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従っているのも今のうち
「その髪型、ワタシに合わない。明日までに変えてこい」
「はい、マークさま」
「お前の歩き方はぎこちないな。婚約者ならもっと堂々と歩けるようになれ」
「……ご指導ありがとうございます、マークさま」
このような「指導」は常で有り、サリアは完璧な婚約者候補でなければならなかった。 困るのはマークが、自室にまで乗り込んでくることである。
サリアには、《人の印象を変える化粧》をする趣味があるのだが、使用人のヴァルに付き合ってもらっている時にも入ってきた。そして開口一番、こう述べたのである。
「気色悪い趣味だな」「男に女の化粧をする暇があるのなら、ランデルスの一員として、ワタシの婚約者として、それ相応の振る舞いを身に就けろ!」と、化粧ブラシを踏みつけ鏡を叩き割った。
さすがにこれには、サリアも、付き人のヴァルも苛立ちを隠せなかった。そんな二人に、マークはまるで、その反応を楽しむように嗤い述べたのである。
「なんだ? 身請け同然でもらってやるというのに」「おいおい、婚約者候補が、旦那さまにそんな顔をしたら駄目だろう。そんな顔したら。なあ?」「婚約者なのだから。な? サリア。お前は妻になるのだ。旦那さまには『尽・く・し・ま・す』『ご・め・ん・な・さ・い』だ」
「……っ!」
「……ヴァル」
踏みつけるように、宣った瞬間。
サリアの奥に控えていたヴァルと呼ばれた付き人が殺気立つ。が、サリアは静かに首を振り、彼を目線で制していた。
──それがさらに気に入らない。
マークは胸を反らして顎を引く。
「おい! そこの使用人。お前。何様のつもりだ」
「マークさま、おやめください」
サリアが制止に入る。
しかしマークの怒りは収まらない。
ガツガツと音を立て、サリアの隣のヤツの胸倉を掴むと、
「……なんだぁ? 反抗的な目だなぁ、おい? サリアの付き人でなければお前なんてな、全て取り上げ藁で巻き、アストリア大河に沈めてやる!」
「……マークさま。いけません、もうすぐ男爵の資格を得るのでしょう?」
「……チッ! ただでさえ『成婚前の制約』のせいでむしゃくしゃしているというのに!」
「彼は私の指示に従って行動しております。どうかご容赦を」
マークは彼女の言葉を聞いて、一瞬眉をひそめたが、しばし沈黙した。彼の眉間に一瞬だけ皺が寄ったが、すぐに面倒を避けるように鼻を鳴らしただけだった。
機嫌の悪そうに踵を返し、荒く部屋から出ていくマークの背中を見送って。堪える思いを捻じりだす様に漏らしたのは、サリアの付き人・ヴァルだ。
彼は、サリアに近づきながら小声で訴える。
「…………サリア、耐えられない」
その、心底苦汁を舐めたような声色に、サリアは震える心を諫めるように唇に力を入れると、彼に振り返り
「……もう少し辛抱してください」
信念を乗せ、そう述べた。
次いで彼女は口にしたのである。
「鍵のありかは、わかりましたから。
もう少しです。ヴァル」
サリアの声には、どこか静かな敬意が滲んでいる。それに、ヴァルと呼ばれた彼は、苦汁を煮詰めた様子で、重々しく頷いたのであった。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
ヴァル:サリアの付き人?
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
──これは、彼と彼女の会話の一部始終である。
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