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絶望と救世主
しおりを挟む――今日は何日だろう。
泣きつかれては眠り、最低限の飲食でまた泣いて。私の心や身体はボロボロになっていた。
テーブルの上に置き去りにされたアップルパイは、腐りかけて虫がたかっていた。
もう私には時間が残されていない。
そのうち、トリノ共和国に私を引き渡すための迎えがやってくるだろう。そうなれば、本当に私は終わりだ。
「いっそ、このナイフで……」
床に転がっていた食事用の安物ナイフを手に取った。刃の腹に、私の顔がぼんやりと映っている。
他国で知らない男に弄ばれるぐらいなら、お母様との思い出が残るこの家で果てた方が幸せかもしれない……。
首元にナイフを当てようとするも、手が震えて動かない。
カサカサになった口から、声にならない声が出る。
「お母様、私に勇気を……お母様……」
ギュッと目蓋を閉じ、ナイフを持つ手に力を籠めた……その時、玄関の扉をトントンと優しくノックをする音がした。
「だ、だれ……?」
来客の予定はない。
婚約パーティの迎えが来たのかしら。
物音を立てないようにして玄関へと向かう。
こっそりと扉の隙間から外の様子を窺うと……
「あ、あら? どうしたのですか、ヴィクター様……」
来訪者の姿を見て、私の心臓が跳ねあがる。
扉の向こうにいたのは、なんとシードル侯爵だった。
「すみません、ニーナ様。今、よろしいでしょうか」
「え? はい……あ、いえ。少々お待ちください!!」
玄関を開けようと扉に手を伸ばしたところで、自分が今どんな姿をしていたのかを思い出す。
服はボロボロ、髪はボサボサ、顔は涙と鼻水でカピカピになっている。
こんな状態でヴィクター様と会えるわけがない。
「連日の無礼をお許しください、ニーナ様。実は少々、お話したいことがありまして……」
急いで部屋へと戻り、大慌てで最低限の身嗜みを整える。
玄関に戻って扉を開けると、ヴィクター様は申し訳なさそうに頭を下げた。
そして手には何かの手土産が。どうやら本当に何かの用事があっていらっしゃったようだ。
上手く頭が回らず、私がポカンとしていると、ヴィクター様は不安げな表情になった。
しまったな、と言いながら頭をポリポリと掻いている。
何となく私の様子がおかしいと気が付いたのかもしれない。
「お気になさらないで、ヴィクター様。私もお会いできて嬉しいですわ」
「それはよかったです。なにかお変わりは無いですか?」
「えぇ、おかげさまで。……ところで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
たった今、命を絶とうとしていたなんて言えるわけがない。
これ以上なにかを探られても困るので、私は先日と同じようにお茶を淹れながら話題を逸らす。
今日はミントを使ったハーブティー。
お風呂に入っていないのがバレないように、清涼感のある香りで誤魔化した。
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