偽装没落貴族の令嬢は、密偵王太子に溺愛される

保志見祐花

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サリア!お前との婚約を破棄する!

 ──これは、彼と彼女の会話の一部始終である。



「奥の“あかずの間”の鍵のありかがわかりました」
「本当か?」
「ええ……! 廊下右端に飾られている彫刻の裏に隠されています。娼婦たちが閉じ込められているとしたら、あそこです……!」

「よくやった……! サリア……!」
「今はダメです。耐えてください。彼が完全に油断していると確信できる時まで」


「君とあいつの成婚発表は、明後日だったな。」
「……ええ。」

 
 その言葉に、ヴァルの目が鋭く光った。
 やっと掴んだ。
 手に入れた。
 マーク・ランデルス男爵候補の、不穏な噂の証拠。

 『屋敷の奥深くに女を集め、娼婦として閉じ込めている』という、欲に塗れた下劣な顔。


「なら、それが奴の“最後”になる」

 ヴァルは短く述べた。
 その声には、静かな怒りの炎が宿っていた。
 



◇◇◇◇
◇◇◇◇





「これより皆さまにご報告がございます。このたび、婚約候補として迎えていたサリア嬢とのご縁を破棄することに決めました。」




 煌びやかな燭光が辺りを照らし、シャンデリアが宝石のように輝く夜会の場。マーク・ランデルスの高らかで自慢げな声に、雑踏がざわめいた。
 
 急転直下。
 くるりと翻された結婚の約束に、眉ひとつ動かさず問いかけるのは、サリア・アルフェナ。マークの婚約候補であり、たった今婚約破棄を言い渡された女だ。


「……マーク様。理由を聞かせてくださいますか?」
 サリアの言葉に、しかしマークは、ふんぞり返り腕を組み、不満に顔を染めるばかり。


 その表情が語る。 

 どうだ、恥かしいだろう。
 このワタシに靡かないお前が悪いんだ。
 せっかく婚約者候補として選んでやったのに、サリア、お前は体を捧げるどころか偉そうに注意ばっかりしやがって。なにが「振る舞いにはお気をつけください」だ。 没落貴族の娘の癖に生意気な女だ! ほら、絶望しろ! ははははは! ワタシという素晴らしい人間に捨てられ慌てふためく様を見せろサリア!

 
 ──と……
 そう、顔に書いてあるマークと、距離を取りながら。
 サリアは小さく息をついた。

 
 ……はあ、どうしましょう。
 矮小な考えは手に取るようにわかるのですが、まさかここで、このようなつまらない手にでるなど想像もできなかったわ……


 ここでマークの悪事を詳らかにしたとしても、今の戦況ではただの・・・やり返し・・・・にしか取られない。鍵を持ち彼女たちの解放に向かったあの方・・・もまだ帰ってこない。


 ──ここはひとつ、時間を稼ぐしかありません。


 サリアはゆっくりと一歩踏み出し、もう一度マークに問いかける。
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