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3 君の秘密
第55話 しわ、残りそう
しおりを挟む「……いや、早くハゲそうだなって」
「はっ?」
「眉間にシワも残りそうだなって」
「ちょっと。」
「…………まだ若いのに…………」
「それ、どういう意味だよ? 俺の親族に毛髪の薄い人間はいないんだけど?」
顔全体を『憂いと哀れみ』で染め上げ、視線を反らされ食って掛かった。
確かに普段から『小難しい顔をされていますね』と言われることはあるが、『将来はげそう』などと面を向って言われたのは初めてだ。
思わず『盟主』も『スパイの仕事中』なのも忘れ迫るエリックに、しかしミリアの調子は変わらないのだ。ふらふら~と頭を揺らしながら、ゆる~い口調で言うのである。
「親とかじゃなくて、難しいことばっかり考えてて気苦労が多そうだなあって思ってさー。もっと気を抜いてぬる~く生きていけばいいのに~」
「君に言われなくとも。抜くところでは抜いてるよ、ちゃーんと」
「ほんとにー? さっき『いや、こんなに笑わないよ』って言ってた気がするんだけど~」
「…………」
(──確かに。それは、そうだけど)
真似されながら覗き込むように言われ、言葉に詰まった。
内心『意外に聞いてるんだな』と、気まずさが走り抜けるエリックの前で、ミリアはすっと身を引き、戯けた様子で肩をすくめ
「……おっと、これまた失礼っ。キミのこと何も知らないのに、ちょっと言いすぎたね?」
「………………いや」
「でも笑った顔いい感じだったから、もっと笑ったらいいと思う~」
「…………」
かる~いトーンで言うミリアになぜか。
言葉を返せなかった。
『笑わない』とか『本音が見えない』とか彼 エリック・マーティンが陰で言われ続けている言葉だ。
だからと言って変に笑いを取ろうとは思わないし、これでも愛想は振りまいている。これ以上どうしろというのかという気持ちの隅で、冷静な頭が囁くのだ。
『望んでいるから。当たり前だ』と。
──踏み込まれたくない。
だから笑みなど作らない。
しかし、言葉がこだまする。『笑ったらいいのに』。
『笑ってください』でも、『盟主らしく』でも『愛想がないぞ』でもなく、外のほうから「ぽーん」と。やや無責任に投げられたそれが、響いて靄になる。
「──……、『もっと笑え』って言われてもな。……普段から笑ってると思うけど」
「それってもしかして、会釈程度のスマイルのこと? そうじゃなくてこう、『あはははは!』ってやつ。さっきみたいなやつ」
躊躇いがちに発した意見に、返事は間を置かずに返ってくる。
「おにーさん、しないって言ってたじゃん?」
「……──それは、」
言葉に詰まる。うまく、出てこない。
「…………柄じゃないだろ?」
「そーだろーか?」
迷いながらの言葉に返ってきたのは、あっけらかんとした声とキョトン顔。
かみ砕けないナニカが、胸の中で異物感を残す中。
そんな心情など知ったこっちゃないと言わんばかりに、ミリアは《くるん》と振り向きお道化た様子でこちらを見ると、
「ガラとは、だれが決めるのでしょうか? わたくしには解り兼ねるところではございますが、お兄さんの笑った顔、ガラじゃないって感じじゃなかったけどな~」
「…………」
言われて、少し。
生まれ出た迷いのような何かが、ふっと軽くなったような感覚に襲われ足を止めた。三歩ほど先を行く彼女は、まるで雨上がりの世界を切り開いていくようで──
その明るさに躊躇うエリックに、ミリアは空を仰いで笑う。
「たのしそーに笑ってたじゃん。さっき、わた、」
肩越しのからりとした笑顔が、次の瞬間には
「わた、……わたしの。」
悔いの混じった赤面に変わり、
「ひと……、ひとり芝居にっ……! 不覚っ……! 思い出した……! ──くっ……! 穴があったら入りたい……っ!」
「……ふ……!」
みるみる自爆して行った彼女に吹き出し笑った。
ちらりと見下ろすその先で、ミリアは両手で顔を覆う。
その様子に、また、もう一度。
(────……フ! ……いい空気だったのに、何やってるんだ?)
「──ふふ、また、思い出したんだけど?」
彼は笑った。柔らかくにぎった拳で、口元を隠しながら。
意地悪を纏い、伺うように。
「もー、忘れてって言ったじゃんっ!」
彼女は叫んだ。恥ずかしさをはじき返すような、勢いのある声で。
ノースブルク諸侯同盟・オリオン領の西の端・ウエストエッジの一角。
通りを行くミリアが、『……やばい! 通り越しちゃった!』と言い、二人で慌てて引き返したのは──この、数分あとの話。
※
────そして彼女は聞くことになる。
布の問屋から────耳を疑いたくなる事実を。
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