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   2章4部 ミルゼ教

ミルゼ教のアジト

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「ここは?」

 シンヤが黒い靄から出てきた場所は、 洞窟どうくつ内のとあるフロアのようだ。
 あちこちに設置されたランタンが灯っており、中はわりと明るい。奥の方には扉があり、近くに先ほどの信者の青年が着ていた黒いローブが、何十着も机にたたまれて置かれていた。ちなみにこのフロアにはシンヤ一人だけで、先ほど追っていた信者の青年はいない。おそらくここに転移して来て早々に、このフロアから出て行ったのだろう。扉からはガヤガヤと人の話声が聞こえており、かなりの人数がいるのがわかった。

「どうやらミルゼ教のアジトに、来てしまったみたいだな。戻るのは……、ムリそうか……」

 シンヤが転移してきた場所は、すでになんの 変哲へんてつもない洞窟の壁。ミルゼ教の信者なら起動させあの黒い靄を出せるのだろうが、今のシンヤでは難しいだろう。戻れなくなった以上、先に進むしかなさそうだ。

「潜入するしかないよな。ちょうどやつらになりすませそうなローブも、あることだし」

 このアジトに戻ってきた人用に用意されているであろう、黒いローブを着る。
 そして扉を開け、外の様子をうかがった。

「うわー、ミルゼ教の信者がいっぱいいる……」

 やたら広いフロアには、ざっと三十人を超えるであろう黒いローブを来た信者たちがいた。みななにやら興奮した面持ちで話していたり、祈りを捧げていたりしている。大きなイベントかなにかがあるみたいな雰囲気であった。

「ここはどこかの使われていない鉱山か?」

 広いフロアのあちこちに通路が。壁際にはツルハシやシャベル。鉱石があふれかけている大きな木箱などもちらほらみえる。さらには線路があり、簡易的なトロッコもあった。ただどれも さびれた感じであり、しばらく使われていない様子。どうやら廃坑のようだ。そこをミルゼ教がアジトに使っているのだろう。鉱山内はどこもランタンが灯っており、明るかったといっていい。

「この人数、バレたらやばいな。慎重に行動しないと……」

 シンヤ一人でこの人数を相手にするのは、さすがにキツイ。さらに廃坑内にはまだまだ信者が居そうであり、逃げるのも困難だろう。うまく信者になりすまして、情報を集めなければ。

「さてどう動くか」

 信者にまぎれながら、廃坑内を探索しようと歩き回る。

「はっ!? あれは?」

 そこでふと見知った顔が、とある通路へスタスタと入っていくのを見かけた。
 なのですぐさまそのローブを着た、 小柄こがらな人影を追うことに。

(間違いない! あれはイオだ!)

 盛り上がっている信者たちの横を通り、目的の通路を進む。
 見かけたのは、なんとイオ。彼女もまたミルゼ教を追って、このアジトに潜入していたみたいだ。

「ここまでたどりついているとは。普段は抜けてるが、やっぱり優秀なやつだったんだな。さすがアルマティナ側から派遣された凄ウデの魔法使い。きっと今ごろミルゼ教について、いろいろ調べてくれてるに違いない!」

 期待に むねを膨らませ、彼女を追う。
 先ほどのイオはなにか明確な目的があるかのような、足取りであった。もしかすると手がかりをつかみ、深いところまで探れているのかもしれない。

「イ……、オ……」

 そして通路を抜け、物置部屋に使われていそうな小規模なフロアにたどり着く。
 そこでイオを見つけたのだが。

「すやすや」

 彼女はフカフカのマットの上で、気持ちよさそうに寝ていたという。

「寝てるんかーい!」

 これには盛大にツッコミを入れるしかない。
 なにかを調べていると思いきや、ただ寝むりにきただけだったみたいだ。すぐに追いかけて来たにも関わらず、ここまでの寝りよう。見事なまでの睡眠力である。
 場所が場所なので、とりあえず彼女を起こすことに。

「イオ! 起きてくれ!」
「むにゃむにゃ、なーにー?」

 眠りに入ってすぐだったためか、わりとすんなり起きてくれるイオ。眠そうに目をこすりながら、上体を起こしてくる。

「あ、しんやだー」
「まったく、のんきに寝てる場合じゃないだろ。ここは敵地だぞ」
「だってちょうどお昼寝の時間帯で、眠かったからー」
「だからって……、図太い神経してるなー」
「えっへん、いおにかかれば、どんなところでもお昼寝できちゃうー」
「ちなみに褒めてないからな」
「うゆ?」

 シンヤのツッコミに対し、不思議そうに小首をかしげるイオ。

「ところでシンヤはどうしてここにー?」
「イオを探しにきたんだ。昨日の夜、一人で行かせてしまったのが心配だったのと、あとキミに会わないといけない用事があってさ」
「ようじー?」 
「イオはアルマティナから、邪神の眷属攻略の件で派遣された魔法使いなんだろ? だから冒険者側の人間として、迎えにきたんだよ」
「しんやは冒険者なのー?」
「ああ、しかも邪神の眷属攻略チームの一員でもある」
「しんや、いおちょっと用事を思い出したから、行くねー」

 イオがこのままではマズイと、逃げ出すように去っていこうとする。

「おっと、逃がさないぞ。そういうわけだから、アルマティナのお偉いさんの助言で、イオを確保しにきたというわけだ」

 そんな彼女の肩をつかみ、笑顔で告げた。

「やだー、いおはもう少しこの自由でのんびりとした時間を、 満喫まんきつするー」

 するとイオは首を横にブンブン振り、うったえてくる。

「もう少しってどれぐらいだよ?」
「あと一か月ぐらいー」
「このミルゼ教の件を終えたら、すぐに冒険者ギルドに行くぞ」

 甘すぎるその答えに、即連行が決定した。

「ひどいー」                                
「2,3日程度ならまだかわいげがあって、見逃してやらないこともなかったが、さすがに1か月はサボりすぎだ。逃げられそうだし、問答無用で連行する」
「そんなー。いおのあるすたりあでのバカンスがー」

 ガーンと心からのショックを受けるイオ。

「ははは、派遣されてきたからには、しっかり働いてもらうからなー」

 彼女の頭にポンポン手を当てながら、笑いかけた。

「人でなしにつかまったー」
「人聞きの悪いこと言わないでくれ。それよりまずはこのミルゼ教の件をどうにかしないといけない。イオはどうやって潜入したんだ?」
「信者になるふりをして、ここにつれてきてもらったー」
「へー、やるじゃないか。それでなにかわかったことは?」
「信者の何人かになにか禍々(まがまが)しい力を感じたり、すごい転移方法を使ってたり。いろいろ興味深いものは見れたけど、それ以上のことはまだわからないー」

 イオは残念そうに首を横に振る。

「ふむ、進展はまだオレと同じぐらいか」
「でも一つ大きな手掛かりがあるー。なんかもうすぐしたらここで、大きな祭典があるんだってー。そこでミルゼ教の女神による、 奇跡きせきが見れるとか。だから信者や賛同者がいっぱい集まってるらしいよー」
「ははは、それはすごいタイミングで潜入できたみたいだ。せっかくだしその軌跡とやらを おがませてもらおうか」

 祭典、ミルゼ教の女神の奇跡。もはやミルゼ教の内情を、大きく知れるチャンス。うまくいけばあちらの核心を突ける情報が手に入るかもしれない。

「うん、だから祭典が始まるまで、いおはお昼寝しとこうとー」

 イオは再びフカフカのマットに寝ころび、そのまま寝ようとする。

「いや、その間に聞き込みとか、調査できることいっぱいあるだろ」
「えー、めんどくさいー。しんやが代わりにやってきてー」

 ひらひらと手を振り、シンヤを見送ろうとするイオ。

「イオも来るんだ。こんな敵地のど真ん中でお昼寝とか、危なすぎるだろ。それに一人より、二人の方がなにかあったとき対処しやすいしな。ほら、いくぞ」

 彼女の手を引っ張る形で、マットから立たせる。

「いやー、いおはお昼寝するー」
「戻ったら、いくらでもさせてやるからがんばろうなー」

 嫌がるイオを引っ張り、二人で調査を開始するのであった。
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