誰にも愛されず生涯を終えると思っていた冷遇王女ですが、暗殺にきた侯爵様が私を救ってくれるようです。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
2 / 9

林檎農園の死神侯爵

しおりを挟む
「林檎農園を経営するシードル家、ね……」

 この用紙は、私が帰宅してすぐに、先ほどの使用人がこの家へ持ってきたものだ。


『お喜びください。王妃様がニーナ殿下のために、林檎を注文してくださるようですよ。寛大な王妃様のご厚意に、感謝してくださいね!!』

 そう言って下手な愛想笑いを顔に貼りつけながら渡してきたのが、この注文書だった。

 注文する内容はすでに王妃様が決めたから、あとは私がサインをして提出すれば良いらしい。

 彼女はそれだけ伝えてさっさと帰っていった。普段はこの家には近寄りもしないから、ここにいるのが相当嫌だったみたい。


「本当に寛大なら、義理の娘に対して冷遇なんてしないでしょうに。まったく……」

 テーブルに腕を伸ばし、注文用紙を手に取ってみる。すると、紙からふわりと林檎の香りが漂ってきた。

 紙の材料に林檎の木でも使っているのかもしれない。上質な手触りで、使いきりにしてしまうのは勿体ない気がした。


「いっそ恋文にでもしたいぐらいね。……で、これが使用人が言っていた、暗殺の依頼ってことなのかしら?」

 注文の内容は、『最高級の林檎を使用したアップルパイを希望』と書いてある。

 宛先は私で、依頼人も私になっている。つまり、はたから見たら私が個人的に注文したようにも見える。


「シードル侯爵といえば、権力に興味のない日和見ひよりみな貴族って言われていたけれど……裏では暗殺家業をしていたってことなのかしら」

 そういえば数ヵ月前、使用人の誰かが口にしていた。

 いわく、違法な商売を繰り返していた貴族が、自分の屋敷で不審な死をげていたとか。

 他にも不自然な事故に遭って息子に家督かとくを譲った貴族や、誤って毒のある山菜を口にして亡くなった大手の商家の話とか。


 『この国には、陰から正義を守り続けている番犬がいるって伝説があるのよ!』

 噂話好きなその使用人は、楽しそうにそう語っていたっけ。


 彼女の話がもし本当なら、その番犬の正体はおそらく、シードル侯爵家なのでしょう。

 この注文書ひとつで、この国に潜む悪人をらしめている。

 いったいどんな人物なのかは知らないけれど……きっと義理人情に厚い、高潔な人物のはずだ。


「……よし、これでサインは大丈夫ね」

 それならば、私の命をシードル侯爵に委ねてみましょうか。

 王妃様は私が邪魔だから、暗殺対象になるとでも思ったのでしょうけれど。

 もし本当に私がこの国にとって“害悪”だというのならば、別に死んでも構わない。大人しく、殺されて差し上げましょう。


 なにより私はもう、こんな生活に疲れ切っていた。愛する人も、愛してくれる人もいない。楽しみも希望もなく、何のために生きているのかも分からない。

 私が唯一持っているのは、お母様との思い出だけ。


「そうだわ。明後日はお母様の命日だし、お母様に習ったアップルパイを焼こうかしら」

 林檎の香りを嗅いでいたら、ふとそんなことを思い付いた。

 それに死ぬ覚悟ができると、吹っ切れてなんだか楽しくなってくる。


「ふふ。暗殺者さんが久しぶりのお客様になるのかしら。キチンとお迎えしなくっちゃね……」

 まだ見ぬ暗殺者を夢想しながら、なぜか私は少しだけワクワクし始めていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」 派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。 彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。 相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。 「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。 しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!? 無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。 二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。

【悲報】氷の悪女と蔑まれた辺境令嬢のわたくし、冷徹公爵様に何故かロックオンされました!?~今さら溺愛されても困ります……って、あれ?

放浪人
恋愛
「氷の悪女」――かつて社交界でそう蔑まれ、身に覚えのない罪で北の辺境に追いやられた令嬢エレオノーラ・フォン・ヴァインベルク。凍えるような孤独と絶望に三年間耐え忍んできた彼女の前に、ある日突然現れたのは、帝国一冷徹と名高いアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵だった。 彼の目的は、荒廃したヴァインベルク領の視察。エレオノーラは、公爵の鋭く冷たい視線と不可解なまでの執拗な関わりに、「新たな不幸の始まりか」と身を硬くする。しかし、領地再建のために共に過ごすうち、彼の不器用な優しさや、時折見せる温かい眼差しに、エレオノーラの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 「お前は、誰よりも強く、優しい心を持っている」――彼の言葉は、偽りの悪評に傷ついてきたエレオノーラにとって、戸惑いと共に、かつてない温もりをもたらすものだった。「迷惑千万!」と思っていたはずの公爵の存在が、いつしか「心地よいかも…」と感じられるように。 過去のトラウマ、卑劣な罠、そして立ちはだかる身分と悪評の壁。数々の困難に見舞われながらも、アレクシス公爵の揺るぎない庇護と真っ直ぐな愛情に支えられ、エレオノーラは真の自分を取り戻し、やがて二人は互いにとってかけがえのない存在となっていく。 これは、不遇な辺境令嬢が、冷徹公爵の不器用でひたむきな「ロックオン(溺愛)」によって心の氷を溶かし、真実の愛と幸福を掴む、ちょっぴりじれったくて、とびきり甘い逆転ラブストーリー。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~

exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。 家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。 愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。 一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。 ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。 涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

処理中です...