48 / 106

第48話 迷い仔猫のジャーニー(フシSide:前編)

しおりを挟む

 ~フシ視点~

「フシ、溜め息なんてついてどうしたのです!?」
「……え?」

 ストラ兄が人族のお城へお出掛けするのを、村の皆で見送ったあと。ボーっとしていたフシに、妹分のクーが話しかけてきた。

 ふと周りを見渡せば、皆はもう解散して、それぞれが自分のやることを始めようとしていた。


「溜め息、ついてたかニャ?」
「本当にどうしたのです? フシらしくないのですよ!?」
「フシらしく、ない……」

 茶色いフワフワの垂れ耳をペタン、とさせたクーがフシの顔を心配そうに覗いてくる。

「フシらしいって、なんなのニャ?」

 クーの大きな瞳に映る人物は、何者にも見えなかった。


 ピィやクーと違って、フシは魔族領の出身ニャ。
 それも魔族の貴族だったパパと、人族の大きな商家の娘だったママのあいだに生まれた子供。いわゆる種族の垣根を超えた“禁断の恋”ってやつだったらしいのニャ。


 パパとママはとても愛し合っていて、お互いに危険な辺境の地を何度も訪れては逢瀬を重ねていたみたい。

 それぞれの立場や両親の説得など、数々の障害を乗り越えて二人はようやく夫婦として結ばれた。辺境にほど近い魔族の街に新しく家をつくり、二人で……そのときにはママのお腹にフシもいたから、三人で幸せに暮らそうとした。

 だけどそんなときに、人族と魔族の戦争が始まってしまったのニャ。


『私たちはこの街に残ろうと思う』
『この子を置いていくことはできないわ』

 パパとママは、それぞれの国へ別れて逃げるよう提案してきた隣人にそう返した。獣人であるフシがいたら、逃げた先でも酷い扱いをされるからニャ。

 その数か月後、フシたちが住んでいた街は戦渦に巻き込まれて地図から消えた。

 轟々と燃える家、逃げ惑う住人、痛みで叫ぶ兵士たち。逃げるときにフシも足を怪我して、思うように走れなくなった。

 もう何が起きているのか訳も分からない中……パパとママは、フシの目の前で死んでいったのニャ。



 殺したのは人族か魔族か、それは分からない。分からないし、フシにとってはどちらでも関係ないのニャ。

 ただ、フシのパパとママを戦争が奪い去ったという事実は変わらないから。


 フシは、パパとママを奪った奴らを許せない。戦争を始めた王族たちも、戦争に加担した兵士たちも、みんな同罪なのニャ。

 そのうち魔族の王と人族の勇者が戦うことになっていたけれど、どっちが勝とうと構わない。いつかそいつらをまとめて、フシの自慢の爪で引っ搔いてやるのニャ。

 そう願うことだけが、何も持たない空っぽなフシの生きる理由になっていた。


「お前も行く当てがないのかニャ?」

 不自由な足で辺境をひとりで彷徨さまよっているうちに、フシに新しい家族ができた。フシと同じく戦争で家族を失った、同年代の女の子たち。

 何にも縛られない自由な心を持ちながら、空を飛ぶ夢と翼を奪われた鳥獣人のピィ。

 誰も寄せ付けない破壊の力で孤独になり、誰かに愛されたいと願う心優しい犬獣人のクー。

 そんな二人と出逢ったおかげで、フシも生きる意味を見出せた気がするのニャ。パパとママを助けられなかった分、今度は妹たちを守ろうって思えた。

 だけど、フシの心は……もう……折れそうになっていたのニャ。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...