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3 君の秘密
第47話 超ふつ~~~~~~~~~~~です
しおりを挟む(────これは好都合だ)
黒き瞳の奥で野心が光る。
こんなに早くチャンスが来るとは思わなかった。
偶然とはいえ、通常は入れないところに入れるのは大きいだろう。
もし、行った先で何も得られなくとも、毛皮布地の取り扱いなど観察できる部分はたくさんあるはずだ。
隣で『やっぱり夏は麻だよね、気持ちよさが違うじゃん?』と話しまくる彼女をよそに、エリックの気持ちは確信に変わる。
────この女、やはり役に立つ。
(……雨だっていうのに無理に出てきてよかったな。本当なら、湿気が強い日は出たくないんだけど)
言いながら、エリックがさっと目を向けたのは、誰かの家の窓ガラス。
湿気で跳ねる癖毛を目にしてうんざりと、しかしこっそり髪を治すエリックの隣で、ミリアは”びしっ!”っと親指を立てると
「だからねー。荷物。よろしく!」
「──ああ、うん。俺も楽しみだよ。新しい場所に入れると思うと、胸が弾むよな?」
「………………少年のような……」
「フフ、子供っぽいと思った? 君もそうなんじゃないか?」
「…………まあ。気持ちはわからんでもない」
「────フッ! ……君、そういうところは素直だよな」
「……………………」
隣でやたらとご機嫌そうに。
くすくす笑うエリックに、ミリアは顔のパーツを平たく伸ばして沈黙した。
(……いまの……いったいどこに笑う要素があったのか……)
内心こっそり首を捻る。
どうも先ほどから彼のツボに入ったらしく、クスクスと笑われているのだがミリアにとっては、それが不思議で仕方ない。
なぜなら、彼女は突飛なことをしているつもりがないからである。
(……まあ、一人芝居に関しては? 面白かったかもしんないけど? …………今、笑うところあった……??)
と、不思議をこねくり回すをミリアの隣。
ご機嫌なエリックはその表情をさらりと変えると、
「けれど、こういうものって……普通は問屋の方から卸しに来ないか?」
「──あ。うん、来てくれるよ~」
「じゃあ、なんでわざわざ?」
「──ふっふー♪ 『雨の日特別デー、10%オッフー』♪」
突然。
陽気な鼻歌混じりで答えたミリアは指で『10』を作り、そのままテンション高めに話し出す。
「10%だよ? じゅっぱー! 同じものが10%も安かったら行くでしょ! 問屋さんって普通こういうことしないんだけど、そこは別でね? 雨の日大特価なの! 大雪とか嵐とかじゃない限り、10%は大きい! 行くっ。行くしかない!」
「…………へえ。流石にそういう時は出ないんだな?」
「……………………人をなんだと。」
「──……自覚ないのか? 君、かなりの『向こう見ず』だろ?」
「………………」
「ナンパに駆けていくし、ナンパに嚙みつくし、靴は投げるし」
「────まあ。否定できない」
「…………」
(……そこは認めるんだな?)
会話の中で距離を測りながらツッコミを入れるエリックを横に、ミリアは『ううぅぅん』と悩ましげに眉を寄せ、腕を組み、力いっぱい首を捻ると、
「どーも。どおおおおも、見過ごせないっていうか。なんか、体が動くんだよねぇ?なんでだろうねぇ?」
「…………俺に聞くのか? 自分のことは自分が一番よくわかるだろ?」
「うん、だからあのね? 漫才とか無理な感じです。自覚ないもん」
「…………え。そこに戻る?」
「掘り返してみました」
(『みました』って……、……いや、えーと)
体感、1時間ほど前までぶっ飛んだ会話に一瞬固まる。
エリックが一瞬(どういう思考の作りをしてるんだ?)と眉を寄せる最中。
ミリアはキラキラお澄ましスマイルで『うんうん』と頷くと、その顔を、手のひらを返したように真顔に戻し『さも当然』と言わんばかりの眼差しで──言う。
「だってわたし、面白みとかないじゃん?」
「………………え」
『ね? そうでしょ?』と言わんばかりに右手を開き、左手を腰に当てはっきりと。
その様子、威風堂々。
ズドンと構えて、自分の発言に一切の疑いも持っていない。
思わず言葉を失う彼の前、彼女はそのまま『超! 真面目!』な面持ちで述べるのだ。
「超~~~~ふっつううううでしょ? めっちゃノーマルじゃない? ノーマルと書いてわたしと読むぐらい普通じゃない?」
「…………。」
(──いや、何を言ってるんだ? 君は。)
ツッコミも追いつかなくなった。
──少なくとも。
彼、エリック・マーティン……いや、盟主『エルヴィス・ディン・オリオン』のその周りは一人芝居でモノに話しかけたりし・初めての人間に靴を投げたりしないし・誘いに対して現状報告を繰り出したりもしない───のだが。
対応が遅れ黙り込む自分の視線の先で、とてもとても不思議だと言わんばかりに首を傾げるミリアに、エリックの考えは……口から突いて出ていた。
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