の眼は!?」
「あっ、ちゃんとピューって出ましたね~! ホラホラ、海の方を向いてください♪」


 俺が一人でアタフタしていると、アイは俺の両肩を掴んで海の方へと向きを変えた。すると俺から出ていた光が海へと当たり、海上に次々とブロックやロープ、穴の空いた柱などが生まれていく。


「なんだこれは……アトラクションなのか、コレは?」
「そうですよ! 水の遊戯設備。だから『アクアトラクション』です♪」


 です♪って言われても……つまりゲームはゲームでも、今度は俺が実際に身体を使ってやらなきゃいけないってことなのか?


「マジかよ。別に俺は運動神経良くないんだけど……」
「大丈夫ですよ!! ナユタ様の身体は、努力次第でこの世界に適応できるように改造されていますので!」
「いやそれ、全然安心できないよね!? なに、改造って!? 眼以外にも何かされていたの俺?」


 しかも努力次第って、結局は俺が苦労しなくちゃいけないってことじゃないか。

 くそう……せっかく美女と楽なスローライフができると思ったのに。所詮、そんなに甘い世界ではないってことなのか……。


「で? 今度はこのアトラクションで何をすればいいんだ?」
「ナユタ様には、この様々な障害物をクリアしていただきます! コレを攻略してゼウスポイントを稼げば、永続的に飲むことができる水源をゲットできますよ!!」


 げっ、メチャクチャ重要じゃねーか。

 いくら神になった俺の身体といえど、腹が減りゃ喉も乾く。当然、この不毛の大地においては飲み水や食べ物の確保は最重要課題だ。

 だからこの世界で生活する第一歩として、このゲーム……失敗はそのままイコール死に繋がる。


「ちょっと最初からハードモード過ぎじゃないっすかね、アイさん?」
「そんなことないですよぉ! これでも、必要なものから段階を踏んでしっかりサポートしているんですからねっ!」


 そうなのかなぁ? 俺としてはもっとこう、チートみたいにパパ~っとやれてもいいんだけど。

 まぁいつまでもグチグチ言っていても仕方がない。さっそくこのアトラクションにトライしてみようじゃないか!


「この飛び石みたいに浮いているマットを抜けたり、ターザンロープでア~アァ~したりすればいいんだろう? 今はアレだが、俺だって昔は運動部だったんだ。少しぐらいは動けるところ、アイにも見せてやるぜ!」
「おおっ、その意気ですよナユタ様! 頑張ってくださいね~!!」


 気合を入れ直した俺はアイの応援を背に、スタートと立て看板がある場所に向かって意気揚々と走り出していった。



 ……そうして現在。
 俺はアッサリと撃沈し、砂浜に打ち上げられたワカメとなったワケである。


「ナユタ様……仕方ありませんね! ここは私も人肌脱ぎましょう!!」



 ――えっ? それ以上脱いでくれるの!?








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