9 / 106
第9話 魔王様、目標ができました
しおりを挟む「フシ、ピィ、クー。俺の子分になるってどういうことだ?」
「言葉通りの意味だニャ!」
そう言ってフシは、俺に抱き着いてきた。上目遣いで見つめてくる猫耳少女には、逆らえないものがあるな……。
そんな事を思っていると、隣で見ていたリディカ姫が少しだけムッとした様子を見せる。
「あ、あの! あまり勇者様にご迷惑をお掛けしては――」
「僕も子分になるですっ!!」
「あたしもー!」
「あぁっ、もうっ……」
リディカ姫が止める間もなく、フシに続きクー、ピィの順で三人が俺の脚に体を寄せてきた。正直三人とも可愛いから困ってしまう。
そんな俺に、フシが顔をさらに寄せてくる。
「フシたちには、ストラ兄の他に頼れる大人がいないのニャ!」
「ストラ兄って……ちなみにお前たちの親や家族は?」
「何年も前に戦争のドサクサではぐれたのニャ。たぶんもう死んでいるし、今の家族はクーとピィだけなのニャ」
あっけらかんと、事実を述べる。だけどそこには、悲しみや怒りはない。
そんな感情は、とっくの昔に擦り切れてしまったのかもしれない。
ここまで生きてこれたのは、他の二人が居たおかげだろう。似た境遇の三人が集まって、共に助け合ってきたんだ。それもまだ、十歳そこらの子たちが必死になって……。
彼女たちをそんな目に遭わせたのは、いったい誰だ?
責任は、戦争を始めた大人たちにあるんじゃないのか……?
俺は罪悪感から逃れるようにフシから視線を逸らすと、今度はリディカ姫と目が合った。
「私は、ストラゼス様のお好きにすればいいと思います」
「リディカ姫……」
「ですが……ふふっ。もし見捨てるのなら、覚悟してくださいね? 貴方を思いっ切りビンタしたあとに、私が一人でこの子たちの面倒を見ますから」
茶目っ気たっぷりにウインクしてくるリディカ姫。こっちが何を考えているかなんて、すっかりお見通しのようだ。
俺はそんな彼女に向かって、降参だと言わんばかりに両手を挙げた。
「分かったよ、お前らは今日から俺の子分だ!」
「やったー! ストラ兄、よろしくなのニャ!!」
「まぁ子分というか、キチンと雇用契約を――あぁ、難しい言葉を使うなって? じゃあいいや、子分で」
フシがピョンと飛び跳ねて喜びを表現すると、クーもピィも同じように喜んだ。
そんな三人の様子をリディカ姫は微笑ましそうに眺めたあと、キュッと口を結んでから俺に頭を下げた。
「ありがとうございます。この国の王女として、貴方の心遣いに感謝します」
「頭を上げてくれ。姫さんに礼を言われることじゃない」
むしろ、お礼を言いたいのはこっちの方だ。背中を押してくれたことに、俺は感謝している。
「それに……ここに住んでいれば、獣人が集まってくるのは必然だろうし」
勇者と魔王の戦いが終わったとはいえ、種族間の小競り合いはまだ続くはず。
そうなれば当然、彼女らと同じように行き場をなくした獣人も出てくるだろう。
そんな奴らが安心して生活できる街を、俺はこの場所に作ってあげたい。
「……まじまじと人の顔を見て、どうしたんです? 私の顔に何かついていますか?」
「いや、これからよろしく頼むよって思ってさ」
「どうしたのですか、急にあらたまって」
あくまでも街づくりは俺の我が儘だ。それに付き合わせるリディカ姫には、きっと苦労を掛けてしまうだろう。
その代わりと言ってはなんだが、俺は全力で彼女を幸せにしなければ。
「俺はいずれ、この場所に獣人の街を作ろうと思う」
俺がそう言うと、フシたちはポカンとした表情を浮かべる。
いきなりそんなことをやろうとしても無理かもしれないが、なるべく早いうちに彼女たちには説明が必要だと思ったんだ。
しばらく経っても誰も何も反応しないものだから、俺はもう一度同じことを口にしようとした――が、それは叶わなかった。何故なら、獣人娘たちが一斉に飛びかかって来たからだ。
「ストラ兄! そんなすごい夢があったのです!?」
「僕たちも役に立てるように頑張ります!」
「やるのー!」
彼女らの勢いに押し倒され、危うく床に頭をぶつけるところだった。
「なんだか、勇者様は子供たちのパパみたいですね」
……それは否定できないな。
自分に抱き着く三人の幼い獣人娘たちを見て、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
――さて。
これから俺たちは獣人の街作りに向けて、本格的に動き出すことにしよう。だがまず最初にやるべきことは、自分たちが生活するための環境づくりだな。
「では、最低限の衣食住を確保するために――」
「ちょっと待つニャ」
「――え?」
そう言いかけたとき、フシが待ったをかけた。彼女は耳をピコピコさせながら、真剣な表情で俺を見る。
「魔物の大群が、この村に向かってきているニャ」
18
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる