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第23話 魔王様、異変です
しおりを挟む――ちゅんちゅん、ちゅちゅちゅん。
「ふわぁ……昨晩は良く寝たなぁ」
ここ辺境の村でも、鳥のさえずりが朝に聞こえるらしい。
気持ちのいい目覚めを迎えた俺は、領主館の自室にあるベッドから出た。
「やっぱり湯に浸かると、疲れの取れ具合が全然違う気がするぜ。しかもそれが温泉なら尚更だ」
昨日はここプルア村に、予想外の大収穫が生まれた。なんと、犬獣人のクーが天然温泉を掘り当ててくれたのだ。
しかも素手で穴をあけるという、とんでもない方法で。ここ掘れワンワンじゃないけれど、まさか温泉を出せるとは夢にも思わなかった。
本来なら火山のある地域だと温泉が出やすいんだったっけ?
たしかに人間領と魔族領を区切るように山が連なっているけれど、その中に活火山があったんだろうか。
「ま、理由は何だっていいか。これで領地経営にも、さらなる希望が見えたわけだし」
そのまま窓を開けて、背伸びをしながら外を眺める。
朝特有の清々しい空気が、脂肪でたるみきった俺の体に喝を入れてくれる気がした。
「さて、今日も一日頑張りますかぁ!」
そうだ、折角だし朝食の前に風呂でも入っちゃおうか。ぐひひ、朝から温泉に入れるなんて優雅過ぎるぜ。
そう考えた俺は、部屋の入り口に向かいかけて……足を止めた。
「え、何かいま……変なものが視界に入ったような……」
窓から見える村の景色、その中に異様な物体が見えた気がした。しかもたった今、自分で話題にしていた温泉の中に、何かがいる。
目を凝らしてよく見てみると――。
「巨大な……白玉??」
◇
洗面所にいたリディカ姫を捕まえ、俺たちはプルア温泉の前へとやってきていた。
「な、なんですかコレは……」
洗面所の鏡の前で、ツルツルお肌になった自分にウットリとしていた彼女も、今では驚愕に目を見開いている。
うん、気持ちは分かるよ。
俺もあまりの衝撃に、眠気なんてすっかり吹き飛んでしまったし。
「朝起きたら、コイツが温泉の中に埋まっているのが見えたんだよ」
「これが、ですか?」
リディカ姫は信じられないとばかりに、巨大な白玉の前に歩いていく。
「おい? 近寄ると危ないかもしれんぞ」
「た、たしかに……」
思わず俺が声を掛けると、リディカ姫は白玉に伸ばしかけていた手を引っ込めた。
確かに白玉はふわふわと柔らかそうな毛が生えているし、弾力もなかなかのものだ。モフモフ好きなら、触ってみたい気持ちは俺も同じだけど……。
そんな俺たちから少し離れた所では、いつの間にか来ていたフシがじーっと白い毛玉を見つめていた。どうやら、フシも気になっているらしい。
「とりあえず、リディカ姫たちは少し離れていてくれ。もし攻撃してきたら危ないからな」
「わ、わかりました」
全員を後ろに下がらせてから、俺はその辺にあった小石を拾い上げた。
そしてその石を、謎の白毛玉を目掛けてポ~ンと放り投げた。
――――ぽよん。
弾力性があるのか、投げた石はトランポリンのように跳ね返る。
「え……もしかしてコレって、生き物なのですか?」
リディカ姫がそう言うのと同時だった。
『うぬあぁあああ!? 我に石を投げたのは誰じゃああ!?』
そんな声と共に、温泉の中にいた謎の白毛玉が正体を現した。
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