7 / 106

第7話 魔王様、調理開始です

しおりを挟む

 出逢った獣人三人娘に「メシを食わないか」と提案したところ。三人はちょうどいい場所があると言って、俺たちを食堂のキッチンへと案内してくれた。

 そこはお城と比べるとどれも質素な設備ではあったが、しっかりとした丈夫な造りのものだった。


「本当にご飯を作ってくれるのニャ? この村の食料はもう野菜クズひとつ残っていないのニャー」

 雷のようなギザギザ尻尾を左右に振りながら、猫獣人のフシは金色の真ん丸な瞳をこちらに向けてきた。

 彼女は白と黒のブチ柄をした髪がキュートだ。そして三人の中でも一番小柄なのだが、どうやらお姉さん的ポジションらしい。
 年齢も一番上なのか?と聞くと、「三人とも歳は覚えてないのニャ!」と返された。


「フシの言う通りなのです、野菜どころか麦粒一つ残っていないのです!」

 続いて発言したのが犬獣人のクーだ。
 彼女は耳が遠いのか、声がやたら大きい。
 だが根は真面目で良い子そうだ。


「おじさん、何も持ってないー」
「だいじょうぶ。魔法の収納バッグを持ってるから。……あと俺はお兄さんな。まだおじさんって歳じゃないから」
「おじさん、できるおじさんだったー!?」

 両手をパタパタとさせながら、俺の周りをピョンピョンと跳ねまわる元気っ子。

 彼女は鳥獣人のピィ。アホの子っぽいというか、あの。俺の話、ちゃんと聞いてました?


「ほら、今から食材を出してやるからな」

 口で言っても信じてもらえなさそうなので、さっさと料理を作ってしまおう。見た目の倍は入る収納バッグを調理台の上に置くと、ガサゴソと中を漁り始める。

 これは生前の勇者が持っていたのをパク……借りているものだ。
 魔王城から人間族の王城まで旅をしていた間に、色々と詰め込んできた。一人で食べるなら一週間は十分に持つ量があったはず……。


「ふおぉおおおっ!? 魚! 魚なのにゃ!」
「肉もあるのです!! 骨付きなのです!!」
「虫はないのー?」

 三者三様のリアクション。
 宝石でもみるかのように、目をキラキラさせながら机の上の食材を見つめている。

 そしてごめんピィ。さすがに虫は無いんだ……。


「好き嫌いは分からないから、取り敢えず適当に作ってみるよ。……それまで、コイツでも摘まんでおいてくれ」

 果物の詰め合わせをいくつか出しておく。
 すると伸びていた6本の腕がそちらに向いた。危なかった、このままじゃ生のまま食材が喰われてしまうところだった。

 そんな光景をリディカ姫は、俺の隣でクスクスと笑いながら眺めていた。


「ふふふ、食いしん坊さんたちですね」
「それだけ貧しい思いをしていたんだろうな」

 これなら皮を剝くだけですぐに食べられるだろう。しまったな、王城にあったフルーツも拝借してくれば良かったか。


「さて、俺は調理に入るが……リディカ姫はどうする?」
「すみません。私は料理を一度もしたことがなくて……」

 あー、まぁそりゃそうか。
 他の姫と比べて扱いが悪かったとはいえ、姫様だもんな。じゃあ子供たちの相手でもしていてもらうか?

 だがリディカ姫は少し恥ずかし気にしながら、でも――と続けた。


「これからは姫ではなく、領主の妻として生活を始めるわけですし。お手伝いの仕方から教えていただけないでしょうか」

 なるほど、そういう理由であれば断る理由はない。それにしてもこの子、意外とガッツがあるじゃないか。

 俺はリディカ姫を調理場へと招き入れると、彼女のために簡単な料理教室を行うことにした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...