*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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1 じゃあ、説明するよ

第15話 今すぐ消えてなくなりたい2

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「…………店はいつもこんな様子なのか?
 さっきから、人が全然来ないけど」


 いいながら、二人そろって目を向けるのは、窓の外。

 外にひろがる、穏やかな初夏の午後。
 窓の外、テントの影も色濃く石畳の上に映えている。


 行き交う人もまばらな通りを窓ガラスの外に、次に見るのは壁掛け時計だ。
 この店と同じように年季の入った掛け時計の針は、彼がここを訪れてから、ゆうに小一時間以上経っていることを示していた。



 顔の表層に、微細な心配を浮かべるエリックに、しかし彼女はけらけらと笑うと、




「まーねーっ。
 …………モーテル通りにいくつも新しい工房ができたでしょ? 若い人はそっちに流れちゃうよね~。ウチみたいに、旧街道に建つ店なんか大体こんなもんだよ~」


「……大丈夫なのか?」
「それはご心配なく~。
 愛され続けて50年。ビスティーは、お客様の満足にお答えします♡」



 答えながら右で作るブイサイン。
 閑散としている店など全く気にもしていない様子に、エリックが(呑気なもんだな)と、わずかに笑みを浮かべそうになった──その時。




「────と、言うわけで」
「ん?」
「──500メイル。頂戴しまーす♡」
「はっ?」


 声も高らかに。
 ぺろっと出した手の指を、ちょいちょい動かしながら言い放つ彼女に、間の抜けた声を上げた。


 一瞬。
 彼の中でめぐるのは『お礼』の一言である。

 それらを瞬時に顔面の表層にのせ、エリックは戸惑いの目を向けると、


「…………え。金をとるのか……!?」
「当たり前でしょ、ただでやるわけないじゃん」

「いや……待って。
 君、さっき「お礼」って言ってなかった?」
「それはボタン代ですねぇ~。
 糸代と技術代は別料金です」


「…………ちゃっかりしてるな…………」



 勝手にやっておいてこの言い分。
 『当然でしょ』とにじみ出るその態度に、こうべを垂れつつ舌を巻く。


 別に、金を払いたくないわけではないが、なんとなく『してやられた感』が否めない。


 内心(ああ、さっきから調子が狂いっぱなしだ)と苦々しく呟く彼の前、ミリアは左の方から大きめの台帳をひっぱりながら口を開けると、


「言っておくけど、これでも大特価!
 あ、お金ないならツケておくよ? お名前は?」
「…………いや、金ぐらいあるよ」


 台帳にガラスのつけペンの先をぐっと押し当てるミリアに、静かに首を振る。



 その表情は今も『やられた』感が否めないが、仮にもサービスを受けている。
 これを踏み倒すほど金に困っちゃいないし、踏み倒すなんてエリックのプライドが許さなかった。




 ────それに。


(この女にこれ以上、つべこべ言うのも面倒だ)


 この女、ああいえばこう言うし、言葉の切り返しだけはとても素早い。下手に言い返して話が長くなるよりも、ちゃっちゃと払って早く引き揚げたかった。


 ────気分は乗らないが。



(────……払えば終わる)


 そう、自身に言い聞かせ、小さく息を吐きながら、財布から紙幣を引き抜く。



 「はぁい、どうも♡」
 ぺらりと渡された紙幣を受け取った彼女はご満悦だ。



 ……彼はいまだに、悪徳商法にでも引っかかったような気分なのだが。


「…………」


 ひらりひらりと紙幣を下に仕舞い込む彼女に、息をついた。

 
 なんとも居心地が悪かった。
 声を張り上げた自分もそうだし、勘違いをした自分もそうだし。



(…………ああ、こんなはずじゃなかったのに)
 と、エリックがくるりと身を翻そうとした、その時。




「で、お名前は?」
「…………いや、今払っただろ?」


 彼女の声かけに、思わず振り向き言い返した。


 『ツケ』ではないのなら、名前の記入など必要ないはずだ。
 これ以上彼女に用はないし、名を名乗る義理もない。
 しかし縫製店のミリアは、先ほど開いた台帳を指でトントンと指しながら、ハチミツ色の瞳を向けて言うのである。



「お直しリストに書かなきゃなの。
 ほら、ここ。書いて?」

「…………ああ。はいはい。
 …………なら、先に言ってくれないか? 
 いきなり言われても混乱するんだけど」
「”お直しリストに記載が必要ですので、お客様のお名前をお書きください”」


 眉をひそめ愚痴りながらペンを手にするエリックに、丁寧な文言を並べるミリア。その言い方にはきちんとトゲが混ざっている。
 彼女の返し方に湧いて出た、僅かな苛立ちをぐぐっとペンの先に込め、つっけんどんをそのままに、エリックは口をあけ、




「…………………………住所は」
「ツケじゃないから必要ないよ~」



 今までの記載を目視で確認し、念のための質問を頭で受けながら、よそよそしい返しも溜息で流して、彼は台帳にペンを走らせて──


「…………『エリック・マーティン』さん」

「………………、なに? 
 そんなにじっと見て」
「…………いや? 別に何も?」



 台帳をじっ……と見つめ呟く彼女に
 エリックは眉間にシワを寄せて問いかけてみるが──彼女は静かに首を振っただけ。


 (スペルでも間違えたか……?)とエリックが不思議そうに確認しようとした、その時。
 

 ──ぎっ……、ぎいぃぃい……っ


『──?』



 彼の背後。
 しばらく沈黙していた入り口の扉が、ぎぃっと軋んだ音を立て



 『彼女』は、よたよたと姿を現した。




「……こんにちわぁ」
「──あぁ! ロべールさん!」

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