27 / 106

第27話 魔王様、嫉妬する

しおりを挟む

 それで、これはどういう状況なんだ?

 家を建てたり柵を修繕したりと、なにかと木材が入用いりようとなったため、俺は森に木材を切り出しに行っていた。

 肥えきった勇者の体に四苦八苦しながらプルア村に帰ってくると、そこには温泉に浸かるクソ白玉――もとい、守護聖獣にひざまずく獣人三姉妹の姿があった。


「それが、私にも何だか……」
「姫様にも分からんのか」
「私が来たときには、フシちゃんたちがミラ様にこうしている状態で……」

 俺より先にその現場にいたリディカ姫に訊ねるも、彼女も困惑しているらしい。

 ちなみに、彼女は聖獣を『ミラ様』と呼ぶことにしたようだ。伝説の聖獣アルミラージから取ったんだろうが、本人(本兎?)も気に入っているようなので、俺も深くは追及しないことにした。

 そんなわけで、俺は聖獣に直接事情を聞くことにする。


「おい、これはどういうことだ?」
『ん~? いやなに、この子たちはなかなか見所があると思ってな? さっそく我の騎士に任命したンゴ』
「えぇ……騎士の任命する基準、やっすくない?」

 そんな簡単にホイホイと騎士にさせちゃって、大丈夫なのか?

 いや、まぁ。ウチの三人娘たちは可愛いから、気に入るのは当たり前なんだけど。

 そんな事を考えている間に聖獣は、『そこそこ、もっと強くゴシゴシこするンゴ~』とか言いながら、女性陣に体を洗ってもらっていた。しかもめちゃくちゃ気持ちよさそうだ。兄貴分の俺でさえ、まだしてもらったことがないのに……。


「ねぇ、ストラゼス様。こうしてみるとモフモフ人口が増えましたね!」
「たしかに……」

 猫獣人のフシ、鳥獣人のピィ。犬獣人のクーに守護聖獣のミラ様かぁ。

 もふもふが大好きな俺にとっては、まさに天国のような場所だ。しかも(一人を除いて)皆が良い子だっていう。

「本当に、余計な奴が現れやがって……」

 嫉妬で拳を握る力がギリィ、と強くなる。
 さっさと邪神とやらを解決して、聖獣様には元の家にお帰り願おうかな。


「ただ、あの……ストラゼス様」
「ん、どうしたんだ姫様」
「実はさっき、お腹を空かせたミラ様が、食事を寄越せと申しまして」

 あぁ、それでリディカ姫が聖獣のところに居たのか。
 あれ? でも彼女は手元に何も持っていなかったな。食事はもう済んだのか?

「いえ、実は何が食べたいかお訊ねしたところ、『気分で決めたいから、食糧庫に案内してほしいンゴ!』と。それで……」
「ま、まさか」
「味見という名の爆食いが始まってしまいまして。現在、夕飯分の食材もない状態で……」

 そう言って、リディカ姫が申し訳なさそうに頭を下げる。

 な、なんてことをしてくれやがるんだ……このポンコツ聖獣!

 結局この日の夕食は、俺がティリングの街へ転移して買い出しする羽目になってしまった。


 ◇

 翌日。
 俺は村から少し離れたところにある森に、再び来ていた。

 昨日に引き続いてなので、森歩きにもだいぶ慣れてきた感触がある。余裕があれば、ゆっくり森林浴でもしたいところなのだが――。


「あんっのクソ白玉兎め。少しは遠慮ってモンを知りやがれ!」

 アイツはウチの食糧庫を食い荒らした挙句、しっかり夕飯は別腹で食べやがった。

 追加で食材を買い足す苦労を味わった俺は、ストレスを発散するように、森で狩りに勤しんでいるというワケだ。


「このっ! 喰らえっ!」
『ギュイッ!?』

 俺の投げた小石が、枝に擬態していた魔物の脳天を貫く。よし、肉ゲットだ。皮は街で売れば、いくらか金になるだろう。

 ……ただ、まぁ。一人だったら十分な量の肉になるが、これじゃ全然足りないだろうなぁ。

 というわけで、再びトテトテと歩き出す。こうして太った俺が歩いていると、森を彷徨さまようイノシシみたいだ。大型の魔物なら、絶好のエサだと喰い付いてくると思うんだが……なかなか目当ての魔物が現れない。


「もうちょい奥に行ってみるか……ん?」

 そう呟くと、俺は腰にぶら下げていた剣の柄を握った。
 視界の先で何かが動いた気がする。しかもこっちへまっすぐ向かってきているな。それも、なかなかの速さで。

「いいだろう。相手が何だろうと、白玉兎のエサにしてやるぜ」

 魔力を流していき、いつでも戦えるように準備をする。

 そして敵は俺の間合いへと入り、その姿を現した――。

「お、お前は……!」
「貴様は――」

 森の奥から出てきたのは、魔物ではなかった。
 魔王軍四天王、かつて俺の部下だった火のクリムがそこにいた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...