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勢いで出たら死にかけた話
3. 童 話 礎の少女
しおりを挟む童話『いしずえのしょうじょ』
昔々あるところに、悪霊に困っている国がありました。
人里に降りてきては悪さをする悪霊に、村長は大変困っていました。
「誰か悪霊をどうにかできる者はおらんのか」
そこに少女が手を上げました。
「お父様、私が悪霊を閉じ込めてみせましょう」。
少女は村長の娘でした。
村長は激しく反対しましたが、少女は言いました。
「村のためです 行かせてください」
少女の決意が固いので、村長は娘を行かせることにしました。
暗いくらい森の中。
かさかさ、がさがさ音がします。
「おばけさん おばけさん どこにいますか?」
おばけの返事はありません。
深い深い森の中。
ぎーぎー・ごうごう音がします。
「おばけさん おばけさん いたら返事して?」
おばけの返事はありません。
高い高い枯れ木の下。
がたがたごろごろ音がします。
「おばけさん おばけさん ここにいる?」
「だれだあ~!!」
「きゃああああ!」
枯葉にかこまれた石からぬるりと出てきたおばけに、少女はびっくりして飛び上がってしまいました。
どてーん! と 尻もちをついたあと、見上げたおばけの体は朽ちていました。
そんなおばけに、少女はぎゅっと驚きましたが、すぐに起き上がると、おばけに向かって言いました。
「おばけさん、ここで何をしているの?」
「おれさまはここにいるだけだ! ここが家だからだあ!」
「お友だちは居ないの?」
「しつれいな奴だな! ほっといてくれ!」
「村の人が怖がってるの。この木や草が枯れたのはあなたのせい?」
「おれさまは、腹が減っているのだあ~!」
なんということでしょう。
おばけは草を食べて生活していたのです。
『いたずらもきっと、お腹がすいていたのね?』と思った少女は、持っていたリンゴをひとつ、あげました。
「これ食べて? おいしいわよ」
おばけはリンゴを食べました。
「もっと食べたいぞ!」
「わかったわ。じゃあもってくるね」
「おばけさん、リンゴをどうぞ。おいしいよ」
「おばけさん、パンをもってきたの」
「おばけさん、干肉をもってきたよ」
次の日も次の日も、少女はおばけに食事をあげ続けました。
少女はおばけと毎日お話をしました。
食べ物もたくさんあげました。
おばけは満足したのか、森からでなくなり、悪戯することもなくなりました。
すっかり時間が過ぎて、おばけと仲良くなったころ。おばけは少女に言いました。
「いつもさみしい。よるはさみしい。いっしょにいてほしい」
「……いっしょに。ねてほしいの?」
とても寂しそうなおばけはこくんと頷きました。
「いいよ、いっしょにねてあげる」
少女も頷きました。
夜が来ました。
月明かりがしっとりと場を照らす中、おばけは石のおうちの中から言いました。
「おやすみ、ありがとう」
とても嬉しそうな声でした。
少女は嬉しくなり、ゆっくりとおばけの家の蓋をしめると、そこに俯せて言いました。
「おやすみなさい。おばけさん」
朝が来て、夜が来て、また朝が来ました。
何回も何回も夜が来て、朝が来ました。
季節がひとつまわったころ。
すっかり平和になった村のほうから、ある日、一人の青年がおばけの森の奥を訪れました。
そこには草木で埋もれたお墓のまえに、少女の石像が蓋を塞ぐように横たわっていました。
「おや、これは立派な石像だ。封印の石像かな」
それを町の人に伝えると、街の人は大喜び。
「あの子のおかげだったのか」
「あの子が悪戯おばけを止めてくれたのか!」
街の人は、少女の行動を称え『いしずえのしょうじょ』と語り継ぐようになりました。
☆☆
「……え、終わり? えっ?」
エリックさんの小屋にあった本を読み終えて、わたしは思わず声を上げていた。
最後のページをめくりなおしてみるが、やっぱり続きはない。
固い背表紙を前に、もう一度。
一人きりの部屋で眉を寄せ、続きを探すように最後のページを行ったり来たり。
「えっ、これで終わり? なんか後味悪くない? 少女死んでるじゃん! わあ」
正真正銘の結末だと確認して、ひとりで抗議の声を上げた。
……うーん……
なんというか、後味が悪い話だった。
童話というものは昔から、こういうテイストのものが多いが、まさか、少女の自己犠牲? が万歳される結末だとは思わない。
眉を寄せながら、固い表紙のそれをくるくる。
丁寧な造りのおもて表紙を見つめ──、疑問は、ぼそぼそと零れ落ちていく。
「…………とりあえず要約すると~「えさを与えないでください・食べられてしまいます」「要求はエスカレートします、騙されないようにしましょう」って言いたいのかな?」
少女はおばけに優しすぎ。
干し肉はもったいないと思うの。
でもこれ、他のメッセージもあるよね?
「……それとも「クレクレ詐欺に注意しましょう」ってアレ? にしても村人の反応はちょっとなくない? まあ自己責任っていえばそうかもしれないけど、恩恵受けてるんでしょー? えー、なんかモヤっとする~」
ベッドの上でころころブツブツ。
本をぱたんと閉じて、そして──腕組みである。
「……そもそもおばけと仲良くなろうとか、思わないし近づかないし、触らぬ神にたたりなしって言うじゃん……? というか、なんでおにーさん、こんな本持ってるんだろ……?」
眉間にしわを寄せて呟いて、疑惑の視線で本を見つめた。
読んで確信したが、どこをどうしても幼い子供向けの書物だ。あれぐらいの成人男性が持っているような本ではない。それらを踏まえて推測を立てるとしたら──
「…………もしかしてあの人、別居してる娘がいるとか……?」
ぼやーっと考えてみる。
まあ、顔面は美麗カラットの彼だ。
性格はやや難ありだとは思うが、妻子がいてもおかしく…………いや……うーん……、でも……、ここで独りで生活してるわけで……だとすると……
「…………ああ見えて離縁経験済みだったり……? いや、それにしては若くない? だってあの人、せいぜいにじゅう────」
────どんっ!
「…………!?」
わたしの一人会議を遮って。
突如扉が開かれ──いや、蹴り開けられた。
ドカドカと、けたたましい靴音を立ててなだれ込んでくる、見覚えのある兵装の男たちに飛び起きる。
──セント・ジュエルの兵士……!
本を片手に、構え警戒の姿勢を取るわたしの前。
見覚えのある兵士の一人が、ぬらりと前に出て──にたりと笑った。
「……ミリアさまぁぁ、みつけましたよお~。いけませんねえ、我々から逃げるなんてえ」
「──リュウダ……!」
────ピンチは、お構いもなしにやってくる。
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