*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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1 じゃあ、説明するよ

第17話 仮面を外さぬ男の話

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 エリックミリアが出会いを果たしてから、数日が過ぎた、ある日。


 困り顔でへこへこと頭を下げる『小売店の店主』に、糸目の男・スネークと呼ばれたその人は首を振る。

 

 ────シルクメイル地方・オリオン領の西の端
 ウエストエッジ・商工会議所。


 今日は『会費未払い』の最終受付の日だ。

 本来の期日までに支払いを済ませられなかった組合員──つまり、店の店主やその関係者が、受付にずらりと列をなしている。



 それを、慣れた様子で捌いているのが、糸目のスネークである。


 ため息と同時に指を組み、口元を隠しながら。
 簡素な机に肘をつき、困った声色で物申すスネークだが、『営業スマイル』だけは崩さない。



「スネークさぁん、それは!
 それはわかるんですけど……! 
 この季節はうちも売り上げが減る時期で……!」
「えぇ、えぇー。
 それはわかっていますよ?
 ですから先月は”つけ”にさせていただきましたが……

 ……今月もそうとなると、ねえ?」

「……そこ! なんとかなりませんか!?
 毎年、来月にはまとめてお返しできてるじゃないですか! 組合長の力で、なにとぞ!」
「………………ハァ…………」

 
 目の前、『ぱぁん!』と音を立てながら頼み込まれ、スネークは鼻の下、組んだ両手の中でこぼれた息を包みこんだ。


 スネークは、この組織のトップであった。



 商工会ギルドというのは、平たく言えば労働組合である。
 農協・漁協・縫製・飲食・住宅──
 街で暮らしを営む彼らを束ねる機関・それが『商工会ギルド』だ。


 ここのおさを務めてから早8年。
 ────このポストも楽なようで楽ではないと、スネークはひっそりとした愚痴を、ため息に混ぜこぼしていた。


 下の方でせかせか働くよりは大分楽ではあるが、この役職は役職で、大変なものがある。


 会費の未払い、経費のちょろまかし。
 露天商の営業許可、取り扱い物品の精査まで。
 直接関係はないが、組合員の人間関係まで降りかかってくることがある。


 それを、不快に思われぬよう
 かつ、舐められぬよう


 言葉で、表情で
 組合ギルド全体のバランスをとる。


 ──それが、彼『スネーク・ケラー』の役割であった。


 正直面倒な役回りではあるのだが、彼もまた雇われの身。
 そして、このような「未払いトラブル」も、8年も勤めればもう”通例行事”のようなもの。


 決して なあなあにしない雰囲気を醸し出すスネークの前、小売店の店主は顔を上げ、
 す────────っ……と
 スネークに距離を詰め、こそこそーっと。



「…………スネークさんの”お気に入り”、今年も用意しますんで……!」
「………………」


 言う店主に、目を細めて返す。


「……そういうことはここで言うものじゃありませんよ」

 
 耳打ちされて苦言を呈した。


 ──まあ。
 苦言はするが、それ自体は悪いものだと思っていない。


 別に禁止されていることでもないし、それらも任されて・・・・のこの役職である。


 スネークは、むしろ。
 これを言わせるために渋ったといっても過言ではなかった。


 スネークにたしめられたと感じ、ぐっと表情を固める店主に、一瞥。
 営業スマイルをそのまま、左手でつけペンをとり、それを紙に押し当てると


「────来月ですよ? 
 来月以降は待ちませんからね」
「────はいっ! 来月必ず!」
 
 
 一気に輝いた店主の表情を横目に、スネークはさらさらと、手元の台帳に「未払い・来月」と記入して────…………


「…………次の方、どうぞ?」
「………………………………」


 店主と入れ替わり。
 視界の隅、こつんと現れた小さな革靴。

 カカト部分にあしらわれた小さな花の模様にスネークの手が止まり、その目をあげるのとほぼ同時。

 目の前に現れた少年は、とても小さな声で、こう告げた。


「──────…………
 『”ウエストエッジはいい街ですね……”』」
(──────ほう?)


 緊張した面持ち。
 居心地の悪そうな表情。
 しかし、スネークは胸の内で関心の声を漏らした。



 ”それ”は、扉の向こうを指す言葉。



 スネークは返した。
 通常通りの口調で、一言。

「────『”ええ、本当に”』」







#エルミリ#






 何事にも 表があれば、裏がある。
 


 ウエストエッジ・商工会議所──奥。

 人の寄り付かない通路を抜けて、本の匂いと少しのカビ臭さが漂う書庫の角。
 スネークは、一台の書架に手をかけ、ごろりと横に流して道を拓いた。


 現れるのは隠し通路。
 奥に伸びるは石造りの暗闇。


 到着の連絡を受けて、奥を目指し足を進める。


 石造りの通路、足元を照らす『魔具ラタン』の明かりもぽつぽつと。明らかに『意味深』な通路を、彼はすたすたと抜けていく。


 彼・スネークにとっては、ここを抜けることも大したことではなかった。
 出勤・退勤と同じこと。


 表から裏へ。
 その、橋渡しをするのも『彼のシゴト』だからである。




 カツンカツンと靴を鳴らし
 足元をちらつくネズミを気にも留めず

 重厚な木造りの扉に手をかけ
 ────声を張る。



「────”ボス”、お客様ですよ」
『…………ああ』


 声かけに返ってくる”ボス”の声。


 低く、重く。
 威圧を感じる声に、スネークは少しばかり息を吐き────中へと踏み込んだ。


 

 煌々と室内を照らすいくつもの魔具ラタン、奥の棚に並ぶアルコール類と、粗雑に積まれた書類の山。



 潰れたバーを改装したその部屋の
 中心に置かれた、重厚感のあるテーブルの奥で


 黒い革張りのソファーの上
 どっかりと腰を下ろして足を組む男に歩み寄る。



「────お呼び立てして申し訳ありません。
 なにしろ、あなたをご指名でしたので」
「…………客は?」
「こちらに招き入れるつもりでしたがねえ~、怖かったのでしょう。
 これだけ預けて、帰ってしまいました」



 ”ボス”の声かけに肩を竦めた。
 言うスネークの声は「愉快」を描いたようだ。
 彼は、糸のような瞳をわずかに開けて微笑を浮かべ、



 まるで楽しむかのように、封書を指で挟み、歩みを進めながら口をあけると


「…………来られたのが14ぐらいの少年でしてね?
 いや、さすがですね、綺麗な子でしたよ」
「…………余計なことはいい。依頼主は誰だ」



 『話題作りに』と振った言葉を一蹴され
 スネークはしかし、それすらも愉快だと言わんばかりに鼻で笑い、述べた。



「────”上客”です」


 告げるスネーク商工会組長の 視線の先。
 どっかりとソファーにかけるその男。


 上質のブーツに、黒のパンツ。
 短剣のささった腰の革ベルトはシンプルに。
 黒のベストに、白のシャツ。
 短い黒髪には癖がある。
 

 その顔面で光るのは
 魔具ラタンの光も吸い込むような
 限りなく黒に近い 青き瞳



 ちらりと見えた深緑の封蝋ふうろうに、ボスと呼ばれた男のこめかみが震えた時。
 スネークは、封書の宛名を読み上げた。



「……『親愛なる エリックへ』
 ”御指名”ですよ、”ボス”」





 薄暗い部屋の中。
 スネークに呼ばれた男こそ。


 ミリアに靴を投げられた青年
 エリック・マーティン その人であった。








 ──何事にも 表と裏がある。




 これは、仮面を外さぬ男の話。




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