【完結】契約結婚したワケあり騎士様が、溺愛モンスターでした。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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第4話 影を抱く光

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 王都の夜。静かだった街は、突如としてざわめきに包まれた。舞踏会の最中、城門近くで火の手が上がり、続いて悲鳴が響き渡る。

「何事だ!?」
「襲撃か!」

 闇に紛れて現れたのは、王国を狙う悪名高い盗賊団。王都で流れていた不穏な噂が現実となった瞬間だった。奴らは火を放ち、混乱に乗じて貴族や富裕商人を標的に襲撃を開始していた。


「賊だ!」
「早く避難を!」

 煌びやかな舞踏会場で笑みを浮かべていた貴族たちも、一瞬で蒼白になり、裾を引きずりながら右往左往する。あれほど誇らしげに身につけていたドレスや宝石も、今やただの重荷。誰ひとりとして立ち向かおうとはせず、無様に転びながら場を離れていく姿が、皮肉にも滑稽に見えた。

 そんな混乱の渦中で、ただ一人、静かに立ち向かう影があった。

 ノクス——誰にも見えない存在が、今まさに剣を抜き、無音の誓いを胸に賊の前に立ちはだかっていた。


「ここは、俺が守る」

 その声は小さくても、夜風に乗って鋭く響くように感じた。

 賊のひとりが狂気じみた笑みを浮かべ、剣を振り下ろす。しかしノクスは冷静に受け止め、瞬時に体を捻って相手を地面に伏せさせる。その動きは鋭く、美しさすら感じさせた。

 剣戟が鳴り響き、金属音と悲鳴が混じり合う。ノクスは無駄のない動きで次々と敵を制圧していくが、相手の数は多く、押し寄せる波のように次々と襲いかかってくる。傷が増え、血が地面に染みを作り、その足元は赤く濡れていった。


「ノクス……!」

 遠くで見つめる私の胸は張り裂けそうだった。足はすくみ、恐怖が全身を覆う。しかし、もう見ているだけではいられない。彼にすべてを背負わせるわけにはいかない。

「もういい……もう、独りで戦わないで!」

 気づけば、私はスカートの裾を摘み、無我夢中で走り出していた。剣が交わる音、賊の叫び声が耳をつんざく中、ただ彼の背中を目指して駆け寄る。誰も気づかない彼の存在。でも私だけは、見えている。

 賊の刃が振り下ろされる寸前、私は思わずその背中に飛び込み、両腕で強く抱きしめた。


「私だけは、あなたをちゃんと見ている。誰にも気づかれなくても、私には見えているから!」

 その体が小さく震えた。冷たく硬い影だと思っていた背中は、温かく脈打ち、生きていることを確かに感じさせた。涙が頬を伝い落ちても、私は決して腕を離さなかった。


「リリア……なぜ……こんなことを……」

 その声は震えていた。驚きと戸惑い、そして恐れが混じっている。

「短い時間でも、私はあなたを愛している。あなたのすべてを愛してるから! 」

 その瞬間、柔らかな光が私たちを優しく包み込んだ。

 ノクスの体を覆っていた影が、夜明けの霧が晴れていくように薄れていく。彼自身も息を呑み、胸に震える手を置いた。


「呪いが……解けた……?」

 目を瞬かせ、呼吸を忘れたような表情で私を見つめてくる。その表情は幼さを帯び、不器用で、けれど無防備で愛おしかった。

「もう影じゃないわ。あなたは——私にとって世界で一番誇らしい人」

 その言葉を聞いた瞬間、彼の頬に一筋の涙が伝った。

 賊たちは次第に押さえ込まれ、駆けつけた兵士たちによって鎮圧されていった。混乱の収束が近づく中、私たちの周囲だけが静かで、柔らかい光に満ちていた。


「ありがとう……俺を、見ていてくれて」

 ノクスは、不器用ながらも優しい笑みを浮かべ、そっと私の髪に触れた。その手は信じられないほど温かく、安心感を与えてくれた。


「これからは隣にいてくれるか?」

「もちろん。あなたが望むなら、これからも、ずっと」

 その瞬間、彼の頬に赤みが差し、不器用で心からの笑みが咲いた。

 夜空には、いつの間にか無数の星が輝き、静かに私たちを見守っていた。私は心の奥底で、これからも共に歩む未来を誓い、そっと彼の手を握り返した。

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