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狙われた野良猫姫
しおりを挟む「――はぁ? あの無能なニーナ姫をこの城から追い出す?」
不意に聞こえたその言葉に、食糧庫から抜け出そうとしていた私の足が止まる。
「そうよ。王妃様が遂に名案を思い付いたの。ねぇ、どんな案かアンタも聞きたい?」
その声は、隣にある調理場から聞こえてきているようだ。どうやら壁の向こう側で、この王城で働く使用人たちが噂話をしているらしい。
壁越しでは彼女たちの顔は見えないけれど、悪意の篭もった会話であることは間違いない。
会話の中にあったとある単語が気になった私は、壁に耳を当てて盗み聞きをすることにした。
「いいから勿体ぶらないで、さっさと言いなさいってば……」
「えへへ。実はね、ある方法で暗殺者を雇うことにしたんだって」
(へぇ、姫に暗殺者を……そのある方法って何かしら?)
「えぇっ!? まさか王妃様、義理の娘であるニーナ姫にあの番犬をけしかけるつもりなの!?」
「ちょっと、大声を出さないでってば! 他の誰かに聞かれたらどうするのよ」
間違いない。彼女たちはニーナ姫の暗殺について会話をしている。
そしてニーナという名前の姫は、この国では一人しか該当しない。
(――まったく、王妃様はどれだけ私のことを嫌っているのかしら)
一度壁から顔を離し、私は深い溜め息を吐いた。
ただの噂話だったら良かったんだけど、困ったことにそのニーナというのがこの私なのだ。
彼女たちの話によると、王妃様は私に暗殺者を仕向けようとしているらしい。
(自分が産んだ娘じゃないとはいえ、相変わらず酷いことをするわね……)
今の私は、王女とはとても思えないような恰好をしていた。
服はメイド姿だし、両手には倉庫から盗んだ林檎を抱えている。
さらには黒髪を誤魔化すように茶色のかつらをかぶり、顔の印象が残らないように特徴を誤魔化すメイクまでしている始末だ。
どうして王女がこんな事をしているのか……それは継母である現王妃様が率先して、私や前王妃だったお母様を冷遇したからだ。
別に私やお母様が何かをしたわけじゃない。ただ、王であるお父様の血を私が引いているのが気に入らないという理由で、この国に居ない存在として扱われていた。
この城のどこにも居場所がない私は、敷地の隅にある小さな一軒家に追いやられ、自給自足に近い生活を強いられている。
庭にある小さな畑だけでは生活はままならず、こうして王城に忍び込んで食糧を盗む日々。
さらには五年前に母を亡くしてからというもの、私はたった独りでこの生活を続けていた。
それでも……こんな惨めな生活を送らせるだけでは、王妃様は満足できなかったようで。
(今までは嫌がらせ程度だったけれど。遂に命まで狙うようになってしまったのね……)
自分の家へ帰ってきた私は、テーブルの上にある一枚の紙を眺めながら、今日何度目かの深い溜め息を吐いた。
その紙には『シードル侯爵家 林檎注文書』と書かれていた。
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