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第9話 魔王様、目標ができました

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「フシ、ピィ、クー。俺の子分になるってどういうことだ?」
「言葉通りの意味だニャ!」

 そう言ってフシは、俺に抱き着いてきた。上目遣いで見つめてくる猫耳少女には、逆らえないものがあるな……。

 そんな事を思っていると、隣で見ていたリディカ姫が少しだけムッとした様子を見せる。

「あ、あの! あまり勇者様にご迷惑をお掛けしては――」
「僕も子分になるですっ!!」
「あたしもー!」
「あぁっ、もうっ……」

 リディカ姫が止める間もなく、フシに続きクー、ピィの順で三人が俺の脚に体を寄せてきた。正直三人とも可愛いから困ってしまう。

 そんな俺に、フシが顔をさらに寄せてくる。


「フシたちには、ストラ兄の他に頼れる大人がいないのニャ!」
「ストラ兄って……ちなみにお前たちの親や家族は?」
「何年も前に戦争のドサクサではぐれたのニャ。たぶんもう死んでいるし、今の家族はクーとピィだけなのニャ」

 あっけらかんと、事実を述べる。だけどそこには、悲しみや怒りはない。

 そんな感情は、とっくの昔にり切れてしまったのかもしれない。
 ここまで生きてこれたのは、他の二人が居たおかげだろう。似た境遇の三人が集まって、共に助け合ってきたんだ。それもまだ、十歳そこらの子たちが必死になって……。

 彼女たちをそんな目に遭わせたのは、いったい誰だ?
 責任は、戦争を始めた大人たちにあるんじゃないのか……?

 俺は罪悪感から逃れるようにフシから視線をらすと、今度はリディカ姫と目が合った。


「私は、ストラゼス様のお好きにすればいいと思います」
「リディカ姫……」
「ですが……ふふっ。もし見捨てるのなら、覚悟してくださいね? 貴方を思いっ切りビンタしたあとに、私が一人でこの子たちの面倒を見ますから」

 茶目っ気たっぷりにウインクしてくるリディカ姫。こっちが何を考えているかなんて、すっかりお見通しのようだ。

 俺はそんな彼女に向かって、降参だと言わんばかりに両手を挙げた。


「分かったよ、お前らは今日から俺の子分だ!」
「やったー! ストラ兄、よろしくなのニャ!!」
「まぁ子分というか、キチンと雇用契約を――あぁ、難しい言葉を使うなって? じゃあいいや、子分で」

 フシがピョンと飛び跳ねて喜びを表現すると、クーもピィも同じように喜んだ。

 そんな三人の様子をリディカ姫は微笑ましそうに眺めたあと、キュッと口を結んでから俺に頭を下げた。

「ありがとうございます。この国の王女として、貴方の心遣いに感謝します」
「頭を上げてくれ。姫さんに礼を言われることじゃない」

 むしろ、お礼を言いたいのはこっちの方だ。背中を押してくれたことに、俺は感謝している。

「それに……ここに住んでいれば、獣人が集まってくるのは必然だろうし」

 勇者と魔王の戦いが終わったとはいえ、種族間の小競り合いはまだ続くはず。
 そうなれば当然、彼女らと同じように行き場をなくした獣人も出てくるだろう。

 そんな奴らが安心して生活できる街を、俺はこの場所に作ってあげたい。


「……まじまじと人の顔を見て、どうしたんです? 私の顔に何かついていますか?」
「いや、これからよろしく頼むよって思ってさ」
「どうしたのですか、急にあらたまって」

 あくまでも街づくりは俺の我が儘だ。それに付き合わせるリディカ姫には、きっと苦労を掛けてしまうだろう。

 その代わりと言ってはなんだが、俺は全力で彼女を幸せにしなければ。


「俺はいずれ、この場所に獣人の街を作ろうと思う」

 俺がそう言うと、フシたちはポカンとした表情を浮かべる。
 いきなりそんなことをやろうとしても無理かもしれないが、なるべく早いうちに彼女たちには説明が必要だと思ったんだ。

 しばらく経っても誰も何も反応しないものだから、俺はもう一度同じことを口にしようとした――が、それは叶わなかった。何故なら、獣人娘たちが一斉に飛びかかって来たからだ。

「ストラ兄! そんなすごい夢があったのです!?」
「僕たちも役に立てるように頑張ります!」
「やるのー!」

 彼女らの勢いに押し倒され、危うく床に頭をぶつけるところだった。


「なんだか、勇者様は子供たちのパパみたいですね」

 ……それは否定できないな。
 自分に抱き着く三人の幼い獣人娘たちを見て、俺は思わず苦笑いを浮かべた。


 ――さて。
 これから俺たちは獣人の街作りに向けて、本格的に動き出すことにしよう。だがまず最初にやるべきことは、自分たちが生活するための環境づくりだな。

「では、最低限の衣食住を確保するために――」
「ちょっと待つニャ」
「――え?」

 そう言いかけたとき、フシが待ったをかけた。彼女は耳をピコピコさせながら、真剣な表情で俺を見る。

「魔物の大群が、この村に向かってきているニャ」
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