68 / 78
4 取引をしよう
第57話 ぼ?????????
しおりを挟む込みあげてくる笑いがタマラない。
筒抜けというより直通だし、なんなら盟主は自分だし。
ミリアが述べていた『お上への不満』も、全て直送。
何のフィルターも通さず、ノータイムで届いているのだ。
意見を通すなら、下手に手続きを踏むよりよっぽど早いのだが
もちろん彼女はそれを知らない。
『正体を知らない人間』に関わるのは、愉快だ。
しかし、ミリアの場合、別の意味で愉快だった。
(────ああ、くそ……!
また顔の筋肉がおかしくなりそうだ……!)
笑いがこみあげて仕方ない。
目じりが緩んでいくのがわかる。
しかし、ここで笑うわけにはいかない。
────んっ、コホンッ、ンンッ……!
彼は、再びごまかしの咳払いをひとつ。
(…………しっかりしろ
笑ってる場合じゃないだろ……!)
そう、自らを制し、
彼は口元を押さえる右手のひらの中、
すぅ────っ。
と大きく静かに息を吸い込み、
”用意していた言葉”を
「……なあ、ミリア?」
────優しい声で
「えっ、ってゆかまって!?
わたしこの前、言ったっけっ!?
えっ? これビスティーヤバイんじゃ……!?
あれ!?
め、盟主さまに、わたっ、
────えっ!?」
……っさぁぁぁぁぁぁ────っ……。
(────え。)
エリックが、次なる手を打とうとしたその瞬間。
みるみる引いたミリアの血の気に、動きを止めて固まった。
唐突なことに驚く彼の前、その顔を青白く染めた彼女は、”カチン”と音を立てたように、固まって動かない。
「……ミ、ミリア?」
「………………まって…………」
エリックが思わず腰を浮かせて伺ったその声に、戻ってきたのはか細い声。
釣られて動揺するエリックの前、彼女は伏し目がちだった顔を上げ、
「…………ワタシ……、ナンカ、好キカッテ
…………むりじゃん。
むり死んじゃう無理じゃん殺されてしまう!」
────その色、”真っ青”。
盟主本人も動揺しドン引く顔色に、彼は手思わず手をあげて、
瞳に宿すのは、憂いと 優しさ
覗き込むのは、彼女の瞳。
────とにかく ”安心を”。
「…………君のことを旦那さまに話したりしないし
ここで見聞きしたことを、
……伝えるつもりもないから」
ゆっくり ゆっくり 落ち着けるように
「大丈夫。俺を信じて。
────それとも、信じられない?」
──────言葉をかける。
「…………そ、そんなことはない、んだけど。
…………ほ、ほんと? いわない?」
「────ああ。本当。
…………約束するよ。
ネミリアの聖騎士に誓って」
「…………っ!
………………っ!」
「…………俺を、信じてくれる?」
「────おにいいっさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!」
「”エリック”だ」
────がしっ!
うるうるうるっ!
ミリアの反応に、固めの声で答えた。
そしてどこかを見つめる────空虚な瞳。
「…………」
嗚呼、なんだろうか、この感じ。
『全力を込めた何かが、肩透かしで終わってしまった』ような脱力感。
(…………ちょ、調子が狂う…………
なんでこうなるんだ)
さっきまでの気持ちの整理がつけられない。
安心させるつもりの言葉は尽くしたはずだ。
それで確かに安心はしたようだが、こうも勢いよく──……
名前ではなく”代名詞”で呼ばれるとは。
このまま真面目モードに持って行きたかったのに、空気は一気にコミカルである。
(────普通、ここは
…………『わかった。ありがとう……!』とか
『エリックさん……! 優しいのね……!』とか
そうならないか? なるよな?)
と、内心首をひねるイケメン盟主。
今まではそうだった。
『大丈夫だ』と言えば、皆 瞳を輝かせ頬を染めたというのに。その『やさしさ』に、うっとりと心を許したというのに。
彼の頭の中。
予想した『嬉しそうな顔つきのミリア』や
『とても感謝している顔つきのミリア』が浮かんで──
「はーよかったハッピーハッピー!
社会的に死んだかと思った、ふうううう!
九死に一生を得るとはまさにこのことですね! はあ──っ! よかた!」
と、背景に花なんぞを飛ばしながら
『キラン☆』と額の汗を拭う、現実の彼女にかき消されていく。
「………………」
そんな様子に言葉もでない。
ほっといてもホジティブな方に転がっていくのは楽ではあるのだが、転がり方が早すぎるのである。
百戦錬磨・敏腕スパイ・そして華麗なるオリオン盟主は『未知なる遭遇』に戸惑いながらも、それでもなんとか。
頭を働かせようとしていた。
(…………えーと、)
──────ふぅ──────…………
瞳を反らして息を吸い
そして彼は考える。
平静を装い、呆れ混じりの目を向けて
ミリアの楽観的な文言を聞きながら、歪む唇を隠すように頬杖を突き、ぐるりぐるりと思案する。
(────と、いうか?
……このやりとり、3回目だよな?
いい加減、名前ぐらい呼んで欲しいんだけど)
ぼっそりと呟き、こぼす愚痴。
実は、そこも地味に気になっていたのだ。
彼女の口から、ことあるごとに出てくる『おにいさん』呼び。
エリックはとっくに彼女に名前を名乗っているのに、ミリアは一向に『キミ』とか『おにいさん』とかでしか呼ばない。
諜報員ネームの『エリック』も
本名である『エルヴィス』も
名乗れば皆、すぐにその名で呼んでくるのに
彼女が口にするのは、なぜか代名詞。
「………………」
地味~に、エリックの胸の内、複雑な気持ちが噴出しはじめる。
(…………まったく。
マジェラの女性はみんなこうなのか?
名前で呼ぶ習慣がないとか?)
地味に刺激されている『彼のプライド』。
しかし。
(…………いや、そうじゃない。
そこに拘っている場合じゃない)
彼は無理やり首を振り、そして切り替えた。
彼女のペースに乗せられてどうする。
自分はスパイだ。
真相を調べるために、今後起こりうる価格高騰を防ぐために。
ここで、足踏みをしている場合じゃない。
”言う”と、決めた言葉がある。
”取る”と、決めた手段がある。
自身に言い聞かせ、
彼は、ゆっくりとその瞼を閉じる。
──────街のこと。
産業のこと。
国のこと。
領のこと。
────そして
「────なあ、ミリア。
……ちょっと掛けてくれる?」
「……はい?」
「────取引をしないか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】
との
恋愛
「彼が亡くなった?」
突然の悲報に青褪めたライラは婚約者の葬儀の直後、彼の弟と婚約させられてしまった。
「あり得ないわ⋯⋯あんな粗野で自分勝手な奴と婚約だなんて!
家の為だからと言われても、優しかった婚約者の面影が消えないうちに決めるなんて耐えられない」
次々に変わる恋人を腕に抱いて暴言を吐く新婚約者に苛立ちが募っていく。
家と会社の不正、生徒会での横領事件。
「わたくしは⋯⋯完全なる婚約破棄を準備致します!」
『彼』がいるから、そして『彼』がいたから⋯⋯ずっと前を向いていられる。
人が亡くなるシーンの描写がちょっとあります。グロくはないと思います⋯⋯。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる