追放された宝石王女ですが、選ばれないのは慣れっこです。「地味石ミリーは選ばれない」

保志見祐花

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さよならの気配

第18話 先の振り方 

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 ──この後わたしはどうしよう?


 王城の廊下・窓の外をぼんやり眺めながら、わたしは物思いにふけっていた。


 身に纏っている『大人しい型のドレス』にも気分が上がらない。
 『エリック陛下に感謝の宴を開く』ということで、わたしも王族仕様に着替えたが、気分はこれだ。


 ──ドレス……は、すごく綺麗なんだけどね……
 民の衣装に慣れちゃうと堅苦しくて仕方ない。


 コルセットはキツイし、背筋伸ばさないとみっともないし、裾は踏むし裾を踏まれるし。



「……きゅうくつぅ……」


 げっそり呟く。
 この先を考えると憂鬱だ。民の服のほうがよっぽど楽だった。


 ──王国に居なきゃいけない? 
 わたしは外に出たい。
 魔防壁が~って言われても、この先もそれに依存する国防もどうかと思う。
 わたしですら一応武器ぐらいあるのに。




 ひとり小さく息をつき、おもむろに脇の下に手を入れ、コルセットから抜き出すのはお気に入りのペーパーナイフだ。

 石造りなのはわかるが素材が不明のため、勝手に『星屑のナイフ』と呼んでいる。
 星屑みたいな混合物が綺麗な一振りである。


 大好きな刀身を眺めて、一拍。
 心の落ち着きを感じて、それをしまい込み、次にわたしはペンダントを掴み上ると


「──エリックさんと一緒に居たいなあ……、国を見捨てるわけじゃないんだよ、もっと外を見たいだけ。それで、隣は彼がいいなって思ってるだけ。……でも、そんなの望み薄だよね~、ショルン?」



 王城の廊下の窓べりで、ペンダントの先についている『鍾乳石のショルン』に話しかけるわたし。

 『寂しい王女だ』って?
  仕方ないじゃん、周りがヒソヒソ煩いんだもん。



「あんな奴らに頭下げて『一緒にいてください』って言うぐらいならひとりのほうが全然マシ。ね、ショルン」



 ショルンは何も言わない。当たり前だけど。
 でも聞いて?


「はあ、困ったなあ。一応、また外に出られるように荷物纏めてあるけど。ショルン、あのね? 一度『外』という蜜を知ってしまった王女は、もう王城などには戻れないの。そういうものなの。旅立ちたいの、わかるよねショルン?」

「でも、ひとりは厳しいじゃん? 厳しいよね? 小動物なら捌けるようになったけど狩れないし。かと言って、仮にレティがオモイビトでレティも一緒に来たとしたら、わたし地獄じゃない? 地獄だよねショルン??」

「はーあ、もう、なにやってんだろね? なんで苦しいこんな道選んじゃったのかなあ。でもあんなの不可抗力だよ無理だもん気づいたら好」
「────誰と話してるんだ?」

「きわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」





☆☆






 ──待って死にたい。後ろにいた。
「…………い、いつ、カラ」


 脂汗が流れまくる。
 驚いて言葉も出ない。
 突如話しかけてきたおにーさんにわたしパニック。
 おにーさん言う。




「……いつ? 『地獄だよねしょるん』?」
「声かけてよッ!」


 拍子に飛んだ鍾乳石のペンダントを見事キャッチし述べる彼に、思いっきり叫んだ!

 あ~~あ~あ~あ~~!
 もう殺してッ!
 バレてない!?
 バレてないみたいだけどああ~~もう~~~ッ……!




 ────と、叫びを全力で押し込み顔を押さえ震えるわたしの頭の向こうで、「ショルンってだれ? 疲れてる? ミリア?」と声がする。


 ────こっ……コロシテ……ッ! 末代までの恥ッ! セントジュエルはここで終わりますありがとうございました。またのご利用お待ちしております。


「……お帰りはあちらです……」
「帰れって言うのか? ちょっと待ってくれ、せっかく着替えたのに」



 顔を伏せ呟くわたしに、くすくすと笑いの混じる声が降ってきて──思わず熱い頬を抑えた。


 うわん。
 このまま伏せてるわけにもいかない……



 
 恥ずかしさでのたうち回りたいのをぐっと抑えて。

 すぅーとひとつ深呼吸。

 意を決し、背中に力を入れて顔を上げ────



 ぱちっ。


 ……かっこいーなー……わー……



 やっぱりこの人、容姿がいいのだ。
 彫刻を思わせる顔立ちは、正装だとより映える。


 ……やっぱりこの人の隣にいたい……

 
 黙って見惚れるわたしの前。
 彼はというと、固まっている。


 ……うん? なんだろう?



「おにーさん?」
「……────……あ、えーと、いや」
「? あ、そか。王族仕様こういう格好は見たことなかったね?」



 慌てた様子で言葉を絞り出した彼に、わたしは恥じらいも動揺もトキメキも力技で包んで微笑んだ。

 一応これでも、姫君だ!
 王族スマイルは得意なのである!

 ──と、血気盛んな自分は笑顔の奥に。

 

 淑やかなドレスが映えるよう背を伸ばし、両裾を腕で掬い上げ・王国の貸衣装ですっかり『陛下』な彼に、ひとつ。厳かに腰を落として──ご挨拶。



「──《ごきげんよう、スタイン陛下。今宵の宴を楽しみにしております》……どう? ちゃんと王女してるでしょ?」
「………………」


 王女のスマイルを送るが、彼は無言だ。



「……どう? ちゃんと王女できてるでしょ?」
「…………」


 ────へんじがない。
「聞こえてる?」
 


 返事がない。
 ただ黙ってこちらを見ながら立っている。対抗してじっと見上げてみる。


『………………』

 なにも言わない。


 あの──……
 ──きい、てる、んだけど、な──っ……?
 目合ってるのに、なんも言わないのは、え──っとぉ……?
 …………はっ!?



「え、なに? 顔になにか着いてる? そんな変だった!?」
「………………いや……………………えーと」


 慌てて顔を触り、身なりを確かめるわたしの前、彼はというと『変』だ。
 視線は妙に泳いでいるし、眉は中央に寄っているし、右手は口元を隠し、左手は腰。そして──視線が忙しい。


 ────んっ??


「……ミリアさん、あー、……ちょっと、待ってくれるか」
「……はい、まちます?」
「あー……、えーと、うん。そうだな」


 ……なんか、ぎこちない?
 そわそわしてる?
 えっ? なに?
 っていうか怒ってる?
 なに? え?



 を、口には出さず。
 じぃっと見上げるわたしの前、彼は、すぅ────っと大きく息を吸い込んで、覚悟を決めたような顔で、言う。



「────よく似合ってる」
「なんでそんな『決死の覚悟』みたいに。」


 わからないおにーさんである。 

 今、戦場に行くような覚悟は必要だっただろーか?
 ……え……?
 死に行くほどの覚悟が必要な……ドレス姿とは一体……



 と、ひとり微妙な疑念の世界へ迷い込むわたしをほったらかしに、おにーさんはというと、いまだに混乱している様子。


 カリカリコリコリとうなじを掻き、視線を惑わせチラチラこちらを見ながら眉を寄せる。



「あ、いや……その、……参ったな……予想の上を行ったというか、……嘘だろ……ッ」
「ん゛? なにが? っていうかレティは?」
「あ、ああ、彼女は」


 
 煮え切らない彼に、ひとつ。
 『思い人』のことを聞いた時。

 おにーさんの声を遮って、兵士の声が廊下に響いた。



 ────「おい! 早くしろ!」「霊廟れいびょうに異常だ!」
 …………霊廟れいびょう……?


「……なんで霊廟れいびょう……? あんなとこで何が」
「────…………すまない。ミリア」



 呟くわたしに固い声。
 端的に危機感を滲ませる彼に、思わず目を向けた瞬間。



「…………『引き寄せ』だ。ヘンリーに会わせてくれ。……それと、霊廟まで案内してくれるか」




 緊張を孕んだ声は、城の廊下に重く沈んでいった。


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