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紳士的な暗殺者?
しおりを挟むいったいどんな人物が私を殺しに来るのだろう。
顔は強面で、身体は筋肉で覆われた大柄な男……いえ、冷酷な目付きをした影のある死神みたいな男かもしれないわ。
そんな妄想がどんどんと膨らんでしまい、ここ数日はソワソワして眠ることができなかった。
(いけないわ。このままじゃ、隈だらけの酷い顔の死体にされるかもしれない……。)
そんな頭のおかしな心配をしていたものの、意外にも運命の日はすぐに訪れた。
「失礼、ここがニーナ殿下の居城ですか……?」
注文書を出した次の日。なんと、シードル侯爵がさっそく我が家へやってきたのだ。
「ようこそシードル侯爵! お会いしたかったですわ。さぁ、どうぞ中へ!」
丁寧にお辞儀をしながら挨拶をしてくれたシードル侯爵は、とても優しそうな二十代ぐらいの紳士だった。
刃物なんて食事のナイフぐらいしか持ったことがなさそうなほど、柔らかな雰囲気を纏っている。
身長は私よりも頭ひとつ分ぐらい高いけれど、王城にいる騎士ほどはガッチリもしていない。
あまりにも予想とはかけ離れ過ぎて、失礼だとは思いつつも、胸の中で笑いがこみ上げてきてしまった。
徹夜で気持ちが昂っていたせいもあるかもしれない。私が満面の笑みで玄関で出迎えると、彼は呆気に取られた表情を浮かべた。
暗殺者さんを驚かせてしまったかしら?
もしそうなら、ちょっとだけ嬉しい。
「この度は急な訪問をお許しください、ニーナ殿下」
この狭い家には客間なんか無いので、彼をキッチンにある食事用の席に案内する。
シードル侯爵はここへ来てからずっと、視線が家の中を右から左へ行ったり来たり。
どうやらこの国の姫がこんな場所に住んでいることに、驚きを隠せないみたい。
ふふふ……暗殺者なのに、彼は随分と感情が豊かなのね。
「そんな殿下だなんて。私のことはニーナと、どうか名前で呼んでください」
「いや、そういうわけには……」
そう言われても、今まで私が殿下なんて呼ばれたことは殆どない。
王女らしい生活もしてこなかったし、殿下呼びをされても、敬われた優越感よりむず痒さしか感じなかった。
「あ、ごめんなさい……久しぶりのお客様で、私ったら浮かれちゃって……」
「いえ……はぁ。ニーナ様が良ければ、この場はこれで。私のことも、ヴィクターと」
「――嬉しい! ありがとうございます!」
シードル侯爵、あらためヴィクター様は「まいったなぁ」と頭の後ろを掻いた。その仕草がなんだか可愛らしくて、つい口角が上がってしまっていた。
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