誰にも愛されず生涯を終えると思っていた冷遇王女ですが、暗殺にきた侯爵様が私を救ってくれるようです。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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継母と義理の娘

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 ヴィクター様が帰った後、私は独りで余ったアップルパイを食べていた。

 少し冷めてしまったアップルパイは、なんだか味気なく感じてしまう。

 それは一緒に食べる人がいないからか、それとも一緒に食べていたのがあの人だからなのか……。

 こんなにも孤独が辛いと思ったのは、お母様が亡くなって以来かもしれない。

 私は冷えた心を慰めるかのように、少しだけ泣いていた。



「……誰かしら」

 もう日はすっかり落ちているというのに、誰かが家の扉をドンドンと激しく叩いている。

 最近はどうも来客が多い。

 だけどあの遠慮のない叩き方は、きっと好ましくない人物の予感がする。


「あら、なによその酷い顔は。不細工だった顔がもっと不細工になっているじゃない……あはははっ!!」

 扉を開けた瞬間、来客の女性は人の泣き顔を見て嬉しそうに笑った。

 そして来室の許可を得ずに、無断で家の中へと入っていく。


 派手なメイクに、臭い香水。月明かりでも分かるような、きらびやかな衣服と宝飾品の数々。

 彼女は、私がこの世で最も会いたくない人物だった。


「なによ。このアタシが直々に来てやったんだから、ちゃんともてなしなさいよ」

 私がすぐに後を追い掛けると、彼女は殺風景な家の中を眺めて大きな溜め息を吐いた。

 尊大な態度だけど、彼女はそうするだけの地位を持っている。


 ――私の目の前にいるのは、この国の王妃様だった。


「何も気が利かずに申し訳ありません、王妃陛下。しかし、突然どうして……?」

 私の記憶が間違いでなければ、王妃様がこの家に来たことなんて一度もない。

 家ではなく、家畜の小屋だと思っていたはずだから。


「んふふふっ。そうね、いろいろと言いたいところだけど……今日は貴方に良い話を持って来たの」
「……良い話、ですか?」

 王妃様は私の問いには答えず、手をパンパンと叩いた。

 すると家の外に控えていた侍女たちがゾロゾロとやってきた。どの侍女も、両手に大荷物を抱えている。


「これは……」
「喜んでちょうだい。可哀想な貴方に、優しい方から縁談が来たのよ~?」
「え、縁談ですかっ!?」

 思わず大きな声が出てしまった。

 なにしろ、縁談なんて私には一生縁のない話だと思っていたから。他の貴族の令嬢だったら、他家との縁を結ぶための駒に使われることはある。

 だけど私にそんな価値がないのは、自分が一番分かっていた。

 そもそも、私なんて存在しない王女の扱いだったのに……。


 一瞬だけ、あの困ったように笑うヴィクター様の顔が脳裏に浮かんだ。

 いや、だけどまさか、そんなはずは……。


 王妃様は驚く私の顔を見て、ニタニタと笑う。


「お相手は、隣りにあるトリノ共和国のアンドレア王子よ。是非とも貴方が欲しいんですって。うふふ、随分と熱烈な御方ねぇ~」
「アンドレア王子……まさか、あの女殺しで有名な!?」
「あらあら、そんなはしたない言葉遣いをするものじゃないわよ? それに良いじゃないの。たとえ慰み者でも、使い道があったんだから。もっと喜んだらどう?」


 トリノ共和国のアンドレア王子といえば、使用人たちの噂にも上がるほどのだ。

 何人もの女性を無理やり手籠てごめにした後、飽きたら殺すか廃人になるまで虐待を行なうと言われている。

 彼にとって、女とは性欲処理のための玩具オモチャでしかない。


 それをこの王妃様が知らないはずがない。


「嘘です……お父様が、そんな事を許すはずが――」
「あら、貴方の言うお父様って誰のことかしら? 少なくとも陛下は、貴方を娘だとは思っていないみたいよ?」
「そ、そんな……どうして……」

 そんな会話をしている間にも、私の家には次々と荷物が運ばれてきている。

 いやに煽情せんじょう的な胸元のあいたドレス。使い古した靴やアクセサリー。

 いかにも間に合わせで用意したというのが、すぐに分かってしまうものばかり。


「来週、トリノ共和国で貴方とアンドレア王子の婚約パーティがあるから。精々それまでに、この小屋とお別れを済ませておきなさい?」
「来週!? ちょ、ちょっと待ってください!」
「それじゃあ、貴方と会うことは二度と無いだろうけれど……お元気でねぇ~」

 こちらの話は一切聞かず、王妃様は手をヒラヒラとさせながら、お付きの侍女に見送られて去っていった。

 その侍女たちも用が済むと、一礼だけしてから家をあとにする。同じ女として同情心が湧いたのか、少しだけ憐憫りんびんの表情を浮かべながら。


「どうして私が……お父様、どうして……」

 誰もいなくなった部屋で、私はその場に崩れ落ちた。

 頬から雫が伝い、雨のようにポツポツと床を濡らしていく。


 お父様に、私への愛情が少しでも残っていると信じたかった。

 だけどそれは、私の独りよがりな甘い希望だった。


「なにがドレスよ! なにが王子との理想的な結婚!! こんな……こんな結末なんてあんまりだわ!!」

 本当はずっと我慢してきた。王城に住む他の家族が、とても羨ましかった。

 義理の姉みたいに、華やかなパーティで素敵な殿方と踊ってみたかった。

 綺麗なドレスに、宝石のついたネックレス。お腹いっぱいの食事に美味しいワイン。


 頑張って生きていれば、いつかそんな日が来るって信じて頑張ってきた。

 毎日朝から晩まで土まみれになって、畑を耕して。

 したくもない変装で忍び込んだり、使用人たちの心無い嫌がらせや悪口にも耐えてきた。


 だけど、全部無駄だった。

 もう、何もかもが嫌になった。


 静かな部屋に、嗚咽おえつがいつまでも響いていた。


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