*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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3 君の秘密

第43話 めーわくなんですけどぉ~

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 カウンター越しむくれるミリアに、緩む頬に力を入れつつ首を振る彼はいまだに、ぶり返しの中にいた。

 ──誰もいないと言うのに、動きも派手に繰り広げていた一人芝居。初めは影に子供でも隠れているのかと思ったがそうではなく、『人形相手』。


 ──声をかけた時の彼女の顔。
 その後の反応。思い出しただけで口元が緩み腹が痙攣しそうになる。


 溢れて仕方ない笑いを噛み殺し、彼はもう一度『────すぅ────』っと深く深く息を整え


「…………はあ、死ぬかと思った」
「それ、こっちのセリフだしっ」


 ぽろりと溢れた本音に返ってきたのは、ミリアのむくれっつら。

 さっきからずっとこの調子だ。
 半笑いのエリックに対し、ミリアの顔は不満そのもの。

 まあ、ミリアとしては『末代までの恥』を目撃されたようなもので、はっきり言って無かったことにしたいのだが、エリックはにやにやと笑うばかり。不服も募ると言うものである。


(…………もぉ~、なんでいるのっ)
 
 カウンターの向こうでご機嫌そうに頬杖をつきながら、一向に帰らないエリックを前に。

 ミリアは丸椅子に掛け、あえて挑戦的な頬杖で小首をかしげると、


「っていうか~? キミ、けっこう爆笑するタイプなんだね。いがーい」


 はちみつ色の瞳をジトっとかたちり、頬を膨らませ嫌味を放った。


 ミリアとしては、『態度でかくて表情動かないのに爆笑とか? へぇ~~するんだあ?』を力いっぱいを込めたつもりだったのだが、しかし。

 普段、貴族どもが放つ純度の高い嫌味を喰らっているエリックにとって、そんな嫌味などささやかな抵抗にもならず──逆に、くすりと彼のほおを緩めるエリック。


 彼は言う。
 小さく目を見開き、笑いもそのままに。


「……え? いや、普段はこんなに笑わないよ。……こんなに笑ったの、いつぶりだろうな」
「不服です」

「────フ!……良いじゃないか。またやって欲しいんだけど? 『頑張ろうね、スフィー♡』って」
「お断りだっ!」


 裏声でおちょくるエリックに間髪入れず叫ぶ彼女。それを受け、また『フ……!』と吹き出し笑い出してしまった。
 

 まあ、彼が笑うのも無理はない。
 エリックは、店の前を通るその直前まで『今日はどう話を持っていこうか、どのようにアプローチしようか』考えていたのだ。


 ミリアというターゲットに対して・どのような話題を振って・どんな返しが来て・どのように誘導するか。

 この前の印象・聞いた話・逆に、振り忘れた話題。


 名目上の『用件』は用意したが、それだけでは物足りない。「なにか、自然と・気を許すような話題はないか」と画策しながらここまで来た。

 ──のだが。

 小雨降りしきる中、覗き込んでみれば、やけに楽しそうな彼女の姿。
 扉を開けても気づかない。
 中に入っても気づかない。
 誰かいるのかと思ったがそうでもない。 
 不思議な様子を黙って観察し、声をかけたらあの悲鳴。

 ────あれは、『仕方ない』。


 …………ふ、くすくす、ふふふ……!


 ありとあらゆるアプローチがすっ飛んでしまい、笑い転げたのを思い返してくすくすと肩を揺らす。

 しかしそんなエリックに、当のミリアは当然不満一色だ。あからさまに『めーわくなんですけどぉー』と言いたげに頬を膨らますと


「ねえ? おにーさん? あの~。何も買わないなら帰って欲しいんだけど~。おきゃくさん・きちゃーう。今日はー、なんのようですかー、おにいさーん」


 退屈な授業を紛らわす学生のように、かったんかったんと椅子を鳴らして睨んでみる。

 ミリアは全力で不服をたたきつけているつもりだが、例によって例のごとく──それは、逆に彼の興味に火をつけるのみだった。


 彼は述べる。
 彼女に、思わせぶりな笑みを浮かべて。


「────へえ? 良いのか? そんな態度をとって」
「どゆいみ?」

 ぴくんと開く、ミリアの瞳。
 ────さあ、反撃開始だ。


「ひとり劇場をするぐらい暇なんだろ? そんな君に、仕事。持ってきたんだけど」
「仕事?」

 
 …………フフッ。
 頬杖から、顔を浮かせてオウム返しに目を丸める彼女に、彼は頬を緩ませた。


 ────完全にかかった。
 主導権を握り返してほくそ笑む。
 物事はなるべく優位に進めるのが『スパイ』の手腕だ。


 ”仕事”と言われて目の色を変えた彼女に、彼は抱えていた麻袋をどさっと置き、余裕の笑みをたたえ────


「………うちにあった『ボタンの取れた服』。つけてくれる?」
「うちはボタンつけ専門店じゃないんだけど」
 
 ピッシャーーーーーン!
 

 『思わせぶり』を『一刀両断』。
 一瞬の間もなく『スパン!』と返ってきた言葉に、走り抜けるは稲妻のような空気感。


「…………」
「……………………」
『………………』


 『やってくれるよな?』と語るエリックのキメ顔と、『わたしはボタンつけ係じゃない』と語るジト目のミリアがじぃぃぃぃぃぃっと交わり、絡まる視線、落ちる沈黙。
 ふんわり舞うのは布埃。

 ふわふわ……こちっこちっ……


『────────…………』

「…………まあまあ、いいよわかった付けてあげる」


 沈黙を破ったのは、ミリアの方だった。
 
 エリックにボタン付け屋と思われるのは正直癪だが、仕事と言われたら仕方ない。

 持ってきた麻袋に手をかけ、『仕方ない』を纏わせベストを引き出す。


(……暇なことは暇だしね、仕事って言われたらまあ仕方ないよね~)

 
 諦め口調で呟いて、何着もある服をばさりとカウンターに出しながらも、しかし彼女はじろりとエリックを見上げると、


「その代わり、さっきのことは忘れて?綺麗。さっぱり。記憶の中から消して欲しいですっ」


 はっきりとした口調で言い放った。

 その目は、きりっとしていながらも、少しばかり恥ずかし気で。むくれた表情の奥、明らかに見える”羞恥”の色。


 そんな申し出に、エリックは

「…………そうか」

 一言。
 ふっ……とその目をそらし、愁いの色を浮かべながら、小さな声で言う。


「…………残念だよ、ミリア……俺、記憶力は良い方なんだ。君の『迫真の演技』…忘れられないかもしれないな?」
「 か え れ っ! 」
 

 ──────また、再び。

 ぷんすこ怒ったミリアの声とエリックの笑い声は、ビスティーの店内にでかく響いたのであった。






#エルミリ#







 総合服飾工房オール・ドレッサーとは、衣類のトータルサポートの場所である。



 穴あき・お直し・裾直し。
 着合わせ相談・提案そして販売受注。
 ドレス・ワンピの仕立てからボタン付け。

 プロの技術と速さで、正確・きれいな仕上がりを約束する代わりに対価を得る『作業場所』。

 そんな総合服飾工房オール・ドレッサーでの昼下がり。
 エリックが持ち込んだベストやシャツのボタンをカウンターを挟み、二人・・で縫い付けていた。 


「──ミリア。これは?」
「上のボタンと一緒、糸がクロスになってるからクロス仕上がりで~」
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