47 / 78
3 君の秘密
第42話 だんごむし
しおりを挟む「これでわたしもいっちにんまえの!」
「────誰と話してるんだ?」
「パタンナあああああああああああああああああああああああっ!?」
──────ドンッ!
びたぁっ!!
突然、声をかけられて。ミリアは腹の底から声を上げ、後ろの棚に勢いよく張り付いた。
見計らったかのような声かけ勢いよく振り向けば、そこにいたのはエリック・マーティン。黒毛で癖毛の、この前から来るにーちゃんである。
「…………ア、あ……」
「…………? ……いや、そんなに叫ぶことないだろ? 幽霊というわけでもないんだから。それより、客は? 姿が見えないけど」
おわかりいただけただけるだろうか。
一人芝居をしていたミリア。
何食わぬ顔で辺りを見回すエリック。
きょとん顔で述べる彼に対して──ミリアの心境は、記すこともなく『修羅場』だった。
「あ、あぁぁぁぁぁぁ…………」
震え・動悸・息切れ・発熱を伴いつつ『ぴたぁ────っ』と頬に手をつけ悶え、震える。──死である。
しかし、そんな彼女の内情を知らぬ彼は、無情にも首をかしげるのだ。
「…………? なに? その反応」
「…………アァ、ァぁ……」
まるでわかっていないエリックにミリアの中。ここ数分の行いがぐるぐるぐるーーっと渦を巻き────……
「……………いッ、……………………イツカラ」
「────? 『いつから』?」
ふるふる。
プルプル。
「えーと…………『負ける気がしな』」
「 声 を か け て よ ッ! 」
全 身 全 霊 。
腹の底から叫んだ。
彼女の体の中、全身の血液が湯になり体を駆け巡っているようで耐えられない!
見られた。
見られた。
(────見られたああああああああ!!!)
「…………あぁ~~~~~あぁぁぁああああ!」
「……ミリア?」
「うそでしょもうヤダもう死にたい、アアアアアアアアアアアアアア……!」
(『ミリア?』じゃないよ馬鹿アアアアアアアアアアアアアアアアうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
ナカで湧き出し大暴れする恥ずかしさに耐え切れず、ずるずると床に座り込み擬態するのはダンゴムシだ。
盛大な一人芝居を目撃されたこの恥ずかしさと言ったら、言葉にしがたいものがある。
(──しっ。…………シニタイ…………ッ!)
体内で絶賛開催中の『羞恥心による運動会』の副作用で、床をごろんごろんと転がりたくなるのを必死に抑える彼女を────追いかけるように。
カウンターを覗き込み、問いかけを浴びせるのは、エリック・マーティン。
理性に生きる男だ。
「…………なあ、ミリア? 『スフィー』って誰? 見たところ、店の中には誰も見当たらないんだけど」
(────やめろ)
「……スフィーさん、って……、え? ……いや、そんなはずはないよな……」
(…………チガウ。)
「────なあ、君、大丈夫か? 疲れているなら休んだ方がいいと思うぞ?」
「………~~~~~~ッ……!」
「…………ミリア?……えーと。どうした?」
(聞くなアアアアアアアア…………ッ!)
降り注ぐ声は、戸惑いの中に気遣いの混じる『心配した声』。一人芝居を真面目に心配されているこの状況。ミリアは────それでもなんとか、ダンゴムシに擬態しながらも言葉を、絞り出した。
「…………………………………………マエ……」
「はっ?」
「…………の…………ナマエ」
「え?」
「…………だからっ! あの子の名前っ! わたしの相棒っ! スフィー・ドル!」
びっしいいいいいいいいいいっ!
最後はやけくそ。物分かりの悪いエリックに勢いよく立ち上がり、カウンター隅に置いてある女の子の人形を指差し叫んだ。
はっきり言って捨て身の告白である。何が悲しくて、『自分が語りかけていた人形の自己紹介』までしなければならないというのか。
しかしエリックの聞き方からして、『マジでわかっていない』。ミリアは身を切り裂くしかなかった。
(ああああもう勘弁して! これで分かってもう死にたい! 察して! 察してお願い! もうヤダああああ! ぶああああん! わたしの馬鹿アアアアアアア!!!)
今にも叫んで転がりたい。
一刻も早くこの羞恥から逃げたしたい。
────が。
「………………は?」
返ってきたのは無情な反応。
(──ひッ。……こっ、コロシテっ……!)
事態がいまいち飲み込めない理性の男と、思いっきり一人劇場を楽しんでいた妄想の女。
まじめな視線で注がれる『なにやってるんだ』こうげきに、ミリアの『いろいろ』が限界に達した時。エリックの無情な声掛けは、彼女にとどめを刺した。
「────…………ってことは、君、今、一人でしゃべっていたってことか? あんなに楽しそうに? 大きな声で?」
「………………コロシテ……………」
──よ、ヨロロロロ……ずるるるるる……
音すら立てずにミリアはカウンターに突っ伏した。
致命傷である。
捨て身の説明をしたのにもかかわらず、真顔で確かめられるこの痛み。
これならまだ退かれた方がいいし、いけないモノを見てしまったような態度でごまかされた方がましだ。
そんな彼女の羞恥は、伏せた頭の、深い茶色の髪の隙間からこぼれ見えた『真っ赤に染まった耳』と共に、やっと。やっとエリックの”理解”に届いて────
「────フ! あはははははははははっ!」
吹き出し笑い声を上げたのは、エリックのほうだった。
腹が、震える。
大きな声が出る。
柔らかく握った拳で口元を覆うが、それでは到底隠しきれない。
肩が揺れ、頬が引きつる。
エリックが思い出すのは彼女の様子だ。
自分の存在に気づかず、繰り広げられていた1人劇場。身振り手振りも鮮やかに、声色なども使って堂々と。
陶器の仮面もどこへやら。
ぶり返す『ミリア』がもたらす笑いに目じりを押さえ、エリックは声を上げる。
「ひッ、ひとり、ひとりであんな……っ! まるで歌劇の役者みたいにっ……っ! フッ! くくくっ! 俺はてっきり、そこに小さな子供でもいるのかと思っていたのにっ、それがっ、……フ! あははははははははははっ!」
「………………モウヤダ オウチ カエリタイ…………」
────ふはっ!
ひとしきり笑う自分の前、うつ伏せ恥ずかしがる彼女の言葉がさらに笑いを誘い、
また吹き出した。
目じりに涙がにじむ。
腹が痙攣してどうしようもない。
コントロールが効かない。
──────うぉっほん!
ゴホゴホっ! んんっ!
(──ダメだ、ぶり返す……! 思い出すな、思い出すな……! 彼女に失礼だろ……!)
頬肉を噛んで震える。
目を閉じて雑念を払う。
堪えろ、堪えろと言い聞かせるが、ゆるむ、ゆるむ。
その、意思に関係なく緩む頬にぐっ……っと力を入れ、『仕切り直し』。
すう────────っ。
はぁ────────っ。
「────客が来たのに、帰るのか?」
「ィラッシャッセぇ……………………………ォゥチ カェル……」
「────クッ! あははははははは!」
「ああああああああもおおおおお~~~~っ」
総合服飾工房・ビスティーに、ぶり返したエリックの笑い声と、ミリアの声はもうしばらく響いたのであった。
#エルミリ#
彼女は不機嫌だった。
彼は愉快だった。
「ってゆかひどくない? そこまで笑うことないじゃん」
「──いや、アレは仕方ないだろ?」
雨がガラスをはじく音もまばらになった、ウエストエッジの一角。
ひとしきり笑い終わって店の中。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる