72 / 91
2章4部 ミルゼ教
ミルゼ教のアジト
しおりを挟む「ここは?」
シンヤが黒い靄から出てきた場所は、 洞窟内のとあるフロアのようだ。
あちこちに設置されたランタンが灯っており、中はわりと明るい。奥の方には扉があり、近くに先ほどの信者の青年が着ていた黒いローブが、何十着も机にたたまれて置かれていた。ちなみにこのフロアにはシンヤ一人だけで、先ほど追っていた信者の青年はいない。おそらくここに転移して来て早々に、このフロアから出て行ったのだろう。扉からはガヤガヤと人の話声が聞こえており、かなりの人数がいるのがわかった。
「どうやらミルゼ教のアジトに、来てしまったみたいだな。戻るのは……、ムリそうか……」
シンヤが転移してきた場所は、すでになんの 変哲もない洞窟の壁。ミルゼ教の信者なら起動させあの黒い靄を出せるのだろうが、今のシンヤでは難しいだろう。戻れなくなった以上、先に進むしかなさそうだ。
「潜入するしかないよな。ちょうどやつらになりすませそうなローブも、あることだし」
このアジトに戻ってきた人用に用意されているであろう、黒いローブを着る。
そして扉を開け、外の様子をうかがった。
「うわー、ミルゼ教の信者がいっぱいいる……」
やたら広いフロアには、ざっと三十人を超えるであろう黒いローブを来た信者たちがいた。みななにやら興奮した面持ちで話していたり、祈りを捧げていたりしている。大きなイベントかなにかがあるみたいな雰囲気であった。
「ここはどこかの使われていない鉱山か?」
広いフロアのあちこちに通路が。壁際にはツルハシやシャベル。鉱石があふれかけている大きな木箱などもちらほらみえる。さらには線路があり、簡易的なトロッコもあった。ただどれも 寂れた感じであり、しばらく使われていない様子。どうやら廃坑のようだ。そこをミルゼ教がアジトに使っているのだろう。鉱山内はどこもランタンが灯っており、明るかったといっていい。
「この人数、バレたらやばいな。慎重に行動しないと……」
シンヤ一人でこの人数を相手にするのは、さすがにキツイ。さらに廃坑内にはまだまだ信者が居そうであり、逃げるのも困難だろう。うまく信者になりすまして、情報を集めなければ。
「さてどう動くか」
信者にまぎれながら、廃坑内を探索しようと歩き回る。
「はっ!? あれは?」
そこでふと見知った顔が、とある通路へスタスタと入っていくのを見かけた。
なのですぐさまそのローブを着た、 小柄な人影を追うことに。
(間違いない! あれはイオだ!)
盛り上がっている信者たちの横を通り、目的の通路を進む。
見かけたのは、なんとイオ。彼女もまたミルゼ教を追って、このアジトに潜入していたみたいだ。
「ここまでたどりついているとは。普段は抜けてるが、やっぱり優秀なやつだったんだな。さすがアルマティナ側から派遣された凄ウデの魔法使い。きっと今ごろミルゼ教について、いろいろ調べてくれてるに違いない!」
期待に 胸を膨らませ、彼女を追う。
先ほどのイオはなにか明確な目的があるかのような、足取りであった。もしかすると手がかりをつかみ、深いところまで探れているのかもしれない。
「イ……、オ……」
そして通路を抜け、物置部屋に使われていそうな小規模なフロアにたどり着く。
そこでイオを見つけたのだが。
「すやすや」
彼女はフカフカのマットの上で、気持ちよさそうに寝ていたという。
「寝てるんかーい!」
これには盛大にツッコミを入れるしかない。
なにかを調べていると思いきや、ただ寝むりにきただけだったみたいだ。すぐに追いかけて来たにも関わらず、ここまでの寝りよう。見事なまでの睡眠力である。
場所が場所なので、とりあえず彼女を起こすことに。
「イオ! 起きてくれ!」
「むにゃむにゃ、なーにー?」
眠りに入ってすぐだったためか、わりとすんなり起きてくれるイオ。眠そうに目をこすりながら、上体を起こしてくる。
「あ、しんやだー」
「まったく、のんきに寝てる場合じゃないだろ。ここは敵地だぞ」
「だってちょうどお昼寝の時間帯で、眠かったからー」
「だからって……、図太い神経してるなー」
「えっへん、いおにかかれば、どんなところでもお昼寝できちゃうー」
「ちなみに褒めてないからな」
「うゆ?」
シンヤのツッコミに対し、不思議そうに小首をかしげるイオ。
「ところでシンヤはどうしてここにー?」
「イオを探しにきたんだ。昨日の夜、一人で行かせてしまったのが心配だったのと、あとキミに会わないといけない用事があってさ」
「ようじー?」
「イオはアルマティナから、邪神の眷属攻略の件で派遣された魔法使いなんだろ? だから冒険者側の人間として、迎えにきたんだよ」
「しんやは冒険者なのー?」
「ああ、しかも邪神の眷属攻略チームの一員でもある」
「しんや、いおちょっと用事を思い出したから、行くねー」
イオがこのままではマズイと、逃げ出すように去っていこうとする。
「おっと、逃がさないぞ。そういうわけだから、アルマティナのお偉いさんの助言で、イオを確保しにきたというわけだ」
そんな彼女の肩をつかみ、笑顔で告げた。
「やだー、いおはもう少しこの自由でのんびりとした時間を、 満喫するー」
するとイオは首を横にブンブン振り、うったえてくる。
「もう少しってどれぐらいだよ?」
「あと一か月ぐらいー」
「このミルゼ教の件を終えたら、すぐに冒険者ギルドに行くぞ」
甘すぎるその答えに、即連行が決定した。
「ひどいー」
「2,3日程度ならまだかわいげがあって、見逃してやらないこともなかったが、さすがに1か月はサボりすぎだ。逃げられそうだし、問答無用で連行する」
「そんなー。いおのあるすたりあでのバカンスがー」
ガーンと心からのショックを受けるイオ。
「ははは、派遣されてきたからには、しっかり働いてもらうからなー」
彼女の頭にポンポン手を当てながら、笑いかけた。
「人でなしにつかまったー」
「人聞きの悪いこと言わないでくれ。それよりまずはこのミルゼ教の件をどうにかしないといけない。イオはどうやって潜入したんだ?」
「信者になるふりをして、ここにつれてきてもらったー」
「へー、やるじゃないか。それでなにかわかったことは?」
「信者の何人かになにか禍々(まがまが)しい力を感じたり、すごい転移方法を使ってたり。いろいろ興味深いものは見れたけど、それ以上のことはまだわからないー」
イオは残念そうに首を横に振る。
「ふむ、進展はまだオレと同じぐらいか」
「でも一つ大きな手掛かりがあるー。なんかもうすぐしたらここで、大きな祭典があるんだってー。そこでミルゼ教の女神による、 奇跡が見れるとか。だから信者や賛同者がいっぱい集まってるらしいよー」
「ははは、それはすごいタイミングで潜入できたみたいだ。せっかくだしその軌跡とやらを 拝ませてもらおうか」
祭典、ミルゼ教の女神の奇跡。もはやミルゼ教の内情を、大きく知れるチャンス。うまくいけばあちらの核心を突ける情報が手に入るかもしれない。
「うん、だから祭典が始まるまで、いおはお昼寝しとこうとー」
イオは再びフカフカのマットに寝ころび、そのまま寝ようとする。
「いや、その間に聞き込みとか、調査できることいっぱいあるだろ」
「えー、めんどくさいー。しんやが代わりにやってきてー」
ひらひらと手を振り、シンヤを見送ろうとするイオ。
「イオも来るんだ。こんな敵地のど真ん中でお昼寝とか、危なすぎるだろ。それに一人より、二人の方がなにかあったとき対処しやすいしな。ほら、いくぞ」
彼女の手を引っ張る形で、マットから立たせる。
「いやー、いおはお昼寝するー」
「戻ったら、いくらでもさせてやるからがんばろうなー」
嫌がるイオを引っ張り、二人で調査を開始するのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる