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3 君の秘密
第40話 陶器の仮面2
しおりを挟む「────と、いうか……、そこまで『出せ』と言おうものなら、猛反発だろうな」
容易に考えられる反応に、エリックは吐き捨てるように言葉をこぼしていた。
『改革』・『新制度』などを進めようとした場合、どんなことでも『反発』は起こる。
女性の雇用を促した時もそう。
成人男性への研修を開いた時もそう。
婚姻制度を、見直した時もそう。
──『変化』が面倒なことなら──尚更だ。
エリックは、婚姻制度の見直しと改革を進めた際に食らった『男性の猛反発』を思い出しながら、言葉を続けた。
「…………もし、それをするのなら。縫製組合だけではなく、組合全体に作業を促すことになる。仮に実行したとして? 職人も商人も、怒るだろうな。『俺たちに信用がないのか』『不正をしているというのか』と、毛皮の調査どころじゃなくなるだろう」
「……あぁ~、目に見えますねぇ。特に飲食の精肉と、アルコール類の店主は大騒ぎしそうです。あそこは店主の裁量に任せている部分が多いですし」
「…………だろうな」
「────私個人としても、それはご遠慮していただきたいところです。仮に暴動にならなかったとしても、どう考えても今より仕事が増」
「…………」
「おっ……と。失礼いたしました」
『スネーク』。と言わんばかりに、ギロリと目を向けられて。
スネークはすまし顔のまま黙りこくった。
エリックは、スネークのこういうところが気に食わなかった。
いつでも力半分。
誠意・真剣などとは程遠い態度。
茶化す様にこちらを煽り、そしてすまし顔で静観してくるこの性格。
──能力がある分クビにはしないが、性分はとことん合わないと思っている。
エリックの視線、スネークの視線。
互いの視線がぶつかり合い、一瞬バチっと火花を散らしたが──エリックは、さっと目を戻し口を開いた。
──噛みついても仕方ない。
相手にするだけ無駄である。
「……つまり。そこから先は『内部からじゃないとわからない』か……」
「例の『お誂え向き』は、使えそうですか?」
「ああ」
「ほう? どこのどなたです?」
「言う必要はない。それで。────……俺が漏らすとでも思ってるのか?」
今日一番。
棘を込めて言い返した。
──詮索は嫌いだ。
スネークには何度もそれを叩きつけてきた。
任務をこなすうえで情報共有は必須だが、『情報源』の話となればまた別である。面白半分で探りを入れようとするスネークを牽制するのは当然だ。
明らかなる怒気を放ち、『いい加減にしろ』と叩き込むエリックの前。スネークは依然澄まし顔を崩さない。
──ああ、苛つく。
(……嫌がっているとわかって、わざとけしかけてくるこの態度)
もう幾度目かの攻防。
ギルドの最奥、ひりつく闘気がその場を支配して───
「…………失礼いたしました。興味本位でしたので、お気になさらないでください」
先に沈黙を破ったのはスネークの方だった。
エリックが未だ睨みを利かす中、スネークはさらりと身を翻し、何事もなかったかのように書類を揃え始める。
「………………」
(──……こういうところだ)
────8年。
何度こういうことがあっただろう。
スネーク・ケラーという男はいつもこうだ。エリックをイラつかせる天才である。
一応、組織に彼を雇い入れる段階で、家柄・出自・経歴・交友関係に至るまですべて調べたが怪しいところは特になかった。
しかし、繰り返すが「詮索しすぎ」なのだ。
どこかのスパイかと疑ったこともあったが、どうも『こういう性格』のようである。
スリルを楽しんでいるのか、刺激を求めているのかはわからないが、──とにもかくにも、エリックはこの男のこういうところも好きではなかった。
内心(……能力は間違いないのに)と毒づいた視線を送る中、スネークは資料を眺め、フン、と鼻を鳴らすと
「──それにしても、なんで毛皮なんでしょうねえ? 確かにシルクフェレットの毛や、ヘイムフォックスの毛並み手触りは見事なもので、私も冬には身に着けていますが」
「…………随分なセンスだな」
「おや。お好きではないようですね?」
「…………個人的に身に着けようとは思わない。──それより、これ。毛皮だけで済めばいいんだが…………」
「どういうことです?」
言いながら表情を険しくするエリックにスネークは問いかけた。
テーブルの上に広げられた資料の上、両手をつきながら、ボスは言う。
「──仮に、どこかの貴族や組織が買い占めているといたとして。買い付けている人間・組織がどのような理由で買い占めているかわからないが、目的が売り捌くことだった場合、何かしらの加工をするよな?」
「──ああ、そうですねぇ。絨毯として捌いたとしても……最低でも糸……ですか? 物にもよりますが、おのずと捌けるでしょうね。品薄状態になるかもしれません」
「ああ。それらがもし、民の生活必需品や越冬に欠かせないものだった場合……だいぶ、厄介だぞ。最悪この冬……いや、来年には確実に死人がでることになる」
「……シルクメイルの冬は寒いですからね」
「────夏の暑さはしのげても……、冬はどうにもならないだろう」
「…………」
「………………」
懸念される未来に、しん……とした沈黙がその場に落ちた。
物の価値や値段は思った以上に複雑だ。
糸の様に絡まり、引かれて市場価値が上下する。
この『異常』が今後どのように作用するかは、まだわからない。
これから数か月。
この国が本格的に寒くなる前に。
ありとあらゆる可能性を想定しつつ、早急に動く必要があるのは、確かだった。
────ふうっ。
落ちた沈黙を破るように。
短く吐き出した息とともに、スネークは顔を上げると、
「──私の方は、外から噂や情報を探ってみます」
「…………頼む」
張りのある声に、空気が変わった。
先ほどまでの闘気はどこへやら。
彼らのあいだ、反発の空気は今はなく──互いに見つめるのは『国の未来』『自分の役目』。
エリックはベストに手をかけ身を翻す。
それにすかさず、スネークは細い糸目をそのまま声を投げた。
「ボス? どこへ行かれるんです?」
「────ああ。『シゴト』に」
やるべきことは決まった。
いちいち長ったらしく説明する必要もない。
向かう先はそう────総合服飾工房 ビスティー。
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