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第25話 魔王様、ホンモノです
しおりを挟む『この辺境では、人族と魔族の争いにより沢山の命が奪われてきた』
さっきまでのふざけた雰囲気は消え、守護聖獣様は腹に響くような低い声で語り掛けてくる。
見た目はモコモコした、可愛らしいデカくて丸い兎なのだが、それはさておき。
『このまま土地が血で穢され続け、怒りと悲しみの感情が空気を満たせば……。いずれこの地に封印されている、悪しき神が復活するであろう』
「悪しき神ですって!?」
俺の隣で話を聞いていたリディカ姫が、驚きの声を上げた。
なんだその不穏すぎるワードは。そんなヤバそうな邪神様なんて、魔王時代にも聞いたことが無いぞ?
「リディカ姫は知っているのか?」
「はい。遠い昔に邪神が魔物という災いをこの世にもたらし、当時の勇者らによって封印されたという伝説があるんです」
なるほど?
要するに魔物のボスがその悪しき神ってことか。
でも俺たちに、どうしろっていうんだ?
まさか勇者(中身は魔王)である俺に、その邪神を倒せって言うんじゃ……。
『だが安心するがいい。この地を守護する我がいる』
「守護聖獣サマが?」
『いかにも。我がこの地に顕現したのは、その悪しき神が復活を阻止するためだ』
その言葉を聞いて、俺は思わず「おおっ!」と歓喜の声を上げた。
「では、具体的にはどんなことをするんです? 魔物退治? それとも聖なる結界で浄化するとか……」
『ん? 別にしないンゴ』
いや、しろよ。
俺の期待を返せ、聖獣!
そんな俺の心中を、リディカ姫が代弁してくれた。
「え、しないのですか?」
『うむ。神やその眷属である我は、人々に認識され、崇められてこそ存在できる。この辺境に住まう人の子たちが、我の存在に気づくまで……我はこの地に降り立てなかった。だから今は、この地に宿る魔力を使って顕現するのが精一杯なのだ』
「そ、そうなのですか……」
『しかし安心したまえ。いずれは力を取り戻し、この地に住む者に我の加護を与えようぞ! さすれば邪神を再封印することも、必ずや可能となるであろぉぉおう!』
守護聖獣様はそこまで言うと、カッと目を見開いて天を仰いだ。と同時に、長くて白い兎耳がファサッとめくれ上がる。
「す、すごいです!! 聖獣様の加護をいただけるなんて!」
『うむ……だがそのためには、この地に清らかなる心を持つ住人を増やし、我の力を溜めねばならん!』
リディカ姫が守護聖獣様の言葉に感嘆の声を上げ、俺も同意する。
しかし守護聖獣様は、俺たちに向かって力強く語り始めた。
『そして人族と魔族の争いが長引くことで発生する、負の気と感情エネルギー。まずはその根源を断ち切る! それこそが邪神復活の最善手じゃ!』
おぉー、なんだかホンモノの聖獣っぽいことを言い出したぞ?
「では私たちはこの村を争いの防波堤とし、両種族が手を取り合える場を提供できれば……」
『そうじゃ。魔王が勇者に討ち果たされたことで、一旦は戦争が止むだろう。だがそれも長くはもたん。人族の侵略や魔族の逆襲が始まる前に……ん?』
リディカ姫の言葉に答えていた聖獣様が、ふと俺たちに視線を向けた。正確には、俺を見詰めて目を丸くしている。
『おぬし!? その身に宿す魔力はもしかして……』
あっ、やばっ!?
なんか気付いたぞコイツ!
『……まぁよい。おぬしをここの代表とみて、ちょいと話がある。耳を貸せ』
「な、なんだよ……」
『おぬし――魔王じゃな?』
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