誰にも愛されず生涯を終えると思っていた冷遇王女ですが、暗殺にきた侯爵様が私を救ってくれるようです。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
5 / 9

継母と義理の娘

しおりを挟む

 ヴィクター様が帰った後、私は独りで余ったアップルパイを食べていた。

 少し冷めてしまったアップルパイは、なんだか味気なく感じてしまう。

 それは一緒に食べる人がいないからか、それとも一緒に食べていたのがあの人だからなのか……。

 こんなにも孤独が辛いと思ったのは、お母様が亡くなって以来かもしれない。

 私は冷えた心を慰めるかのように、少しだけ泣いていた。



「……誰かしら」

 もう日はすっかり落ちているというのに、誰かが家の扉をドンドンと激しく叩いている。

 最近はどうも来客が多い。

 だけどあの遠慮のない叩き方は、きっと好ましくない人物の予感がする。


「あら、なによその酷い顔は。不細工だった顔がもっと不細工になっているじゃない……あはははっ!!」

 扉を開けた瞬間、来客の女性は人の泣き顔を見て嬉しそうに笑った。

 そして来室の許可を得ずに、無断で家の中へと入っていく。


 派手なメイクに、臭い香水。月明かりでも分かるような、きらびやかな衣服と宝飾品の数々。

 彼女は、私がこの世で最も会いたくない人物だった。


「なによ。このアタシが直々に来てやったんだから、ちゃんともてなしなさいよ」

 私がすぐに後を追い掛けると、彼女は殺風景な家の中を眺めて大きな溜め息を吐いた。

 尊大な態度だけど、彼女はそうするだけの地位を持っている。


 ――私の目の前にいるのは、この国の王妃様だった。


「何も気が利かずに申し訳ありません、王妃陛下。しかし、突然どうして……?」

 私の記憶が間違いでなければ、王妃様がこの家に来たことなんて一度もない。

 家ではなく、家畜の小屋だと思っていたはずだから。


「んふふふっ。そうね、いろいろと言いたいところだけど……今日は貴方に良い話を持って来たの」
「……良い話、ですか?」

 王妃様は私の問いには答えず、手をパンパンと叩いた。

 すると家の外に控えていた侍女たちがゾロゾロとやってきた。どの侍女も、両手に大荷物を抱えている。


「これは……」
「喜んでちょうだい。可哀想な貴方に、優しい方から縁談が来たのよ~?」
「え、縁談ですかっ!?」

 思わず大きな声が出てしまった。

 なにしろ、縁談なんて私には一生縁のない話だと思っていたから。他の貴族の令嬢だったら、他家との縁を結ぶための駒に使われることはある。

 だけど私にそんな価値がないのは、自分が一番分かっていた。

 そもそも、私なんて存在しない王女の扱いだったのに……。


 一瞬だけ、あの困ったように笑うヴィクター様の顔が脳裏に浮かんだ。

 いや、だけどまさか、そんなはずは……。


 王妃様は驚く私の顔を見て、ニタニタと笑う。


「お相手は、隣りにあるトリノ共和国のアンドレア王子よ。是非とも貴方が欲しいんですって。うふふ、随分と熱烈な御方ねぇ~」
「アンドレア王子……まさか、あの女殺しで有名な!?」
「あらあら、そんなはしたない言葉遣いをするものじゃないわよ? それに良いじゃないの。たとえ慰み者でも、使い道があったんだから。もっと喜んだらどう?」


 トリノ共和国のアンドレア王子といえば、使用人たちの噂にも上がるほどのだ。

 何人もの女性を無理やり手籠てごめにした後、飽きたら殺すか廃人になるまで虐待を行なうと言われている。

 彼にとって、女とは性欲処理のための玩具オモチャでしかない。


 それをこの王妃様が知らないはずがない。


「嘘です……お父様が、そんな事を許すはずが――」
「あら、貴方の言うお父様って誰のことかしら? 少なくとも陛下は、貴方を娘だとは思っていないみたいよ?」
「そ、そんな……どうして……」

 そんな会話をしている間にも、私の家には次々と荷物が運ばれてきている。

 いやに煽情せんじょう的な胸元のあいたドレス。使い古した靴やアクセサリー。

 いかにも間に合わせで用意したというのが、すぐに分かってしまうものばかり。


「来週、トリノ共和国で貴方とアンドレア王子の婚約パーティがあるから。精々それまでに、この小屋とお別れを済ませておきなさい?」
「来週!? ちょ、ちょっと待ってください!」
「それじゃあ、貴方と会うことは二度と無いだろうけれど……お元気でねぇ~」

 こちらの話は一切聞かず、王妃様は手をヒラヒラとさせながら、お付きの侍女に見送られて去っていった。

 その侍女たちも用が済むと、一礼だけしてから家をあとにする。同じ女として同情心が湧いたのか、少しだけ憐憫りんびんの表情を浮かべながら。


「どうして私が……お父様、どうして……」

 誰もいなくなった部屋で、私はその場に崩れ落ちた。

 頬から雫が伝い、雨のようにポツポツと床を濡らしていく。


 お父様に、私への愛情が少しでも残っていると信じたかった。

 だけどそれは、私の独りよがりな甘い希望だった。


「なにがドレスよ! なにが王子との理想的な結婚!! こんな……こんな結末なんてあんまりだわ!!」

 本当はずっと我慢してきた。王城に住む他の家族が、とても羨ましかった。

 義理の姉みたいに、華やかなパーティで素敵な殿方と踊ってみたかった。

 綺麗なドレスに、宝石のついたネックレス。お腹いっぱいの食事に美味しいワイン。


 頑張って生きていれば、いつかそんな日が来るって信じて頑張ってきた。

 毎日朝から晩まで土まみれになって、畑を耕して。

 したくもない変装で忍び込んだり、使用人たちの心無い嫌がらせや悪口にも耐えてきた。


 だけど、全部無駄だった。

 もう、何もかもが嫌になった。


 静かな部屋に、嗚咽おえつがいつまでも響いていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」 派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。 彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。 相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。 「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。 しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!? 無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。 二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。

【悲報】氷の悪女と蔑まれた辺境令嬢のわたくし、冷徹公爵様に何故かロックオンされました!?~今さら溺愛されても困ります……って、あれ?

放浪人
恋愛
「氷の悪女」――かつて社交界でそう蔑まれ、身に覚えのない罪で北の辺境に追いやられた令嬢エレオノーラ・フォン・ヴァインベルク。凍えるような孤独と絶望に三年間耐え忍んできた彼女の前に、ある日突然現れたのは、帝国一冷徹と名高いアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵だった。 彼の目的は、荒廃したヴァインベルク領の視察。エレオノーラは、公爵の鋭く冷たい視線と不可解なまでの執拗な関わりに、「新たな不幸の始まりか」と身を硬くする。しかし、領地再建のために共に過ごすうち、彼の不器用な優しさや、時折見せる温かい眼差しに、エレオノーラの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 「お前は、誰よりも強く、優しい心を持っている」――彼の言葉は、偽りの悪評に傷ついてきたエレオノーラにとって、戸惑いと共に、かつてない温もりをもたらすものだった。「迷惑千万!」と思っていたはずの公爵の存在が、いつしか「心地よいかも…」と感じられるように。 過去のトラウマ、卑劣な罠、そして立ちはだかる身分と悪評の壁。数々の困難に見舞われながらも、アレクシス公爵の揺るぎない庇護と真っ直ぐな愛情に支えられ、エレオノーラは真の自分を取り戻し、やがて二人は互いにとってかけがえのない存在となっていく。 これは、不遇な辺境令嬢が、冷徹公爵の不器用でひたむきな「ロックオン(溺愛)」によって心の氷を溶かし、真実の愛と幸福を掴む、ちょっぴりじれったくて、とびきり甘い逆転ラブストーリー。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

処理中です...