【完結】契約結婚したワケあり騎士様が、溺愛モンスターでした。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
5 / 5

最終話 新たな光の中で

しおりを挟む

 賊たちが鎮圧された後も、王都の広場はなお騒然としていた。ざわめきと驚愕が渦巻く中、一人の男がゆっくりと立ち上がった姿が目に映る。それは、今や誰の目にもはっきりと見えるようになった——伝説として語られてきた影の騎士、ノクスだった。


「……あれが、影の騎士……?」
「本当に存在していたのか……伝説じゃなかったのか!」

 普段は尊大な態度を崩さない貴族たちが、恐怖と畏怖を滲ませてひれ伏し、顔を上げることもできずに震えている。その姿は、かつて彼を道具と嘲笑していたときの尊大さとはまるで別人のようだった。呆れるほど滑稽で、どこか痛快ですらある光景に、私は胸の奥がすっと軽くなるのを感じた。

 そんな空気の中で、ノクスは静かに私を振り返った。目が合った瞬間、彼は少し照れたように笑みを浮かべ、けれど瞳は決意に輝いていた。


「もう、誰に見られても関係ない。俺は、お前の隣に立つ」

 短くも力強い言葉に胸が熱くなり、思わず瞳が潤む。私の心の奥底で、ようやく夢見た瞬間が現実になったのだと実感する。その時、貴族の一人が顔色を変え、慌てた様子で前に出てきた。

「影の騎士が……姿を現すなど、王家への反逆に等しいぞ!」

 傲慢で震える声が広場に響く。場が緊張に包まれる。私は一歩前に出て、ゆっくりと会釈をし、口元に微笑を浮かべて言い放った。

「彼の姿が見えないのを良いことに、口にも出せないような汚い仕事もさせていたそうですわね?それこそ、王家への反逆に近しいことも」

 広場が水を打ったように静まり返る。貴族の顔が見る見るうちに青ざめ、周囲の貴族たちも息を呑んでいた。私は心の中で小さく勝利をかみしめながら、凛とした声で続けた。


「この方は私の大事な夫です。これからは、敬意と礼節を持ってお付き合いくださいますようお願い申し上げますわ」

 ノクスの肩がわずかに揺れ、隣で控えめに吹き出した。その表情は少し照れていて、不器用ながらも幸せそうな微笑みを浮かべていた。


 数日後、王都随一の大劇場。華やかなロビーで、私はノクスと腕を組んで立っていた。彼はまだ落ち着かない様子で周囲を見回し、視線が私に向かうたびに緊張と照れが混ざった笑顔を見せてくれる。

「こんな場所に来る日が来るなんて、思ってもみなかった」

 その声は戸惑いを含みつつも、どこか楽しそうだった。彼の瞳は、舞台の幕が上がる瞬間を待つ子どものようにきらめいている。


「大丈夫よ。今日は二人で物語を楽しむ夜。あなたとなら、どんな舞台ももっと素敵になるわ」

 私はそっと彼の手を握り、温もりを確かめた。もう冷たい影ではなく、確かな命のぬくもりがそこにあることが何よりも嬉しかった。

 やがて案内係に導かれ、ふたり並んで座席に腰を下ろした。劇場内はきらびやかで、ざわめきと期待に満ちていた。幕が上がる直前、ノクスがそっと私の耳元に顔を寄せて囁いた。


「次は、俺が君の物語を守る番だな」

 少し頬を赤らめながら言うその言葉に、私は思わず笑みをこぼした。

「ええ、一緒に歩んでいきましょう」

 開演を待つ間に私が会場で購入したお菓子の小さな包みを開けると、隣のノクスが目を輝かせる。袋の中を覗き込みながら「これ全部俺が食べてもいいか?」と真剣に尋ねてくるその様子に、私は吹き出しそうになりながら肩を震わせた。そしてモグモグと咀嚼しながら、小声で「もう少しバターを多くした方が美味しいのに」と真剣に呟く姿に、笑いを堪えるのがさらに難しくなる。

 舞台の幕がゆっくりと上がり、光と音楽に包まれる。私は心の奥底で願った。——これからの未来も、この人と手を取り合いながら、時々こうして笑い合いながら、輝き続けられますように。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。 彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。 クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。 悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。

【完結】泉に落ちた婚約者が雑草役令嬢になりたいと言い出した件

雨宮羽那
恋愛
 王太子ルーカスの婚約者・エリシェラは、容姿端麗・才色兼備で非の打ち所のない、女神のような公爵令嬢。……のはずだった。デート中に、エリシェラが泉に落ちてしまうまでは。 「殿下ってあのルーカス様……っ!? 推し……人生の推しが目の前にいる!」と奇妙な叫びを上げて気絶したかと思えば、後日には「婚約を破棄してくださいませ」と告げてくる始末。  突然別人のようになったエリシェラに振り回されるルーカスだが、エリシェラの変化はルーカスの気持ちも変えはじめて――。    転生に気づいちゃった暴走令嬢に振り回される王太子のラブコメディ! ※全6話 ※一応完結にはしてますが、もしかしたらエリシェラ視点バージョンを書くかも。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです

ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。 そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、 ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。 誰にも触れられなかった王子の手が、 初めて触れたやさしさに出会ったとき、 ふたりの物語が始まる。 これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、 触れることから始まる恋と癒やしの物語

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...