*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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第57話 ぼ?????????

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 込みあげてくる笑いがタマラない。
 筒抜けというより直通だし、なんなら盟主は自分だし。
 

 ミリアが述べていた『お上への不満』も、全て直送。
 何のフィルターも通さず、ノータイムで届いているのだ。



 意見を通すなら、下手に手続きを踏むよりよっぽど早いのだが
 もちろん彼女はそれを知らない。



 『正体を知らない人間』に関わるのは、愉快だ。
 しかし、ミリアの場合、別の意味で愉快だった。



(────ああ、くそ……!
 また顔の筋肉がおかしくなりそうだ……!)

 

 笑いがこみあげて仕方ない。
 目じりが緩んでいくのがわかる。
 しかし、ここで笑うわけにはいかない。


 ────んっ、コホンッ、ンンッ……!

 彼は、再びごまかしの咳払いをひとつ。
 


(…………しっかりしろ
 笑ってる場合じゃないだろ……!)



 そう、自らを制し、
 彼は口元を押さえる右手のひらの中、


 すぅ────っ。
 と大きく静かに息を吸い込み、



 ”用意していた言葉”を
 

「……なあ、ミリア?」

 ────優しい声で


「えっ、ってゆかまって!?
 わたしこの前、言ったっけっ!?
 えっ? これビスティーヤバイんじゃ……!?
 あれ!?

 め、盟主さまに、わたっ、
 ────えっ!?」

 ……っさぁぁぁぁぁぁ────っ……。
(────え。)


 エリックが、次なる手を打とうとしたその瞬間。

 みるみる引いたミリアの血の気に、動きを止めて固まった。




 唐突なことに驚く彼の前、その顔を青白く染めた彼女は、”カチン”と音を立てたように、固まって動かない。





「……ミ、ミリア?」
「………………まって…………」
 

 エリックが思わず腰を浮かせて伺ったその声に、戻ってきたのはか細い声。
 釣られて動揺するエリックの前、彼女は伏し目がちだった顔を上げ、



「…………ワタシ……、ナンカ、好キカッテ
 …………むりじゃん。
 むり死んじゃう無理じゃん殺されてしまう!」



 ────その色、”真っ青”。
 盟主本人も動揺しドン引く顔色に、彼は手思わず手をあげて、





 瞳に宿すのは、憂いと 優しさ
 覗き込むのは、彼女の瞳。




 ────とにかく ”安心を”。




「…………君のことを旦那さまに話したりしないし
 ここで見聞きしたことを、
 ……伝えるつもりもないから」



 ゆっくり  ゆっくり  落ち着けるように



「大丈夫。俺を信じて。
 ────それとも、信じられない?」




 ──────言葉をかける。




「…………そ、そんなことはない、んだけど。
 …………ほ、ほんと? いわない?」
「────ああ。本当。

 …………約束するよ。
 ネミリアの聖騎士に誓って」
「…………っ!
 ………………っ!」


「…………俺を、信じてくれる?」




「────おにいいっさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!」

「”エリック”だ」


 ────がしっ!
 うるうるうるっ!


 ミリアの反応に、固めの声で答えた。
 そしてどこかを見つめる────空虚な瞳。



「…………」
 
 嗚呼、なんだろうか、この感じ。
 『全力を込めた何かが、肩透かしで終わってしまった』ような脱力感。



(…………ちょ、調子が狂う…………
 なんでこうなるんだ)




 さっきまでの気持ちの整理がつけられない。
 安心させるつもりの言葉は尽くしたはずだ。
 それで確かに安心はしたようだが、こうも勢いよく──……
 

 名前ではなく”代名詞”で呼ばれるとは。



 
 このまま真面目モードに持って行きたかったのに、空気は一気にコミカルである。



(────普通、ここは
 …………『わかった。ありがとう……!』とか
 『エリックさん……! 優しいのね……!』とか
 そうならないか? なるよな?)
 と、内心首をひねるイケメン盟主。



 今まではそうだった。
 『大丈夫だ』と言えば、皆 瞳を輝かせ頬を染めたというのに。その『やさしさ』に、うっとりと心を許したというのに。





 彼の頭の中。
 予想した『嬉しそうな顔つきのミリア』や
 『とても感謝している顔つきのミリア』が浮かんで──




「はーよかったハッピーハッピー!
 社会的に死んだかと思った、ふうううう!
 九死に一生を得るとはまさにこのことですね! はあ──っ! よかた!」


 と、背景に花なんぞを飛ばしながら
 『キラン☆』と額の汗を拭う、現実の彼女にかき消されていく。



「………………」


 そんな様子に言葉もでない。

 ほっといてもホジティブな方に転がっていくのは楽ではあるのだが、転がり方が早すぎるのである。



 百戦錬磨・敏腕スパイ・そして華麗なるオリオン盟主は『未知なる遭遇』に戸惑いながらも、それでもなんとか。


 頭を働かせようとしていた。



(…………えーと、)
 ──────ふぅ──────…………



 瞳を反らして息を吸い

 そして彼は考える。



 平静を装い、呆れ混じりの目を向けて
 ミリアの楽観的な文言を聞きながら、歪む唇を隠すように頬杖を突き、ぐるりぐるりと思案する。



(────と、いうか?
 ……このやりとり、3回目だよな?
 いい加減、名前ぐらい呼んで欲しいんだけど)

 ぼっそりと呟き、こぼす愚痴。
 

 実は、そこも地味に気になっていたのだ。
 彼女の口から、ことあるごとに出てくる『おにいさん』呼び。


 エリックはとっくに彼女に名前を名乗っているのに、ミリアは一向に『キミ』とか『おにいさん』とかでしか呼ばない。



 諜報員ネームの『エリック』も
 本名である『エルヴィス』も
 名乗れば皆、すぐにその名で呼んでくるのに


 彼女が口にするのは、なぜか代名詞・・・



「………………」
 地味~に、エリックの胸の内、複雑な気持ちが噴出しはじめる。




(…………まったく。
 マジェラの女性はみんなこうなのか?
 名前で呼ぶ習慣がないとか?)


 地味に刺激されている『彼のプライド』。
 しかし。


(…………いや、そうじゃない。
 そこに拘っている場合じゃない)

 
 彼は無理やり首を振り、そして切り替えた。

 
 
 彼女のペースに乗せられてどうする。
 自分はスパイだ。
 真相を調べるために、今後起こりうる価格高騰を防ぐために。
 ここで、足踏みをしている場合じゃない。




 ”言う”と、決めた言葉がある。
 ”取る”と、決めた手段がある。



 自身に言い聞かせ、
 彼は、ゆっくりとその瞼を閉じる。




 

 ──────街のこと。
 産業のこと。
 国のこと。
 領のこと。

 ────そして


「────なあ、ミリア。
 ……ちょっと掛けてくれる?」
「……はい?」



 






「────取引をしないか?」





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