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困り果てた暗殺者
しおりを挟む「……まいったな。セバスになんて言い訳をしよう」
小屋から出たヴィクターはぶり返した頭痛に悩まされていた。
帰り際、彼は暗殺のターゲットであるニーナ姫から、お友達になってくれるよう頼まれてしまったのだ。
どう答えるべきか迷ったものの、結局は曖昧に頷いてしまった。
「また遊びに来てくださいね……って、完全に死ぬ気が無いじゃねぇか。やっぱりあの依頼は……」
今までの経験上、これは何者かが悪意を持って仕組んだとしか思えなかった。
その黒幕を調査するべく、彼は先ほど案内をしてくれた王城の侍女を探していた。
「ねぇ、アンタ。さっき誰かにあの無能姫の場所を聞かれてなかった?」
「えぇ~見てたの!? だったら助けてよ、意地悪!!」
使用人たちの仕事場をうろついていると、シーツなどを洗う洗濯場で、愚痴を言い合う侍女たちを見付けた。
さっきの無愛想な侍女だ。それに丁度、ニーナ姫のことについて喋っていたようだ。
「国王陛下もあの姫の扱いに困っているみたいよ~?」
「馬鹿ね、困ってるのは国王陛下だけじゃないわ。なんでも、今の王妃陛下が何度かここから追い出そうとしたんだって。だけど、なぜか毎回邪魔が入って上手くいかないんだとか……あの人、悪運だけは強いのね~」
本人に聞かれたら、不敬どころじゃない会話をしている。
「そういえばアンタ。ついこの前も王妃陛下に頼まれて、何かコソコソとやってなかった?」
「あ~、なんかお姫様を唆して書類を書かせろって言っていたわね。でもアレって、ただの林檎のお菓子の発注書だったわよ?」
「林檎のお菓子?」
「えぇ。あの昼行燈な貴族のシードル家宛で」
ヴィクターは拳を握りしめ、その場をあとにする。
これ以上ここに居たら、あの侍女たちを自分の手で葬ってやりたくなってしまいそうだったから。
――だが、大体の事情はこれで分かった。
現在の王妃がニーナ姫を亡き者とするために、シードル家を利用したのだと。
そういうことならば、話は早い。
依頼は当然破棄。暗殺なんてするわけがない。
これまで何度も手を血に染めてこようとも、すべては国の為。
くだらない私怨のために、暗殺の技術を磨いてきたわけではないのだから。
しかし帰宅したヴィクターを迎えたのは、新たな人物によるニーナ姫殺害の依頼だった。
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