12 / 106
第12話 魔王様、浄化です
しおりを挟む
それから数日後のこと。
俺が川で釣りをしていると、対岸の方で獣人三人娘たちの姿を見かけた。
どうやらまた魚を獲りに来たらしい。
フシは釣り竿を持ちながら、器用に猫の長い尻尾で糸を手繰り寄せている。
そんな彼女の真似をして失敗する犬獣人のクー。
鳥獣人のピィは……チョウチョを追いかけて遊んでいた。
「長閑な日々って良いですね」
「そうだな……」
俺の隣ではリディカ姫が川に足を伸ばし、プラプラと揺らしていた。
冷たい川の水も、今日みたいな暖かい陽気の日には丁度いい。彼女の言葉に俺は静かに同意する。
「これも姫様が、水を浄化してくれたおかげだな」
川を汚染していたベノムワームの毒は、綺麗サッパリと無くなっていた。
本来なら時間を掛けてゆっくりと洗い流されていくはずだったんだが。まさかのリディカ姫が浄化魔法の使い手だったとは。
「なんであんな凄い力を隠し持っていたんだ?」
俺が彼女にそう訊ねると、「あはは……」と少し気まずそうに答えた。
「別に隠すつもりは無かったんですよ? 単に王都じゃ使い道が無かったというか……」
「まぁ、治療術師や聖職者がいるもんな」
規模と威力に違いはあれど、治療や浄化の魔法は人族も使えるはずだ。それに薬師が作る治療薬も優秀だと聞いている。
今回みたいに広範囲の土地に毒が回っているとかじゃないかぎり、彼女の本領が発揮されるシーンは無かっただろう。
「元々は誰かの役に立ちたいと思って、頑張って特訓をしていたんです。昔、とある人に魔法で助けてもらって……」
「へぇ、そうなのか」
「憧れってやつですね。今じゃその人、どこで何しているか分かりませんが」
恋する乙女のように、頬を染めて空を見上げるリディカ姫。
そうか、本当は彼女にも好きな人が居たんだな。無理やりここに引っ張ってきてしまった罪悪感が、心をズキンと痛ませた。
「これは勇者のストラゼス様だけに教えちゃう、私の秘密なんですけどね?」
「……うん?」
ひみつ?
急にどうしたんだろう。
この場には二人しかいないのに、リディカ姫は口元に手を添えて、俺の耳にコソコソと囁き始めた。
「実は私、幼い頃にこことは別の辺境にある村で、魔物に襲われたことがあって」
「へぇ、魔物に」
辺境は魔物が多いからな。そんなこともあるだろう。しかし子供がそんな目に遭ったら、魔物がトラウマになりそうだな。
「あやうく食べられそうになったところを、カッコイイ魔族の人に救ってもらったんです。とっても強くて、あ、もちろん勇者様も強いですよ? でもその人はとってもクールで、ちっとも恩着せがましくなくって!」
「ん、んん……?」
「お礼を言おうと思ったんですけど、目の前でパッと消えちゃって……」
あ、あれ。それって転移魔法……?
その話って、まさか?
「あとから気付いたんですけどね。その人ってなんと、魔王ウィルクスだったんです! 魔族が人族を助けたなんて、ビックリですよね?」
お、おう。俺もめっちゃビックリした。
そういえば過去にそんなことがあったかも……しれない。
いやゴメン。ぶっちゃけ、あんまり覚えてないぞ……?
「だから私、勇者様のこと内心ではかなり恨んでいるんです。魔王討伐が平和の為だったとはいえ、私の恩人でしたから……」
「……そうか」
「ごめんなさい。本当は言おうか迷っていたんですけど。隠し続けるのも悪い気がして」
だから城で会ったとき、勇者ストラゼスに冷たく当たっていたのか。
しかし魔王が恩人かぁ……なんだか事情が複雑になっちまったな。
「うーん、なんだか喋ったらスッキリしました。やっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしれません」
リディカ姫はそう言うと、川から足を上げて立ち上がった。
そしてクルリと回り、スカートの裾をふわりと浮かせながら俺の方を見る。
「まだまだお互いのことを知るべきだと思うんです、私たち。だからこれから少しずつ仲良くしましょうね、勇者様!」
その屈託のない笑顔を見ていると、なんだか俺の心まで浄化されそうだ。
俺も彼女になら正体を打ち明けられるかもしれない――。
そんな事を思っていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。
「ストラ兄! お魚いっぱい獲れたのニャ! 今日は焼き魚を所望するのニャ!」
「明日はお肉がいいです! お肉狩りにいきましょう!!」
「ちょうちょ、おいしいー」
犬、鳥、猫。
獣人三人娘が両手に魚を抱えながら、こちらに手を振っていた。ピィが口をモゴモゴとさせているが、何を食べているかはあえて聞くまい。
「今日こそは私、お魚を完璧に捌いてみせますよ!」
「……そうだな。じゃあついでに、新しい魚料理を伝授しようか」
「はい! よろしくお願いしますね、先生」
リディカ姫に釣られて笑顔になりながら、俺は彼女たちの下へ歩き出した。
――――――――――――――――――
「ストラゼス様。とある世界で『ファンタジー大賞』が始まったそうですよ」
「あー、らしいな。読者さんの応援で、受賞する確率がUPするんだとか」
「『投票』をしてもらった作者が、気持ち悪い顔をしていたニャ!」
「僕も見たのです!」
「見たのー」
「ちょっ、三人とも……」
「…………あんまり言ってやるな」
「え、えっと。清き一票を入れてくださると……」
「作者はともかく、フシたちのためによろしくニャ!」
「なのです!」
「よろしくー」
俺が川で釣りをしていると、対岸の方で獣人三人娘たちの姿を見かけた。
どうやらまた魚を獲りに来たらしい。
フシは釣り竿を持ちながら、器用に猫の長い尻尾で糸を手繰り寄せている。
そんな彼女の真似をして失敗する犬獣人のクー。
鳥獣人のピィは……チョウチョを追いかけて遊んでいた。
「長閑な日々って良いですね」
「そうだな……」
俺の隣ではリディカ姫が川に足を伸ばし、プラプラと揺らしていた。
冷たい川の水も、今日みたいな暖かい陽気の日には丁度いい。彼女の言葉に俺は静かに同意する。
「これも姫様が、水を浄化してくれたおかげだな」
川を汚染していたベノムワームの毒は、綺麗サッパリと無くなっていた。
本来なら時間を掛けてゆっくりと洗い流されていくはずだったんだが。まさかのリディカ姫が浄化魔法の使い手だったとは。
「なんであんな凄い力を隠し持っていたんだ?」
俺が彼女にそう訊ねると、「あはは……」と少し気まずそうに答えた。
「別に隠すつもりは無かったんですよ? 単に王都じゃ使い道が無かったというか……」
「まぁ、治療術師や聖職者がいるもんな」
規模と威力に違いはあれど、治療や浄化の魔法は人族も使えるはずだ。それに薬師が作る治療薬も優秀だと聞いている。
今回みたいに広範囲の土地に毒が回っているとかじゃないかぎり、彼女の本領が発揮されるシーンは無かっただろう。
「元々は誰かの役に立ちたいと思って、頑張って特訓をしていたんです。昔、とある人に魔法で助けてもらって……」
「へぇ、そうなのか」
「憧れってやつですね。今じゃその人、どこで何しているか分かりませんが」
恋する乙女のように、頬を染めて空を見上げるリディカ姫。
そうか、本当は彼女にも好きな人が居たんだな。無理やりここに引っ張ってきてしまった罪悪感が、心をズキンと痛ませた。
「これは勇者のストラゼス様だけに教えちゃう、私の秘密なんですけどね?」
「……うん?」
ひみつ?
急にどうしたんだろう。
この場には二人しかいないのに、リディカ姫は口元に手を添えて、俺の耳にコソコソと囁き始めた。
「実は私、幼い頃にこことは別の辺境にある村で、魔物に襲われたことがあって」
「へぇ、魔物に」
辺境は魔物が多いからな。そんなこともあるだろう。しかし子供がそんな目に遭ったら、魔物がトラウマになりそうだな。
「あやうく食べられそうになったところを、カッコイイ魔族の人に救ってもらったんです。とっても強くて、あ、もちろん勇者様も強いですよ? でもその人はとってもクールで、ちっとも恩着せがましくなくって!」
「ん、んん……?」
「お礼を言おうと思ったんですけど、目の前でパッと消えちゃって……」
あ、あれ。それって転移魔法……?
その話って、まさか?
「あとから気付いたんですけどね。その人ってなんと、魔王ウィルクスだったんです! 魔族が人族を助けたなんて、ビックリですよね?」
お、おう。俺もめっちゃビックリした。
そういえば過去にそんなことがあったかも……しれない。
いやゴメン。ぶっちゃけ、あんまり覚えてないぞ……?
「だから私、勇者様のこと内心ではかなり恨んでいるんです。魔王討伐が平和の為だったとはいえ、私の恩人でしたから……」
「……そうか」
「ごめんなさい。本当は言おうか迷っていたんですけど。隠し続けるのも悪い気がして」
だから城で会ったとき、勇者ストラゼスに冷たく当たっていたのか。
しかし魔王が恩人かぁ……なんだか事情が複雑になっちまったな。
「うーん、なんだか喋ったらスッキリしました。やっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしれません」
リディカ姫はそう言うと、川から足を上げて立ち上がった。
そしてクルリと回り、スカートの裾をふわりと浮かせながら俺の方を見る。
「まだまだお互いのことを知るべきだと思うんです、私たち。だからこれから少しずつ仲良くしましょうね、勇者様!」
その屈託のない笑顔を見ていると、なんだか俺の心まで浄化されそうだ。
俺も彼女になら正体を打ち明けられるかもしれない――。
そんな事を思っていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。
「ストラ兄! お魚いっぱい獲れたのニャ! 今日は焼き魚を所望するのニャ!」
「明日はお肉がいいです! お肉狩りにいきましょう!!」
「ちょうちょ、おいしいー」
犬、鳥、猫。
獣人三人娘が両手に魚を抱えながら、こちらに手を振っていた。ピィが口をモゴモゴとさせているが、何を食べているかはあえて聞くまい。
「今日こそは私、お魚を完璧に捌いてみせますよ!」
「……そうだな。じゃあついでに、新しい魚料理を伝授しようか」
「はい! よろしくお願いしますね、先生」
リディカ姫に釣られて笑顔になりながら、俺は彼女たちの下へ歩き出した。
――――――――――――――――――
「ストラゼス様。とある世界で『ファンタジー大賞』が始まったそうですよ」
「あー、らしいな。読者さんの応援で、受賞する確率がUPするんだとか」
「『投票』をしてもらった作者が、気持ち悪い顔をしていたニャ!」
「僕も見たのです!」
「見たのー」
「ちょっ、三人とも……」
「…………あんまり言ってやるな」
「え、えっと。清き一票を入れてくださると……」
「作者はともかく、フシたちのためによろしくニャ!」
「なのです!」
「よろしくー」
18
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる