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   2章2部 冒険者

アルスタリアの美少女姉妹

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「これでも飲んでおとなしく待ってて」

 テーブル席に座っているシンヤとトワの前に、コーヒーが出される。

「まったく、なんでこんなことに……」

 そしてサクリはほうきやチリトリを使い、掃除をし始めた。
 というのも現在、室内は割れたカップや花瓶かびんが散乱しているのだ。
 ことの経緯はこうだ。トワがコーヒーを入れるようなことやったことがなかったらしく、シンヤが代わりにやることに。そしてサクリに言われた通りに用意しているのを、トワが興味深そうにながめているという状況がしばらく続いたという。ここまではなんとかなっていたのだが、問題はこのあとで。 


「コーヒーはこれでよし。お茶菓子のクッキーも入れてあとは」
「運ぶのは任せて!」

 シンヤがトレイにコーヒーとクッキーを乗せると、トワが待ってましたと受け取りにきた。

「えーと、ちゃんと運べるか?」
「あはは、用意するのはあまり自信なかったけど、これぐらいはさすがにできるよ!」

 トワは両腰りょうこしに手を当て、ふふんと得意げに主張する。

「うーん、じゃあ、任せた」

 少しイヤな予感がしたが、彼女がやる気満々なので水を差すのは悪いと思い任せることに。

「うん! 行ってくるね! そーと、こぼさないようにと」

 トワはコーヒーをまじまじ見て、こぼさないよう慎重に運んでいく。
 ただトレーの上に意識が集中しすぎている気が。そんなことを思っていると。

「うわっ!? あわわっ!?」

 足が急にもつれてしまったらしく、顔から盛大にこけてしまうトワ。
 それにより運んでいたトレーがちゅうを舞い、乗せていた物が床にぶちまけられる形に。結果、食器がバリンッと割れ、中身が飛び散ってしまった。

「トワ、大丈夫か!?」
「イタタ……、はっ!? やっちゃった!? どうしよう!? とにかく片づけないと!? イタッ!?」

 トワは起き上がり、やらかしたことにあわあわしだす。そして割れた食器を片づけようとするが、破片で指を切ってしまい。

「ちょっと、なにやってるのよ。あっちに掃除道具があるから、それを使って」
「わかった!」

 トワはサクリの指差した掃除道具入れに向かい、ほうきとチリトリを取り出す。そして慌てて戻ろうとするが。

「あっ!?」

 その途中でほうきのの部分が花をいけた花瓶に当たってしまい、床に落としてしまった。そのせいで花瓶がバリンッと割れてしまう。

「あー、もう、なにしてるのよ!」

 これには見てられなかったのか、サクリが席から立ちあがり助けにいってくれ。



 これがこれまでの経緯。これ以上問題を起こされたら困ると、サクリがシンヤたちを座らせ、後片付けをしてくれているのである。律儀りちぎにコーヒーまで入れて、ゆっくりしといてといって。

「ごめんね。サクリちゃん」

 トワがシュンとしながら、頭を下げる。

「いいよ。元はといえば、初めて来た人にも関わらずいろいろやらせて、楽しようとしたあたしが悪いし。でもトワって不器用すぎない? もしかして家事とか全然できないタイプ?」
「――あはは……、これまでまったくやったことなくて……」

 ほおをかきながら、はずかしそうに笑うトワ。

「そういうサクリはすごい手慣れてるよな」

 コーヒーを入れてくれるときも、今の掃除中も手際てぎわがとてもいいのだ。しかも完璧で、日ごろから家事をこなしているのかもしれない。

「あたしの家は昔から父子家庭で、家事はあたしが全部やってるから。父さんはもちろん、お姉ちゃんもガサツで全然向いてないから仕方なくって感じよ」
「それで通りで。トワ、これもいい機会だしサクリに弟子入りしてきたらどうだ?」
「トワの場合、見てられないレベルだから、少しぐらいなら花嫁修業に付き合ってあげてもいいよ。ただしあたしは厳しいから、覚悟かくごして。あたしのお姉ちゃんを見てあげたときなんか、すぐ耐えきれず逃げ出してたしね」

 サクリは腰に手を当て、ビシッと告げる。

「ちょっと遠慮しておこうかな……、あはは……。そういうのはシンヤに全部やってもらえばいいし」

 厳しそうな指導に、おくした様子のトワ。そして彼女はシンヤの上着をぎゅっとつかみ、なにやら上目遣いで頼んできた。

「おいおい、なんでそこまで面倒見ないといけないんだよ。そういうのは補佐ほさの管轄外だ」
「えー、シンヤのケチー」

 却下すると、トワはつかんだシンヤの上着をクイクイしながらくちびるをとがらせてくる。

「残念。お姉ちゃんのために考えた特訓メニューで、みっちりしごいてあげようと思ったのに」

 サクリは肩をすくめ、不敵な笑みを浮かべた。
 これは止めておいて正解だったかもしれない。もし受けていたら、涙目でシンヤの元へ逃げてくるトワの姿が目に浮かんだ。

「ただいまー! サクリ、依頼終わらせてきたよー」

 そこで扉が開き、元気よくレティシアが入ってくる。

「おっ、レティシア」
「シンヤじゃない! こんなところで奇遇きぐうね!」

 レティシアはシンヤがいることに驚くも、気さくに笑いかけてきた。

「ああ、お姉ちゃん、お帰り」
「サクリのお姉ちゃんってレティシアのことだったのか」
「ふふっ、実はアルスタリアの美少女姉妹って、冒険者の間では有名なのよ!」

 得意げにむねを張るレティシア。

「お姉ちゃん、それ自慢するのはずかしいからやめてよ」
「いいじゃん、褒め言葉は素直に受けとめとかないとね!」

 見てられないと視線をそらすサクリに、レティシアはあっけからんに笑う。

「というかサクリ、なんで掃除なんてしてるの?」



「あはは、アタシがいない間に、そんな愉快なことになってたのね!」

 レティシアがこれまでの経緯を聞いて、腹を抱えて笑った。

「お姉ちゃん、笑いごとじゃないよ。こっちは大変だったんだから」

 サクリは掃除を終え受付の席に座りながら、肩をすくめる。

「ごめんごめん。サクリの頭抱えてる姿を思い浮かべちゃって。それにしてもシンヤが冒険者になってくれるだなんて。スカウトする手間がはぶけたね!」

 レティシアが、シンヤへうれしそうにウィンクを。

「オレのことスカウトする気だったのか?」
「ええ、実はどうやって冒険者に引き入れようか、あれから作戦を考えていたのよねー。今ならこんな特典がみたいなやつをいろいろと!」
「じゃあ、ちょっと早く来すぎたってことか」
「ふふっ、確かにもったいないことをしたかもね!」
「ちなみにどんなことを考えていたんだ?」
「冒険者お役立ちセットやお店で使えるクーポン券のプレゼントとか、やさしいセンパイかっこアタシが手取り足取り指導してあげたりとか。ほかにもサクリの手料理で釣ったり、最終手段はちょっと恥ずかしいけど、アルスタリアの美少女姉妹による色仕掛けを交えた勧誘とかを」
「ちょっとお姉ちゃん、なんであたしも巻き込まれてるわけ? しかも最後のは一体なによ?」

 サクリは恨めしげな視線を向けながら抗議を。

「これも人手をどうにかするためよ。あとあと楽になるんだから、ちょっとぐらい協力してくれてもいいでしょ?」
「えー、それはそうかもだけど、この人のためにそこまでする価値があるの?」
「彼のウデに関してはアタシが保証するから。もしシンヤが冒険者になってくれたら、きっといい活躍をしてくれるはずよ」

 レティシアは胸をドンとたたき、力強く宣言を。

「ふーん、お姉ちゃんにそこまで言わせるなんて、少し興味が出てきたよ」

 するとサクリはシンヤを興味ありげに見つめてきた。

「まあ、女の子をはべらせて、たらしなところもあるけど。だからサクリも気をつけなさいよ」
「ふーん、そういう人なんだ」

 しかしレティシアの肩をすくめながらの発言に、サクリのシンヤへの視線が少し冷たいものへと変わってしまう。

「おい、レティシア。なに誤解を生むようなこと教え込んでいるんだ?」
「えー、ほんとのことだからねー」

 おもしろがっているのか、ニヤニヤしてくるレティシア。

「あっ、それとシンヤ、昨日路地裏でアタシにしたようなことサクリにしたら、許さないんだから!」

 そして彼女は真っ赤な顔でシンヤを指さし、釘を刺してきた。

「いやいや、あれはわざとじゃなく事故でだな」
「待ってよ。お姉ちゃん、シンヤになにされたのよ?」
「そんなのいえるわけ」

 レティシアはほおに手を当て、もじもじしだす。

「あんた、お姉ちゃんになにを?」

 サクリの視線が冷ややかなものへと変わる。

「シンヤ、わたしも気になるんだけど?」

 トワがシンヤの上着をつかみ、ジト目で問いただしてきた。

「――トワまで……」

 今のシンヤは女の敵みたいなレッテルを張られ、重々しい空気になってしまう。
 このままではいろいろマズイと、強引に話題を変えることにする。

「レティシア、話をまとめると、オレたちは冒険者になれるってことでいいよな?」
「――ええ、アタシの推薦すいせんということで、迎え入れさせてもらうよ。シンヤがあれなら、その子もそれなりにウデが立つってことでいいのよね」
「ははは、トワはオレよりもすごいから、期待してくれていいぞ。いづれこの世界を救うかもしれない逸材いつざいなんだからな」

 トワの背中をポンポンたたき、はやしたてる。
 テレくさそうにするトワだが、まんざらでもなさそうだ。

「もう、ちょっと、シンヤ」
「わぁ! それはすごく頼もしい! サクリ、二人の冒険者の登録よろしく!」
「はいはい。――手続きは終わったよ。おめでとう、これであなたたちは晴れて冒険者よ」

 レティシアの指示に、サクリが書類にペンを走らせる。

「え? そんな軽い感じで手続きが終わるのかよ?」
「もともと冒険者ギルドは冒険好きが集まって、ノリと勢いで作った組織らしいよ。だから冒険第一で、運営面のシステムとか結構適当。決まりとかもほとんどない。自由気ままに冒険を楽しんでくれってスタイルなの。だからサポート面に関して、あまり期待しないほうがいいよ」
「そういう感じなのか」
「ええ、基本自由だから、依頼を受けるのも好きなタイミングでオッケーよ。人助けもかねてとってくれた方がこちらとしてもうれしいけど、無理強いはしない。それで肝心の冒険がおろそかになったら、申しわけないしね」
「おぉ、それはオレたちにとって、ピッタリなやつだな」

 依頼を回されまくり、忙しい毎日を過ごすことになったらどうしようと思っていたが、これなら安心だろう。シンヤたちとしては依頼でお金を稼ぎながら、冒険を楽しみたかったので都合がよかった。

「うん、そうだね!」
「フフッ、気に入ってくれてなによりね! さて、サクリ、こうなったらさっそくあれの準備をしないとね!」
「シンヤたちが加わってくれたおかげで、少しは余裕ができると思うしいいよ」
「あれってなんだ?」
「それは内緒ないしょ! 楽しみにしといてね!」

 レティシアが意味ありげにウィンクしてくる。

「じゃあ、お姉ちゃん、買い出しをお願い。ついでに二人にいろいろレクチャーしてきてあげたら?」
「オッケー! というわけで二人とも、センパイについてきなさい!」

 こうして冒険者になれたシンヤたちは、さっそくレティシアについていくことに。

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