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第76話 魔王様、妖精女王と対談する

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(……懐かしいな)

 そんな思いが込み上げてきた。

 俺は以前にも、この城に来たことがある。あのときは先代の魔王に連れられて、義妹のシャルンと一緒に遊びに来たんだっけ。妖精女王は、当時まだ幼い俺のことを実の息子のようにかわいがってくれた。

 その時の記憶がよみがえり、少しだけ胸が痛くなった。


「どうされました?」
「いや……ただちょっと昔を思い出して」

 不思議そうな表情をしている彼女に、俺は適当に誤魔化した。

 お城の中に入ると、透明な廊下が続く。天井は外と同じクリスタルで輝いており、廊下の左右にはいくつもの扉があった。ティターニアの案内で、とある扉の前にたどり着くと彼女は俺たちを振り返った。


「さぁ到着よ。どうぞお入りになって」

 妖精女王が門を開くと、そこには透明な景色から一変して、美しい緑の庭園が広がっていた。色とりどりの花が咲き誇り、噴水からは心地いい水の音が聞こえてくる。

(そうか……ここは何も変わってないんだな)

 俺は思わず頬を緩めてしまった。そんな俺を見て微笑むティターニアに促されるまま、俺たちは城内へと足を踏み入れた。


「勇者に魔族の幹部、そして人族の王女……ふふっ、そうそうたる顔ぶれね」

 導かれるままに案内されたのは、城内にある貴賓室だった。

 ここは普通の建物のように白い壁や家具があり、落ち着ける内装となっている。ただ窓からは先ほどの庭園が覗けるようになっていて、この部屋自体が一つの芸術品のようになっていた。

 俺たちはこの部屋のソファーに掛け、女王自ら淹れてくれた花茶を楽しんでいる。何の花を使っているのかは分からないが、甘酸っぱい爽やかな香りのするお茶だった。


「さて、どこから話しましょうかね……」

 ティターニアはお茶を一口飲むと、思案するように瞳を伏せた。一方で俺はまだるっこしい世間話をするつもりは無いので、すぐに本題を切り出した。

「妖精女王様、単刀直入にお聞きしたいのですが……鎖国を解除するおつもりはありませんか?」

 そう問いかけると、彼女は静かにうなずいた。

「えぇ、そうね。そろそろ引き篭もるのは終わりにしようと、私も思っていたわ」

 ティターニアがちらりとリディカやアクアを見る。
 いろんな目と耳を持っている彼女のことだ。この城に居たままで世界がどうなっているのかなんて、手に取るように知っているはず。人族と魔族の戦争に一旦の決着がついたことで、国交を断絶していた理由も消えた。


「でも……今すぐにというのは無理ね」
「やはり、ブゥード火山からやってくる魔物の影響ですか?」
「そう、その通りよ」

 ティターニアは真剣な表情でうなずいた。

「あの火山には、リザードマンの上位種であるサラマンドラが棲み着いているわ。その魔物を討伐しないうちは、国交を回復することはままならないでしょうね」
「……分かりました。ではまずはそのサラマンドラとやらを倒すことにしましょう」

 俺がそう言うと、妖精女王は静かに首を横に振った。

「貴方が行ってくれるの? でも、それはやめたほうがいいわね」
「えっ、それはどうしてですか?」
「隣で戦闘しているところを私も見たけれど、彼は魔王様を倒しただけあって、相当な実力者ですよ?」

 リディカとアクアが不安げに問いかけると、ティターニアは困ったように笑った。

「私も彼の実力は疑ってはいないわ。ただリザードマンが隠れ潜んでいる場所が、少し厄介なの」
「その、厄介な理由とは?」

 俺が聞き返すと、彼女はお茶のカップをテーブルに置いた。

「魔法宝石を採掘する坑道を、奴らに占拠されちゃったの」
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